地球発見 まだまだ知らない「ちきゅう」がある。

CDEX

船上でリアルタイムに可視化する

コアの試料のX線CT画像

 LWDでは各種センサーによって取得したデータを計測装置内のメモリに記録し、後に回収して詳細な分析を行う。実はそればかりでない。取得したデータをまさにリアルタイムで海上の「ちきゅう」に伝送しているのだ。最深部のドリルビットと「ちきゅう」を結ぶドリルパイプの総延長は数千mにも及ぶ。いかにしてデータを送っているのだろうか?
 その伝送路となっているのは、掘削パイプ内を循環している「泥水」である。計測装置に搭載した伝送システムによって、泥水の流れの一部をオンオフし、圧力の変化としてパルス信号を発信する。それを船上の受信機で収集するのだ。伝送できる容量に限界があるため、メモリに保存するデータと比較すると量と精度は劣るが、それでも地球深部で計測されたデータがほぼリアルタイムに船上のモニターで可視化されるのである。
「まさに掘削中の生の情報です。モニターを研究者たちと一緒に見ながら一喜一憂していました」と、今回の航海に乗船した真田技術研究副主幹は話す。研究者たちにとっては、地球の内部をリアルタイムに見つめている感覚なのだろう。船上での興奮が伝わってくるようだ。
 これらデータは、掘削中の地層の物理特性を推定するばかりでなく、掘削の状況を判断する上でも貴重な情報をもたらす。先に紹介したIODP第343次研究航海では、LWDによって巨大地震を引き起こしたプレート境界断層帯を特定し、長期センサー設置やコア採取の深度を決定した。今回の航海でも、南海トラフにおける地震・津波発生メカニズムの解明に向けた膨大かつ貴重な情報を取得している。
 冒頭でLWDの特徴を医療の検診にたとえて紹介したが、画像診断を例にあげても、最近では極小の癌を発見したり、動き続ける心臓を3Dアニメーションで表示できるようにまで進歩している。それはLWDの未来においても同様だろう。近い将来、断層の変化や地下水の動きをリアルタイムに可視化できる日が来るかもしれない。LWDの進化は、地球深部探査に新たな可能性をもたらすはずだ。