セミナー情報(2015年度)

第4回 生命機能研究グループセミナー

第4回生命機能研究グループセミナー様子 第4回生命機能研究グループセミナー様子
セミナー風景 上:中野政之 助教 下:和田崇之 助教
(参加者20名)
開催日時
2016年2月26日(金)14:30~15:30
開催場所
横須賀本部本館3階 大会議室
講演者
中野政之(長崎大学熱帯医学研究所 細菌学分野 助教)
和田崇之長崎大学熱帯医学研究所 国際保健学分野 助教)
ホスト
布浦拓郎(生命理工学研究開発センター)
要旨
  1. 「ピロリ菌が産生するvacuolating cytotoxin (VacA)の感染時における役割」/中野政之
  2. Helicobacter pylori(ピロリ菌)は、胃炎などの慢性症状から胃ガンや胃潰瘍など重篤な疾患を引き起こす原因菌として知られている。ピロリ菌が産生するタンパク毒素vacuolating cytotoxin(VacA)は、宿主細胞の受容体を介して多様な機能を発揮する。これまでの研究より、VacA が胃潰瘍の形成に関与することやピロリ菌の発ガン因子であるcytotoxin-associated gene A (CagA)の宿主細胞内での安定性に関与することなどが報告され、VacA がピロリ菌の病原性への関与が示唆されている。
    最近になって、我々はVacA が宿主細胞の多様な機能を制御するc-Src のリン酸化をVacA 受容体であるreceptor-protein tyrosine phosphatase (RPTP) αを介して促進することを新たに発見した。ピロリ菌感染においてc-Src のリン酸化は重要な意味を持つ。つまり、CagA の発ガン作用等の機能を発揮するには、宿主細胞内でリン酸化c-Src によるCagA のリン酸化が必須である。そこで、VacAがCagA のリン酸化への関与ついて、培養細胞を用いた感染実験で検証した。
    その結果、1)vacA 遺伝子欠損ピロリ菌は野生型ピロリ菌と比較して顕著なリン酸化CagA 量の減少が認められたこと、2)siRNA によりRPTPαの発現抑制することでコントロールsiRNA を導入した細胞と比較して有意なリン酸化CagA 量の減少が認められたこと、3)vacA 遺伝子欠損ピロリ菌感染細胞に精製VacA を添加することで、リン酸化CagA 量の回復が認められた。この結果より、VacA がRPTPαを介してCagA のリン酸化を促進することが明らかとなった。
    今回の研究に得られた成果は、単にVacA がRPTPαを介した新規機能を発見したことに留まらず、VacA がCagA と宿主細胞内における機能的な相互作用をすることでピロリ菌の病原性に重要な役割を担っていることを示唆するものである。

  3. 「結核菌の遺伝的多様性:公衆衛生への応用と日本結核史」/和田崇之
  4. 現在、わが国の結核患者数は年間約2 万人を数え、世界的には中蔓延国として位置付けられる。慢性経過を辿ることや入院治療を要することが多く、患者に著しい社会的負担を及ぼすため、その対策は今なお重要である。中でも結核患者の感染源究明は公衆衛生上不可欠であり、患者由来株の遺伝多型解析はその情報源として有用である。日本国内では結核菌のゲノム配列上に点在する反復配列多型 (VNTR) をターゲットとした型別解析が導入され、各地方自治体において普及が進んでいる。
    日本の結核罹患率が高い理由には、我が国が20 世紀初頭から中盤にかけて、世界的にも例のない結核の大流行を経験したことが挙げられる。結核菌は感染後、数十年の期間を経て発症することも多く、一過性の流行であってもその後の地域浸淫度に大きな影響を与える。我が国における結核流行の履歴(=日本結核史)とそこから生じた結核菌の遺伝学的特性、地域特性の理解は、公衆衛生上の需要と学術的興味の接点であり、遺伝多型解析はその理解の糸口となりうる。
    本セミナーでは、公衆衛生医学からの需要に牽引されて見出されてきた国内結核菌の遺伝的特異性について紹介するとともに、日本結核史を紐解くツールとしての可能性について議論したい。


