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プレスリリース

2013年 9月 11日
独立行政法人海洋研究開発機構

自転速度の変動が地球磁場に与える影響を解明
~気候変動と地球磁場変動の関係解明に貢献の可能性~

1.概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)地球内部ダイナミクス領域の宮腰剛広研究員と浜野洋三チームリーダーは、地球磁場に見られる数万年~十万年周期での変動と気候変動との関係について、氷期―間氷期サイクル(※1)による大陸氷床の増減が引き起こす地球の自転速度の変動に着目し、世界で初めて自転速度の変動を考慮した地球ダイナモ(地球コアに存在する液体金属の対流による地球磁場生成過程)シミュレーション(※2) を行いました。

その結果、氷期―間氷期サイクルによって生じる自転速度の変動が原因となって地球外核内の液体金属の対流運動が変化し、地球磁場の変動が引き起こされることを世界で初めて定量的に明らかにしました。そして、自転速度の変動(約2%)に対して遙かに大きな割合で地球磁場の強度に変動(約20~30%)が生じ、自転速度の変動と地球磁場の変動の間には時間のずれが存在することが明らかになりました。さらに、自転速度の変動によりコアからマントルへ輸送される熱量にも約10%の大きな変動が生じることも分かりました。

本成果は、地球磁場変動のメカニズム解明に役立つばかりでなく、これまで明らかになっていなかった気候変動と地球磁場変動の関係を解明するための有力な手掛かりになると期待されます。

なお、本成果は、日本学術振興会の科学研究費補助金若手研究B (研究課題番号:24740311)から援助を受けており、Physical Review Lettersに9月13日付け(オンライン版は9月11日付け、共に現地時間)で掲載される予定です。

タイトル:
Magnetic Field Variation Caused by Rotational Speed Change in a Magnetohydrodynamic Dynamo
著者:
宮腰剛広、浜野洋三
所属:
海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域

2.背景

地球の内部は、(たまごの白身と黄身のように)岩石で出来た外側のマントルと金属鉄を主成分とする内側のコアの2層構造をしていて、その境界は地球半径(約6400km)の半分よりやや大きく(3400km)なっています。ここで、コアの外側の部分(外核)は高温のために液体で、激しい対流運動をしています。地球磁場は、この対流運動により生じるダイナモ過程(※3)によって絶えず作られ続けており、数十億年に渡って維持されてきたと考えられています。

この地球磁場は、地球表層を我々生物が生存できる環境に保つために必須となる役割を果たしています。まず、地球磁場は生物にとって有害な銀河宇宙線や太陽風等の宇宙線が直接地表に降り注ぐことを防ぐ役割を持っています(図1)。また、宇宙線が惑星表面の大気に直接衝突した場合に発生する大気の散逸を防ぐ働きもあります。最近の惑星探査によって、初期の火星には表層に液体の水が存在できるような厚い大気、および地球と同様に強い磁場が存在したことが分かってきましたが、このようなハビタブル(生命居住可能)環境が現在なくなっている原因の一つとして、磁場がなくなったことにより大気が散逸した可能性が考えられています。

このように重要な役割を担っている地球磁場ですが、その強さは様々な時間スケールで大きく変動していることが知られています。そして、この地球磁場変動の原因を明らかにすることは、今後の地球磁場変動と地球表層のハビタブル環境の未来を知る上で重要な要素の一つと考えられています。磁場変動の中で最近注目されているのが、海底堆積物の古地磁気測定から明らかとなった、1万年から10万年の時間スケールでの変動です。この変動では磁場が最大約±50%の割合で大きく変化しており、変動の時間スケールや様子が氷期と間氷期が繰り返し訪れる気候変動(ミランコビッチ周期(※4))と似ているために、多くの研究が行われています。しかし、この地球磁場変動の起源や、気候変動との関係については明らかにされていませんでした。

今回、研究チームは、氷期-間氷期を伴う気候変動によって高緯度地域の大陸氷床が拡大、縮小を繰り返すことで地球全体の慣性モーメント(物体の回転しにくさの指標)が変化し、地球の自転速度に変動が引き起こされることに注目しました(図2)。具体的には、回転運動の特性(角運動量の保存)により、地球の自転速度は高緯度地域の大陸氷床が拡大している時は速く、縮小している時は遅くなります。そして、この自転速度の変化は外核内の対流、さらには地球ダイナモ作用に影響を与え、最終的に地球磁場を変動させることが考えられます。我々はこの考えに基づき、JAMSTECに設置されているスーパーコンピュータである「地球シミュレータ」を用いて、世界で初めて地球自転速度の変動が地球磁場へ与える影響について大規模な地球ダイナモの電磁流体力学シミュレーションにより解析しました。

