摩擦熱から断層の動きを探る
この研究プロジェクトJFASTの大きな目的は二つ。断層周辺の温度を実際に計測し、断層のすべりによって生じた摩擦熱の変化を把握することと、実際に地質試料を採取し、断層周辺の物質を知ることだ。2か所を掘削し、最初の掘削孔には、温度センサーを設置し、断層付近とそれ以外の場所の温度の違いを測定する。もうひとつの掘削孔には、計測センサーの設置とともに、地震を引き起こしたと推定される断層を含む地層を採取する。
地震発生時に断層が滑ることによって生じる摩擦熱は、断層とその周辺の温度の変化から求めることができる。摩擦熱は断層の動きや地震発生の過程を探るための大きな手掛かりであり、今後起こる地震の規模の把握にも役立つと考えられている。「地震発生時の摩擦熱により断層の温度は急上昇しますが、約2年後には周囲の地層に熱を奪われ元の温度に戻ってしまいます。ですから、なるべく早く温度を測定する必要があるのです」と研究支援統括である地球深部探査センターの江口暢久技術主幹は説明する。また、採取したサンプルからは、岩石の性質が分析できる。地震時に断層を挟んだ岩盤同士が高速で擦れあうと、それらの岩石は実際にどう変わるのかを実験し、変質した岩石などから断層がすべって巨大地震を引き起こすときの物質的な重要な条件を探る。
「ちきゅう」には、世界各国の研究者が集結し、この科学掘削により新しい知見を得て、将来に活かそうと決意を固めている。「この掘削調査は大変むずかしい掘削です。困難も多いのですが、得られるものも多い。東日本震災を実際に引き起こした断層での出来事を科学的に理解できれば、他の沈み込み帯での巨大地震や津波の規模も今以上の精度で想定できると期待しています」(江口技術主幹)。