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2013年 3月 21日
独立行政法人海洋研究開発機構
東京大学大学院工学系研究科

南鳥島周辺における超高濃度レアアース泥の発見とその分布概要
(南鳥島調査航海について)

1.概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平朝彦、以下「JAMSTEC」という。)海底資源研究プロジェクトの鈴木勝彦主任研究員らと、東京大学(総長 濱田純一)大学院工学系研究科附属エネルギー・資源フロンティアセンターの加藤泰浩教授(JAMSTEC海底資源研究プロジェクト招聘上席研究員)らは、深海調査研究船「かいれい」により本年1月に実施した研究航海において、南鳥島周辺の水深5,600m~5,800mの海底から採取された堆積物のコア試料の化学分析を行い、海底表層付近におけるレアアース濃度の鉛直分布を調べました。

その結果、南鳥島南方の調査地点において、海底下3m付近に、最高6,500ppm(0.65%)を超える超高濃度のレアアースを含む堆積物(以下「レアアース泥」という。)が存在し、複数の地点で海底下10m以内の浅い深度からレアアース泥が出現することを発見しました。

また、5,000ppmを超える高濃度のレアアースを含む層は、レアアース泥の上端から下1~2メートル以内に存在することが明らかになりました。

それに加えて、今回の調査ではサブボトムプロファイラー(SBP:音響による海底表層地層探査)によって、レアアース泥の出現深度や厚さの情報を効率的に取得できることが分かりました。

これらの研究成果は、南鳥島周辺のレアアース資源の賦存量や分布等、今後の成因解明研究や開発等に必要な科学的知見をもたらすものとして期待されます。本成果は、今後更にデータとその解析結果を加えて、本年5月に開かれる日本地球惑星科学連合2013年大会において、発表する予定です。

2.背景

レアアースは、最先端テクノロジーに必須の金属であり、レアアースの安定的な確保は、日本にとって喫緊の課題です。

そのような情勢の中、2011年に東京大学大学院工学系研究科の加藤教授は、タヒチ沖、ハワイ沖などの太平洋の海底に膨大な量のレアアース泥が存在することを発見し、英科学誌ネイチャー・ジオサイエンスに発表しました(Kato et al, 2011)。このレアアース泥は、高濃度のレアアース(600~2,230 ppm)を含み、特に世界シェアの大部分を占める中国の陸上鉱床を凌ぐ高い重レアアースの濃度を持つなどの資源として有利な特長を備えており(※1)、資源として非常に期待されています。

また、2012年には、同じく加藤教授が、これまでに採取された海底掘削試料(ODP site800、DSDP site198:※2)を用いて分析した結果、日本の排他的経済水域(EEZ)内で唯一太平洋プレート上に存在し、プレート運動の復元結果からもレアアース泥が過去に堆積したことが期待される南鳥島周辺海域(図1)にもレアアース泥が存在することを報告しました(加藤ほか、2012)。これによって、南鳥島周辺の海底下10m以深に1,000ppmを超える高濃度のレアアース泥が存在していることが確認されましたが、堆積物コアの採取地点が2か所のみであることとコアの回収率が低いことから、南鳥島周辺のレアアース泥の詳細な深度分布や水平方向への広がりについては不明な点が多く、更なる科学的調査が望まれていました。

一方、JAMSTECでは、これまで培ってきた海洋に関する研究や技術開発の成果を最大限活用し、日本の海洋資源開発に貢献していくために、2011年4月に海底資源研究プロジェクトを発足させ、JAMSTECの調査船、高度分析機器などのインフラを用いた海底資源の成因等に関する調査・研究を開始しました。レアアース泥についても、その研究対象としており、加藤教授と共同で、その生成プロセスを解明すべく、研究を推進してきました。

3.成果

本調査航海では、南鳥島周辺の海底表層付近におけるレアアース濃度の鉛直分布を確認するため、2013年1月21日から31日に「かいれい」による、南鳥島周辺の調査を行い、数地点において、ピストンコアラー(最大で海底から20m長のコア試料採取可能)を用いて海底堆積物のコア試料の採取を行いました。

今回は、後述するサブボトムプロファイラ(※3)のデータから、海底表層付近にレアアース泥が発見される可能性の高かった2地点(図2のPC04、PC05)について、採取したコア試料の鉛直方向のレアアース濃度分布を明らかにしました(図4)。

その結果、PC05においては、海底下3m付近に総レアアース濃度が6,500ppmを超える超高濃度のレアアース泥が存在することが確認されました。これはタヒチ沖に分布するレアアース泥の濃度(1,000~1,500 ppm)の4~6倍、ハワイ周辺海域の濃度(600 ppm)の10倍にも達します。また、PC04でも5,000 ppmに達する高濃度のレアアース泥が海底下8m付近に分布しています。

また、南鳥島地域は、太平洋プレート上のレアアース濃集海域を通過してから3000万年以上が経過しており、その間にレアアースを含まない表層泥がレアアース泥の上に10m以上堆積していると予測されていました(加藤、2012)。ところが、本調査により、表層堆積物の被覆は予測よりはるかに薄く、超高濃度のレアアース泥が比較的浅い深度に存在していることが判明しました(PC04:海底下8m、PC05:海底下3m程度)。

さらに、5,000 ppmを超えるような超高濃度のレアアース泥は、レアアース泥層の上部1~2mの位置に出現します。この理由の1つとして、続成作用(※4)で形成されたレアアースを取り込みやすい鉱物が、堆積物中で放出されたレアアースを捕らえて、濃集した可能性が考えられます。