3.成果

シミュレーションの結果、自転速度の変動が原因となって地球磁場の変動が生じることが分かり、これまでは仮説に留まっていた両者の関係を初めて定量的に明らかにしました(図3)。我々が行ったダイナモシミュレーションでは、地球の自転速度をおよそ2%の振幅、2万年の周期(ミランコビッチ周期の一つにほぼ近い)で変動させることによって、地球コア内の磁気エネルギーや双極子磁場(※5)の強さがプラスマイナス20~30%の割合で大きく変動することを明らかにました。また、コア内部の流体運動を観察することにより、自転速度変動によって磁場変動が生じるメカニズムについても明らかにすることができました。具体的には、地球の自転速度変動によって固体であるマントルとその下の液体のコアの運動にずれが生じ、コアの表層部に東西方向の流れが発生します。そして、この流れが磁場を生成する対流運動を変化させ、磁場強度の変動が引き起こされることが示されました。これらの関係はコア内部の不規則な流体運動が影響するために、自転速度が一定の大きさで時間変動した場合においても、地球磁場は複雑な時間変動を示し、自転速度と地球磁場の時間変動の位相にはずれが生じることも分かりました。シミュレーション結果から明らかになったこれらの非線形な応答や位相のずれは、古地磁気測定から明らかになりつつある実際の地球磁場の時間変動パターンを理解する上で有力な手掛かりになります。また、自転速度変動がコアからマントルへの熱流量に影響を与えることもわかりました。以上のように、本シミュレーション研究により、自転速度の変動が地球磁場変動を実際に引き起こすことが定量的に確かめられました。

4.今後の展望

本成果は、これまで全く不明であった気候変動と地球磁場変動の関係の一端を明らかにした点で非常に重要です。今後の課題としては、自転速度の変動の波形をより現実のものに近づけて調べる事が挙げられます。今回のモデルでは自転速度変動の波形には単純な正弦波を用いています。しかしながら酸素同位体変動から精密に調べられている大陸氷床の変動の実際の観測結果からは、より複雑な波形が得られています。今後はそれらの観測結果を用いて、観測される気候変動と磁場変動の関係を確かめることが挙げられます。また、より高精度なスーパーコンピューターを用いることで、気候変動や自転速度、地球磁場の状態について詳細な解析を行うことも期待されます。

本成果は、氷期―間氷期変動を引き起こす数万年スケールの気候変動が地球磁場変動を生じさせているメカニズムを示したものですが、逆に地球磁場変動が、宇宙線の大気への入射量の変動を通じて気候変動に影響を与えている可能性があります。また、地球の進化過程や過去の地球環境の変動を理解するには、今回解析を行った以外の時間スケールで生じている気候変動や地球磁場変動についても両者の関係と相互作用を理解する必要があると考えられます。最終的に、現在は個別のモデルとして扱われている気候変動やコア活動を融合した一体の地球システムを作り上げることで、過去の地球環境の変遷を理解し未来の地球環境を正確に予測することが可能になると期待されます。

※1 氷期―間氷期サイクル:高緯度の大陸で氷床の発達した氷期と、氷床が減少した間氷期の繰り返しのこと。

※2 地球ダイナモシミュレーション:地球コア内の液体金属の流れや磁場の挙動を記述する方程式(電磁流体力学方程式)は非常に複雑なため、地球ダイナモ過程(※3を参照)の研究においてはスーパーコンピュータによるシミュレーションが極めて有力な手法の一つとなっている。本成果は、宮腰らがこれまでに発表した地球ダイナモシミュレーション(2008年8月28日および2010年2月11日プレスリリース)のモデルを基盤として発展させたものである。

※3 ダイナモ過程:磁場中を導電性の物質(地球の場合は液体の鉄)が動く(地球の場合は対流運動)と電流が発生する。条件が揃った場合はその電流が元々あった磁場をさらに強めることが知られており、これをダイナモ過程と呼ぶ。

※4 ミランコビッチ周期:地球の公転軌道の周期的変化、自転軸の傾きの周期的変化等により、日照量が周期的に変動する周期。氷期―間氷期サイクルを説明するものとしてミランコビッチが提唱した。

※5 双極子磁場:棒磁石が作るのと同じ形状の磁場。地球の磁場の形状は双極子磁場で良く表される。

図1

図1:太陽風と地球磁場の模式図。太陽からは生命にとって有害な太陽風が常に吹き付けているが、地球磁場は太陽風から地球の表層環境を保護する役割を果たしている。

図1

図2:(左上および左下)気候変動による氷床の消長により、地球の自転速度に変動が生じることが予想される。高緯度に氷床が発達する氷期は自転速度が速く、減少する間氷期は遅くなると考えられる。(右)地球内部は岩石からなる「マントル」、金属からなる「コア」から成っている。コアはさらに液体の「外核」と固体の「内核」に分かれており、外核の液体金属の対流運動によって地球磁場が生じている。本研究では氷期―間氷期サイクル(1万年~10万年の時間スケール)における自転速度の変動に着目し、自転速度変動を考慮した地球磁場生成(地球ダイナモ)過程の計算機シミュレーションを行うことにより、自転速度変動が地球磁場に与える影響を調べた。

図1

図3: シミュレーションから得られた地球磁場変動(模式図)。シミュレーション結果からは、地球の自転速度をおよそ2%の振幅、2万年の周期で変動させることによって、コア内の磁気エネルギーや双極子磁場が20~30%の割合で大きく変動することが見出された。この関係は不規則なコア内部の対流運動の影響により非線形な応答をするため、自転速度が一定の大きさで変化しても地球磁場はより複雑な時間変動パターンを示すことが分かった。また、自転速度と磁場変動の間には時間的にずれが生じる(自転速度が最大になった少し後で磁場が最大になる)ことも分かった。

お問い合わせ先:

独立行政法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地球内部ダイナミクス領域 宮腰 剛広、浜野 洋三
電話:045-778-5885(宮腰)、046-867-9753(浜野)
(報道担当)
経営企画部 報道室長 菊地 一成 電話:046-867-9198