2013年 5月 24日
独立行政法人海洋研究開発機構
この度、統合国際深海掘削計画(IODP: Integrated Ocean Drilling Program)(※)の一環とし て、「南アラスカ・大陸縁辺域掘削による地殻変動と気候変動の関連性の解明」(別紙参照)を実施 するため、米国が提供するジョイデス・レゾリューション号の研究航海が5月29日から開始され ます。
本研究航海では、アラスカ南方沖北太平洋において掘削を行い、過去に起こった造山運動や氷河の形成・発達そして北太平洋及び全球的な気候変動の関連性を解明するため、日本から8名が乗船するほか、米国、欧州、中国、オーストラリア、ニュージーランド、インド、ブラジルからも含め、計30名が乗船研究者として参加する予定です。
※統合国際深海掘削計画(IODP: Integrated Ocean Drilling Program)
日・米が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧州(18カ国)、中国、韓国、豪州、インド、NZ、ブラジルの26ヶ国が参加。日本が運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船ジョイデス・レゾリューション号を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。
別紙
南アラスカ・大陸縁辺域掘削による地殻変動と気候変動の関連性の解明
1.日程(現地時間)
なお、気象条件や調査の進捗状況等によって変更の場合があります。
2.日本から参加する研究者
氏名 | 所属/役職 | 乗船中の研究担当 |
---|---|---|
朝日 博史 | プサン大学/ポスドク研究員 | 微古生物学(有孔虫化石) |
小嶋 孝徳 | 東京大学大気海洋研究所/大学院生 (博士課程) | 物理特性計測 |
喜岡 新 | 東京大学大気海洋研究所/大学院生 (博士課程) | 物理特性計測 |
今野 進 | 九州大学/特任助教 | 微古生物学(珪藻化石) |
須藤 斎 | 名古屋大学大学院環境学研究科/准教授 | 微古生物学(珪藻化石) |
中村 淳路 | 東京大学大気海洋研究所/大学院生 (博士課程) | 無機地球化学 |
福村 朱美 | 名古屋大学大学院環境学研究科/大 学院生(修士課程) | 微古生物学(珪藻化石) |
Kenji Matsuzaki | 東北大学/ポスドク研究員 | 微古生物学(放散虫化石) |
3.研究の概要
本研究航海では、アラスカ湾南方陸棚域において掘削を行い、コア試料の採取や掘削孔の物理検層を行います。氷河の発達は、太陽光の反射を増大させ、地球温暖化を減少させる働きを持っています。一方で、海洋プレートの沈み込み帯周辺の陸域では、造山運動による山脈の上昇が季節風や周辺での氷河の発達を促し、広域の気候に大きな影響を与えてきました。これまで、これらの造山運動と造山運動による氷河の形成・発達を同時に議論し、地球環境にどのような影響を与えてきたかを復元する研究は非常に少なかったと言えます。
アラスカ湾南方陸棚域は、世界最大の沿岸山脈であるセントエリアス造山帯のすぐ近くに位置しており、氷河によって削られて運搬された後期新生代の堆積物がほとんどそのままの形で海底に堆積しています。つまり、本航海の掘削域は、氷河の発達による陸域浸食量の空間的・時間的な変動や、それらが影響を与えてきた環境変動の実態を高解像度で明らかにできる世界でも有数な堆積物記録を得られる 場所です。
本研究航海では、これらの氷河削剥と造山運動によって運搬された堆積物を連続的に採取・解析し、その堆積物に含まれる微化石や鉱物の違いを把握することで、沈み込み帯における造山運動や中新世後期から第四紀(本航海では約1000万年前以降)までの氷床の発達と後退の歴史、さらには、地球磁場の永年変化や地磁気極性の反転をコントロールするプロセスなどを解明するとともに、他の海域の研究結果と比較することによって、北太平洋のみならず全球の気候変動との関連性などを明らかにすることを目的としています。現在と同様に極域に氷河が発達する地質時代の気候変動を高解像度で明らかにするこうした研究は、気候変動の将来予測につながる知見を蓄積するための重要な研究です。