第11回 新機能開拓研究グループセミナー

第11回新機能開拓研究グループセミナー様子
セミナー風景(参加者30名)
開催日時
2016年2月5日(金)15:00~16:00
開催場所
横須賀本部
タイトル
Cruising inside cells
講演者
宮脇敦史理化学研究所 脳科学総合研究センター 副センター長)
ホスト
出口 茂(海洋生命理工学研究開発センター)
要旨
細胞の中を動き回る生体分子の挙動を追跡しながら、ふと、大洋を泳ぐクジラの群を想い起こす。クジラの回遊を人工衛星で追うアルゴスシステムのことである。背びれに電波発信器を装着したクジラを海に戻す時、なんとかクジラが自分の種の群に戻ってくれることをスタッフは願う。今でこそ小型化された発信器だが昔はこれが大きかった。やっかいなものをぶら下げた奴と、仲間から警戒され村八分にされてしまう危険があった。クジラの回遊が潮の流れや餌となる小魚の群とどう関わっているのか、種の異なるクジラの群の間にどのようなinteractionがあるのか。捕鯨の時代を超えて、人間は海の同胞の真の姿を理解しようと試みてきた。
光学顕微鏡を使うバイオイメージング技術において、電波発信器の代わりに活躍するのが発光・蛍光プローブである。生体分子の特定部位にプローブをラベルし細胞内に帰してやれば、外界の刺激に伴って生体分子が踊ったり走ったりする様子を可視化できる。発光・蛍光の特性を活かせば様々な情報を抽出できる。今生物学はポストゲノム時代に突入したと言われる。ポストゲノムプロジェクトを云々するに、より実際的な意味において、細胞内シグナル伝達系を記述するための同時観測可能なパラメータをどんどん増やす試みが重要である。我々は、細胞の心をつかむためのスパイ分子をどんどん開発している。材料となるのは主に蛍光タンパク質である。自ら発色団を形成して蛍光活性を獲得するタンパク質として、クラゲやサンゴ・イソギンチャクに由来するGFPやRFPを活用することができる。さらに、最近我々は、ニホンウナギに由来する蛍光タンパク質UnaGを発見、UnaGが天然色素ビリルビンを取り込んで蛍光性発色団に仕立てるメカニズムを解明した。近年の遺伝子導入技術の進歩のおかげで、こうした蛍光タンパク質を利用したスパイ分子は今後ますます活躍すると期待される。
超ミクロ決死隊を結成し、微小管の上をジェットコースターのように滑走したり、核移行シグナルの旗を掲げてクロマチンのジャングルに潜り込んだりして細胞の中をクルージングする、そんなadventurousな遊び心をもちたいと思う。大切なのは科学の力を総動員することと、想像力をたくましくすること。そしてwhale watchingを楽しむような心のゆとりがserendipitousな発見を引き寄せるのだと信じている。

第10回 新機能開拓研究グループセミナー

第10回新機能開拓研究グループセミナー様子
セミナー風景(参加者20名)
開催日時
2015年12月9日(水)15:00~16:00
開催場所
横須賀本部海洋生態研究棟1階 第三セミナー室
タイトル
加速器を用いた構造と物性の研究~固体から生体物質まで
講演者
瀬戸秀紀高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所 副所長)
ホスト
出口 茂(海洋生命理工学研究開発センター)
要旨
電子や陽子などの荷電粒子を光速近くまで加速する加速器を用いると、素粒子・原子核物理の研究だけでなく、発生する二次粒子を用いて物質・生命科学研究も行うことができる。高エネルギー加速器研究機構では、電子蓄積リングから発生 する放射光や、陽子を原子核にぶつけて得られる中性子及びミュオンを用いて、金属や磁性体などの固体から高分子などのソフトマター、更にはタンパク質など の生体分子に至る様々な物質の構造と性質を調べている。本講演ではこれらの加速器を用いた研究の概要を説明するとともに、最新のソフトマター研究の例を紹介する。

