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プレスリリース

2014年 1月 8日
独立行政法人海洋研究開発機構

海洋ダイナモ効果を利用した新しい海底津波観測手法を立証

1.概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平朝彦)の杉岡裕子主任研究員らは、東京大学地震研究所と共同で、2010年2月のチリ地震に伴い発生した津波を、深海底に設置された海底電位磁力計(OBEM)から成る電磁場観測網で捉えることに成功し、世界で初めて津波に関する誘導電磁場理論を立証しました。本観測研究によって確立された理論に基づき、2011年の東北地方太平洋沖地震においてOBEMが捉えた磁場変動のデータを解析した結果、津波が強大化した原因とされる短周期津波の発生場所を特定するなど実績を上げるとともに、津波到来予測の向上を目指したより高精度な海底津波観測装置の開発研究に取り組んでいます。

なお、本成果は、英国「Nature」誌系列の「Scientific Reports」(電子版)に2014年1月8日(日本時間)付けで掲載される予定です。

タイトル:
Tsunami: Ocean dynamo generator
著者:
杉岡裕子1, 浜野洋三1, 馬場聖至2, 笠谷貴史1, 多田訓子1, 末次大輔1
所属:
1. 海洋研究開発機構, 2. 東京大学地震研究所

2.背景

電気を通す物体(導体)を磁場中で動かすと、電磁誘導によって導体の中に電流が流れます。次に、その電流によって、導体の周りに二次的な磁場が生じます。海水も電気を通す性質があるため、地球の磁場中で海水が動くと電磁誘導現象が起き二次的な磁場が生じます(海洋ダイナモ効果と呼ばれます)。津波のように海水の動きがあれば、同様の現象が起きるはずであり、この二次的な磁場を捉えることで津波の情報を検出することが可能となります。この理論を用いれば、津波の大きさだけではなく、津波の速さや到来方向も知ることが可能となる等多くの利点があり、1950年代以降、多くの研究者の関心を集め、理論的研究が進められてきました。しかし、太陽活動に伴う磁場変動と比較して津波による変動は小さく、検出は技術的に困難なことから、海域における観測例はありませんでした。

3.成果

本研究グループでは、2000年から高精度・高分解能なOBEMを太平洋上の複数の海域に展開し、観測を行っています。本来は地球内部の構造を調べるために、海底での電流や磁場を観測する目的で設置したものですが、その高精度データを活用し、2006年千島地震において津波による電磁場変動の検出に世界で初めて成功し、その後2009年サモア地震、2010年チリ地震時においても津波による電磁場変動の検出に成功しています。

2010年チリ地震津波発生時には、震源から7000 kmほど離れたタヒチ島周辺の海底電磁場アレイ観測(特定域における)網で捉え、津波伝播過程を明らかにしました。また、同地点における、微差圧計(高精度な水圧計)で同時に観測された水圧記録と比較することにより、観測データが正確に津波の情報を捉えていることを確認され、津波による誘導電磁場理論を世界で初めて立証しました。

本研究で用いたOBEMのデータ高密度観測からは、多様な津波の情報を検出することができます。具体的には、磁場の大きさからは津波の大きさを、磁場が発生した時刻からは津波が観測点へ到達した時刻を検出することができます。また、磁場データから津波の到来方向を知ることもでき、これらは1点の観測から見積もることが可能です。

以上のことから、世界中の海域のほとんどで、このOBEM用いれば、センチメートルオーダーの津波の大きさと到来方位を検出することが可能であることがわかりました。

4.今後の展望

今回、立証された海底電磁場観測装置を用いた津波観測理論は、日本沿岸に到達する津波の大きさと到達時刻を早期かつ精度高く予測するという、将来の津波災害の軽減のための喫緊の課題に貢献できるものです。JAMSTECでは、今回の成果を基に新しい海底津波観測装置(「ベクトル津波計」と名付けました)の開発研究に取り組んでおります。これは、海底微差圧計とOBEMを組み合わせたもので、四国海盆において2012年11月から約3ヶ月間の試験観測を実施していますが、2013年2月6日のソロモン沖地震津波を捉えることに成功しており、その実効性を確認しました。今後はオンライン化を図り、海底地形などによって時々刻々変化する津波の到来方位や速度をリアルタイムでモニタリングできるよう研究を進めています。

図1

図1:海洋ダイナモ効果の原理。磁場中を導体が動くときに導体中に電気が流れ、二次的な磁場が発生するというもの(左図)。地球では、左図の磁場は地球磁場、導体は海水に対応する。津波の場合も誘導磁場が発生し、これを海底電磁力計によって捉えることが可能である。

図2

図2:2010年チリ地震津波時の同地点における海底電磁場変動鉛直成分と海底水圧変動記録。津波第一波(矢印)の振幅は理論推定値に一致する。

図3

図3: (上)OBEMによる観測地点(白枠内)。背景はチリ地震津波の高さを示す。
(下)2010年チリ地震津波時に観測された海底電磁場変動水平成分から求められた津波伝播ベクトル(赤矢印)。白線は各観測点における津波の到達時刻から求められた津波伝播の等時線。

図4

図4:新規開発されたベクトル津波計。2012年11月から2013年2月まで四国海盆にて試験海底観測を実施した。(上)船上での投入風景。(中)海底における設置状況。撮影は無人探査機「かいこう7000-II」による。(下)模式図。

独立行政法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地球内部ダイナミクス領域 海洋プレート活動研究プログラム 杉岡裕子
(報道担当)
広報部 報道課長 菊地 一成
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