2013年 2月 8日
独立行政法人海洋研究開発機構
1.概要
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)海洋工学センター海洋技術開発部の石橋正二郎技術研究主任らの研究グループは、新規開発した海中3Dレーザースキャナーを新型無人探査機「おとひめ」に搭載し、光学カメラでは視認できない距離(高度:海底からの高さ)から広範囲の海底面3Dデータを取得することに成功しました。
深海において探査機を用いたレーザースキャニングは、世界的にも例のない取組であり、これまでのソナーシステムを用いた遠距離(高高度)での海底観測や、光学カメラを用いたごく近距離(低高度)での海底観測に加わる、中距離(中高度)での新たな海底観測ツールとして、深海における多様な用途への活用・応用が期待されます。
2.背景(海中3Dレーザースキャナーの開発)
現在、海底調査で使用される観測ツールとしては、ソナーシステムや光学カメラがよく知られています。このうちソナーシステムは、海中での減衰が小さい音波を用いて、遠距離から広範囲の海底観測に使われていますが、高精度な海底地形データの取得には不向きです。一方、光学カメラは、光りの届く範囲であれば詳細な海底画像を取得することが可能ですが、光の減衰が著しい海中では海底からごく近距離からの撮影が余儀なくされるため、その取得画像は非常に狭い範囲のものとなってしまいます。このため、中距離で詳細な海底観測を提供するツールの技術開発が必要とされていました。
そこでJAMSTECは、数年前より海中におけるレーザー光の伝播特性について調査研究を進め、約100m以深の海中においてレーザー光の減衰が大幅に軽減されることを確認するとともに、その利用に最適となるレーザー光波長を選定するため、定量的な試験を実施してきました。本開発では、海中におけるレーザー光の伝播特性を考慮したシステムアルゴリズムの構築及びレーザー光の発光・受光方式を含むスキャニングシステムの検討を実施し、それら各研究開発成果を融合することによって、数メートルから約20メートルでの海中レーザースキャニングを実現するシステム(海中3Dレーザースキャナー)を構築することに成功しました(仕様については表1参照)。
3.海中3Dレーザースキャナーの概要
今回開発した海中3Dレーザースキャナーは、約10m離れた目標に対して、横36m(指向制御角度120deg)×縦14m(指向制御角度30deg)の範囲でレーザー光を照射し、反射光の戻り時間及び強度を測定することで、照射範囲の海底面3Dデータを数cmオーダーの分解能で取得することが可能です。このときの画像更新頻度は約1fps(1frame/sec)です。
今回の試験では、この海中3Dレーザースキャナーを新型無人探査機「おとひめ」に取り付け、水深約100mの海域を、高度5~7mで航行しながら海底面のレーザースキャニングを行い、約150mに及ぶ海底面3Dデータを取得しました(図1)。
レーザースキャニングでは、スキャンニングした目標の全視野にわたる三次元位置情報を取得できるため、その3D画像を解析することにより、対象とする物体の体積なども求めることが可能です。
また今回の試験では、海中3Dレーザースキャナーが取得した光強度画像や距離画像を用いて、探査機に搭載したマニピュレータの遠隔操作を支援するシステム(図2)の有効性も確認しました。海中3Dレーザースキャナーのレーザー光は、通常のカメラ光源よりも遠くまで届くことから、例えばカメラ画像には映らない遠方の目標を、幾何学情報(レーザースキャニングによる三次元位置情報の可視化画像)としてほぼリアルタイムにオペレータへ提供することができるため、遠隔操作の際の周辺環境の把握にも有効です。
4.今後の展望
今回の試験は、海中3Dレーザースキャナーの基本性能を確認するために、深度100m程度の海域にて実施しました。次の段階としては、混濁物が少なく本システムの本来の性能が発揮される更に深海において、その性能と信頼性を評価していきます。また合わせて、スキャニング画像の高解像度化、レーザー光の遠達性向上及びシステムの小型軽量化についても取り組んでいきます。さらに、これまでの知見を基礎とした新しいシステム開発として、海中レーザー測距や海中レーザースキャニングだけでなく、例えば探査機と海中ステーション間などの海中レーザー通信をも包括したハイブリッドな深海用海中レーザーシステムの開発を目指します。
項目 | 仕様※ |
---|---|
サイズ | φ240×580mm |
重量(空中) | 27kg |
重量(水中) | -3.5kg |
構造 | 耐圧容器格納 |
耐水圧 | 650m |
使用温度 | 0~60℃ |
電源電圧 | 22 ~ 32V |
消費電流 | 24V | 3.8A |
探知距離 | 20m以上 @深度150m以深 |
視野角 | 横:120deg × 縦:30deg |
分解能 | 0.6cm以上 (約4cm@高度5m) |
スキャニング速度 | 1fps (最大2fps) |
レーザー波長 | 532nm |
レーザー出力 | 5kW(ピーク)| 0.5W(平均) |
レーザー方式 | パルス変調 |
レーザーパルス幅 | 1.5 n sec |
※本試験に使用した仕様