第9回 新機能開拓研究グループセミナー

第9回新機能開拓研究グループセミナー様子
セミナー風景(参加者16名)
開催日時
2015年11月6日(金)15:00~
開催場所
横須賀本部海洋生態研究棟1階 第三セミナー室
タイトル
木部細胞分化にみる自律的な空間パターンの形成機構
講演者
小田祥久(国立遺伝学研究所 新分野創造センター 准教授)
ホスト
出口 茂(海洋生命理工学研究開発センター)
要旨
パターン形成は生物の発生のさまざまな過程で現れる現象であり、生体の機能と形態形成の重要なプロセスを担っている。本セミナーでは植物細胞をモデルにしたパターン形成の研究を紹介したい。植物細胞は細胞表面に適切なパターンで細胞壁を沈着させることにより細胞の形態と機能を制御している。その顕著な例として、木部細胞ではリグニン化した細胞壁を螺旋、網目、孔紋などの幾何学的なパターンで厚く沈着することにより、水輸送が可能な筒状構造と適度な強度を同時に実現している。本研究では、木部細胞の分化誘導系を開発し、このような細胞壁の沈着パターンを構築する仕組みを解析してきた。その結果、Rho型低分子量 GTPase、および微小管の重合、脱重合に関わる因子を同定し、これらの因子が細胞自立的にパターンを作り出していることが明らかとなってきた。細胞壁の沈着パターンを構築する分子実体と仕組みについて最新の知見を紹介したい。

第8回 新機能開拓研究グループセミナー

第8回新機能開拓研究グループセミナー様子
セミナー風景(参加者15名)
開催日時
2015年11月5日(木)15:00~
開催場所
横須賀本部本館1階 第一セミナー室
タイトル
細胞を操作するソフトマテリアルの力学場設計
講演者
木戸秋 悟 九州大学 先導物質化学研究所 教授)
ホスト
出口 茂(海洋生命理工学研究開発センター)
椿 玲未(海洋生命理工学研究開発センター)
要旨
細胞は生体内・生体外の環境において、周囲場の力学的特性を鋭敏に検知し、そのシグナルを解釈して自らの行動や機能を制御する。このような細胞の力覚特性の分子生物学的メカニズムの理解はメカノバイオロジーの中心課題の一つである。この課題に対しては、細胞周囲の力学場を自在に設計し、系統的に場と細胞の力学相互作用を把握するための技術と実験系の確立が求められる。我々はハイドロゲルの精密マイクロ弾性パターニング技術を開発し、細胞のメカノバイオロジックな応答の誘導条件を種々明らかにし、細胞の行動と機能を操作する材料力学場の設計指針を確立しつつある。細胞運動や細胞分化の操作に関する最近の成果について紹介する。

海洋生命理工学研究開発センター/SIP生態系観測手法開発ユニット 合同セミナー

開催日時
2015年7月28日(火)15:00~
開催場所
横須賀本部本館1階 第一セミナー室
タイトル
窒素循環に関わる遺伝子群を網羅的に解析するNiCEチップと、氷河生態系における窒素循環の解明
講演者
瀬川高弘(国立極地研究所 新領域融合研究センター 特任助教)
ホスト
布浦拓郎(海洋生命理工学研究開発センター)
要旨
既存のプライマーを組み合わせて窒素循環に関わる遺伝子群をハイスループットPCRシステムにて網羅的に検出し、次世代シークエンサーを用いて遺伝子解析をおこなう窒素循環チップ(NiCE chip; NItrogen Cycle Evaluation Chip)を紹介する。 また、氷河の表面にはクリオコナイトと呼ばれる暗色の不純物が堆積しており、そこには多様な生物が存在し、特殊な生態系を形成している。その概要や氷河生態系での窒素循環について紹介する。

第7回 新機能開拓研究グループセミナー

第7回新機能開拓研究グループセミナー様子
セミナー風景(参加者16名)
開催日時
2015年6月11日(木)15:30~16:30
開催場所
横須賀本部本館1階 第二セミナー室
タイトル
On Marine Origins of Biological Materials
講演者
Dr. Ingrid Weiss (Head of Biomineralization, Leibniz Institute for New Materials)
ホスト
出口 茂(海洋生命理工学研究開発センター)
要旨
Early evolution of metazoan development happened in the sea, dating back to pre-cambrian times. A phenomenon called the "Cambrian diversification" or "Cambrian explosion" comprises the discovery of about 543 million years old fossils. Such fossils of marine origin indicate that the big variety of modern animal body plans must have diversified within a very limited time span. Mollusc shells are good model systems to explore some basic requirements in terms of the biological toolkit. Apart from that, these animals developed the potential to encode extracellular "self-organizing" materials with hierarchical textures, nano- to micron sized. Such mineralized composite materials not only superiorly mechanically protected the soft body of the animal from predators, but also efficiently ensured "survival" of the shell material over millions of years in the fossil record. Direct reconstruction of molecular and cellular key events of that time period, long after the soft body parts including ancient DNA have disappeared, seems practically impossible. Based on several lines of evidences, some light will be shed on ancient mechanistic relationships between materials science and biology, by investigating the case of a chitin polymerizing, transmembrane motor enzyme of marine bivalve molluscs.