今回の調査で得られたサブボトムプロファイラーによる地下構造イメージ(図5)を比べると、PC04ではレアアース泥の上に表層泥の存在が確認される一方で、PC05では表層泥は見られません。これは採取したコア試料のレアアース濃度のプロファイル(図4)や岩相変化とよく対応しており、船上からのサブボトムプロファイラー観測によって、レアアース泥の出現深度や厚さについての情報を効率的に推定できることが分かりました。このことは、今後ピストンコアラーによる調査を進める際に非常に有効であると期待されます。

4.今後の取り組み

今回得られたデータを基に、今後、ほかの地点のコア試料の分析とその検証を進めるとともに、JAMSTECや東京大学が保有する最先端の分析機器や解析技術を駆使して微小領域の分析や化学状態分析を通じて、レアアースを濃集している鉱物相の特定を行い、レアアース泥の生成プロセスを明らかにしていく予定です。また、今後の調査航海において、サブボトムプロファイラーによる海底下数十メートルの地質構造を調べるとともに、ピストンコアラーによるコア試料の採取とその分析を通じて、南鳥島周辺のレアアース資源の分布等、今後の開発に必要な科学的知見の取得を予定しています。

※1:レアアース泥

加藤教授らによって発見され、2011年7月にネイチャー・ジオサイエンス誌で発表された、レアアースを豊富に含んだ暗褐色の泥質堆積物。太平洋の深海底に広く分布し、600~2,230ppmに達する高い濃度のレアアースを含む(Kato et al., 2011)。1. レアアース(特に重レアアース)含有量が高い、2. 海底に広く分布しているために資源量が膨大、3. 地層として分布しているため探査が容易、4. 開発の障害となる放射性元素(Th、U)を含まない、5. レアアースの抽出が容易、などの特長を持つ。

※2:DSDP site198 及びODP site800

深海掘削計画(DSDP:Deep Sea Drilling Project)、及び国際深海掘削計画(Ocean Drilling Program、ODP)において、南鳥島周辺EEZ内の海洋底を掘削して採取したコア試料。図2に掘削地点を示す。

※3:サブボトムプロファイラー

3-5kHz前後の周波数の音波を用いた測深機。周波数が低く、海底下に音波が浸透するため、海底下数十メートルの地質情報が得られる。

※4:続成作用

堆積した物質が堆積物中で脱水や化学反応によって別の物質や鉱物に変化すること。

【参考:日本地球惑星科学連合2013年大会での発表予定】

「南鳥島周辺における深海底レアアース泥の調査航海(KR13-02)速報」

鈴木勝彦1、 加藤泰浩1、2、 飯島耕一1、 中村謙太郎1、 西尾嘉朗1、 町山栄章1、 藤永公一郎1、2、 町田嗣樹1、3、 原口悟2、 安川和孝2、 大田隼一郎2、 野崎達生1、 KR13-02 乗船者一同(1. 海洋研究開発機構、2. 東京大学、3. 早稲田大学)

「南鳥島レアアース泥-総括-」

加藤泰浩1、2、 鈴木勝彦2、 藤永公一郎1、 中村謙太郎2、 町田嗣樹3、 原口悟1、 安川和孝1、 大田隼一郎1、 飯島耕一2、 町山栄章2、 西尾嘉朗2、 野崎達生2、 岩森光4、 KR13-02 乗船者一同(1. 東京大学、2. 海洋研究開発機構、3. 早稲田大学、4. 東京工業大学)

ほか、数件

[参考文献]

Kato、 Y.、 Fujinaga、 K.、 Nakamura、 K.、 Takaya、 Y.、 Kitamura、 K.、 Ohta、 J.、 Toda、 R.、 Nakashima、 T. and Iwamori、 H. (2011) Deep-sea mud in the Pacific Ocean as a potential resource for rare-earth elements. Nature Geoscience、 vol. 4、 535-539.

加藤泰浩・藤永公一郎・髙谷雄太郎・中村謙太郎・岩森光 (2012) レアアース泥は有望な資源か? 資源地質学会第62回年会講演会講演要旨集、 37.
加藤泰浩 (2012) 太平洋のレアアース泥が日本を救う、 PHP新書、 253p.

図1

図1 南鳥島の軌跡(右図青線)と予想される地質層序(左図)(加藤ほか、2012)
地図中、橙色及び灰色の円の大きさはレアアース濃度を表す。
また、赤い領域は高濃度のレアアースの堆積が見込まれる海域。

図2
図2 KR13-02調査航海のピストンコア採取地点
図3
図3 図2のPC4とPC5で採取した堆積物コア

PC4のsec.04及びPC5のsec.02は暗褐色の粘土で、レアアース濃度は低い。一方、PC4のsec.09及びPC5のsec.04は黒褐色の粘土で、レアアース濃度が高い。○は、図4のレアアース濃度のピーク部分。

図4
図4 PC4及びPC5の総レアアース濃度の深度分布

PC04では深さ約8m付近に、PC05では約3m付近に高濃度の層が存在する。これは、レアアース泥の出現深度(点線)の下1-2 mである。

図5

図5 サブボトムプロファイラーによるPC04及びPC05を採取した地点の海底下の地質構造イメージ。

基盤のチャート、レアアース泥、表層を覆う粘土が観察される。PC05ではレアアース泥の表面を覆う表層粘土がほとんど確認できない。

お問い合わせ先

独立行政法人海洋研究開発機構
(本研究について)
海底資源研究プロジェクト・資源成因研究グループ・グループリーダー
主任研究員 鈴木 勝彦 電話:045-867-9617
(報道担当)
経営企画部 報道室 菊地 一成 電話:046-867-9193
(これまでの研究および本研究について)
国立大学法人東京大学大学院工学系研究科
附属エネルギー・資源フロンティアセンター
 教授   加藤 泰浩
 特任研究員   藤永 公一郎
(報道担当)
大学院工学系研究科 広報室 永合 由美子 電話:03-5841-1790