紀伊半島沖熊野灘は、百年から百五十年おきにくりかえし起きる東南海地震の震源域とされています(図1)。
図1:東南海地震の震源域
今世紀前半にも起きる恐れのある次の東南海地震にそなえ、より震源に近い所から震源域を監視するために、2006年から「地震・津波観測監視システム(DONET)」(図2)の開発と構築が進められてきました。そのDONETが本格的に動き始めたので、お知らせします!
図2:DONETのイメージ図
地震が起きると、そのゆれは震源からまわりに広がります(図3)。その際、まず伝わる速さの速い「弱いゆれ」が伝わって、そのあとに伝わる速さのおそい「強いゆれ」が伝わります。実は、それらのゆれの間には、場所によって数秒から十数秒の差があります。ですから、最初の弱いゆれをとらえて、強いゆれが伝わってくる前にみなさんに地震が来ることを知らせることができれば、避難や防災行動の時間をかせげます。そこで、地震のゆれや大きさ、方向を観測するために、地震計が陸を中心に各地に設置されています。
図3:地震の伝わり方のちがいを利用した緊急地震
けれど、東南海地震の震源は海底なので、陸の地震計では発生をとらえるまでに時間がかかってしまいます。そこで、より震源近くで観測するために誕生したのがDONETです。
DONETは、耐圧容器に入った高精度な地震計や、津波の発生をとらえる水圧計などの観測装置を震源近くの水深1,900〜4,300mの海底に20カ所設置して、全長約450kmの海底ケーブルでつないだシステムです(図4)。
図4:DONET設置イメージ図
まるで震源域に聴診器をあてるように、観測装置で震源近くを24時間ずっと監視します。海底は陸より雑音が少なく静かなので、人間では気づかない小さなゆれや変化も観測することができます。
観測データは海底ケーブルを通して、三重県尾鷲市に設置した陸上局を経由して、常にJAMSTECなどに届くようになっています。地震の発生時には、その観測データが震源や震度などの解析に役立てられます。
DONETは2010年1月から実際の海域で構築が始まり(参考:2010年1月14日発表)、2011年7月にすべての観測装置の設置が完了(図5)しました。そしてさまざまな試験を終え、2011年8月から地震計の観測データの防災科学研究所と気象庁への提供を始めました。
図5:観測装置の設置に大かつやくの無人探査機「ハイパードルフィン」
「DONETによって、地震の検知が最大十数秒早くなるでしょう」(図6)と金田義行博士は話します。これを生かした緊急地震速報に向けて、いま気象庁では準備が進められています。
図6:陸上の地震計に比べて、DONETが何秒速く地震をとらえるかを示します。
震源が赤色の濃い位置にあるほど、DONETは陸上よりも早く地震をとらえます。たとえば、16秒の線近くで地震が起きた時には、DONETは陸上の地震計より16秒ほど早く地震をとらえるのです。
地震をふせぐことはできません。日本は、これまでに何度も大きな被害を受けてきました。その被害をできるかぎり減らすために、JAMSTECは研究や観測装置の開発を続けます。
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