第3回 生命機能研究グループセミナー

開催日時
2015年4月16日(木)15:30~
開催場所
横須賀本部本館3階 大会議室
タイトル
ここまでわかった嫌気性アンモニア酸化細菌の生理生態学的特性
講演者
押木 守長岡工業高等専門学校 環境都市工学科 助教)
要旨
嫌気性アンモニア酸化(anammox)細菌は1990年代までその存在が見過ごされていた微生物であるが、全球スケールの窒素循環に甚大な寄与をしていることが明らかとなっている。本セミナーでは、anammox細菌の発見から現在までの研究史を振り返り、これまでに明らかとなったanammox細菌の生理生態学的特性について紹介を行う。

海洋生命理工学研究開発センターセミナー 新研究員 自己紹介セミナー

開催日時
2015年4月14日(火)14:00~15:20
開催場所
横須賀本部 海洋生態系研究棟1F 第3セミナー室
講演者
清水啓介(海洋生命理工学研究開発センター)
横川太一(海洋生命理工学研究開発センター)
要旨
  1. 「貝がら形成メカニズムから探る貝類の形態進化」/清水啓介
  2. 軟体動物の多くは石灰化した外骨格である貝殻をもち、 様々な環境への進出を可能とした重要な形質のひとつである。貝殻の枚数や形は非常に多様であり、化石としても残りやすいため、貝殻形態の進化に関する理論形態学的な研究はこれまでに数多く行われてきた。しかし。実際に貝殻形成および貝殻成長がどのような遺伝子によって制御されているかについては不明であった。今回、貝殻形成・成長の分子メカニズムに着目し、巻貝に特徴的な貝殻形態である「らせん状の貝殻」が分泌成長因子をコードする遺伝子dppの左右非対称な発現によって制御されていることを明らかにした。さらに、オウムガイを用いた実験から巻貝と同様のメカニズムによってアンモナイトを含む頭足類の貝殻のらせん成長が制御されている可能性が示唆された。本研究成果により、化石種を含めたより長いタームスケールでの貝殻形態の進化プロセスと発生プロセスの両方を理解する研究が今後期待される。
    本セミナーの後半では、新たな研究プロジェクトである「翼足類の貝殻形成メカニズムと海洋酸性化に対する応答」の研究計画についても簡単に紹介する。

  3. 「海洋生態系における細菌群集が担う炭素循環過程」/横川太一
  4. 現在までに実施してきた広域観測(太平洋中央部の南北断面、北大西洋深層水流に沿った北半球断面、北太平洋外洋域)の結果から、大洋スケールにおいて、 細菌生物量・生産量は非常に大きく変動することを明らかにした。この結果から、北太平洋では、中深層における細菌生物量・生産量が粒子態有機炭素 (POC)フラックスとの強い共役関係があること、とくに、沈降するPOCのほとんどが中深層に生息する細菌群集に利用されていることが明らかになった。一方で、大西洋では水塊構造が細菌群集の動態に強く影響を与えているという傾向がとらえられた。
    これらの観測結果は、表層の基礎生産分布および水塊構造の特徴によって、中深層に異なった有機物場が形成されること、そして、それぞれの有機物場に応答して、細菌生物量・生産量の動態が制限されていることを示している。また、この細菌群集の動態は、中深層生態系における炭素循環過程の制御に強く寄与していることが予想される。したがって、細菌生物量・生産量の時空間分布パターンの把握とその変動要因の解析は、全海洋規模での炭素循環過程の理解に重要である。
    自己紹介セミナーでは、上記の細菌生物量・生産量の広域高解像度空間分布データを基にした細菌群集を介した炭素循環過程の解析結果に加え、自身の行ってきた研究の概略と生命理工学研究開発センターで進める予定の研究について紹介する。