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2014年 4月 25日
独立行政法人海洋研究開発機構

カリフォルニア・ニーニョ/ニーニャ現象を世界で初めて発見

1.概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」)アプリケーションラボの袁 潮霞ポストドクトラル研究員と山形俊男上席研究員は、カリフォルニアからバハ・カリフォルニア半島の沿岸に発生する地域的な大気海洋結合現象を世界で初めて発見し、「カリフォルニア・ニーニョ/ニーニャ」と命名しました。

太平洋高気圧の東縁にあたるこの海域では、海上風と地球の自転の効果により、表層の海水が沖合に吹き流されます。そして、この海水を補うために下層から冷水が湧き出しており、この海域の表層の海水温は低く保たれています。

この沿岸における冷水の湧き出しが、平年より弱(強)くなることがあり、こうした変動が発生すると海面水温は平年より温かく(冷たく)なります。これまで、この沿岸域の海面水温の経年変動については、エル・ニーニョ/ラ・ニーニャ現象に起因するものと考えられてきましたが、本研究により、この沿岸域にはエル・ニーニョ/ラ・ニーニャ現象とは独立した大気海洋結合現象が存在し、この現象が夏季の海面水温の経年変動を引き起こしていることが明らかになりました。

今回発見した現象は、赤道太平洋に発生するエル・ニーニョ/ラ・ニーニャ現象と時空間スケールは大きく異なるものの、その形態の類似性から、「カリフォルニア・ニーニョ/ニーニャ」と命名されました。この現象はカリフォルニアやバハ・カリフォルニア沿岸域の海洋生態や北米大陸西部の気象や農業に大きな影響を及ぼすことが想定されることから、今後は大気海洋結合モデルを用いて現象の発生予測を行っていくことが必要となります。

なお、本成果はNature社のScientific Reportsに4月25日付け(日本時間)で掲載される予定です。

タイトル:
California Niño/Niña
著者:
袁潮霞1、山形俊男1

1 JAMSTECアプリケーションラボ

2.背景

亜熱帯の海洋変動は大気によって駆動され、逆に海洋変動が大気を駆動することはあまりないと考えられてきました。しかし大陸に近いところで、海上風が沿岸湧昇を引き起こす時には、それに伴う海面水温偏差(平年値からのずれ)によって海と陸との間に温度差が生じることから、岸を横切る方向の気圧差をつくりだすことができます。それがさらに岸に沿う方向の海上風を強めて、沿岸湧昇(あるいは沈降)、海と陸との間の温度差、海面水温の偏差(平年値からのずれ)を維持し、強化することができます。今回の研究は、カリフォルニア沿岸にこの正のフィードバック機構(現象の結果が、その原因となる事象をさらに強めること)が存在することを初めて明らかにしました。

類似のフィードバック機構は、オーストラリア大陸西岸でも働き、ニンガルー・ニーニョ/二ーニャとして沿岸海面水温の経年変動に寄与していることが本研究グループにより既に明らかにされています (平成25年10月8日既報「ニンガルー・ニーニョ現象の予測可能性を世界で初めて発見」) 。この沿岸域におけるローカルなフィードバック機構は赤道太平洋のエル・ニーニョ/ラ・ニーニャ現象やインド洋ダイポールモード現象に寄与するビヤークネス・フィードバック(赤道下における大気と海洋の相互作用:風が海洋表層の流れに影響を与え、その結果が大気の風に影響する、というもの)と類似していることから、研究グループでは「沿岸ビヤークネス・フィードバック」と呼んでいます。

今回の研究の対象となったカリフォルニア沿岸における海面水温の変動は、周辺地域の気象に大きな影響を与えており、そのメカニズムの解明が期待されてきました。本研究グループは、これまでエル・ニーニョ/ラ・ニーニャ現象の影響と考えられてきたこの海域の海面水温変動について、エル・ニーニョ/ラ・ニーニャ現象とは独立した現象であり、沿岸ビヤークネス・フィードバックによって引き起こされるものであることを明らかにしました。

3.成果

研究グループでは、過去30年間の観測データとNCEP/NCAR再解析データ()を、経験的直交関数(empirical orthogonal function, EOF)解析と線形相関・回帰手法を用いて調べたところ、カリフォルニアとバハ・カリフォルニア半島の沿岸の海面水温の経年変動が東北太平洋において最も強く、特に夏季(7−9月)の変動が最も強いことを明らかにしました。この変動が強く現れる東北太平洋の沿岸海域(西経110°-120°, 北緯20°-30°)で平均した夏季の海面水温偏差を指標として、海面気圧・海上風・沿岸湧昇などとの関係を詳しく調べたところ、春に岸に沿う海上風が平年より弱くなる(強くなる)と、沿岸湧昇が弱まり(強まり)、海面水温は平年より高く(低く)なること、そして、温かい(冷たい)海面が低層大気を温め(冷やし)、負(正)の気圧偏差をもたらすことが明らかになりました。この相互作用が岸を横切る方向に大気圧の差を生み、岸に沿う海上風の偏差を維持、あるいは強化します(図2)。この低層大気と表層海洋の相互作用は図3で示しています。これらのことから、カリフォルニア沿岸域では、沿岸ビヤークネス・フィードバックが働いて、北半球の夏にカリフォルニア・ニーニョ/ニーニャを引き起こし、その結果、海面水温の変動が生じていることが明らかになりました。

4.今後の展望

本研究では、観測と再解析データを使用して、カリフォルニア・ニーニョ/ニーニャ現象を発見しましたが、この現象はカリフォルニアやバハ・カリフォルニア沿岸域の海洋生態や北米大陸西部の気象や農業に大きな影響を及ぼすことが想定されます。今後は海洋モデル、気象モデルを用いた影響評価や大気モデルと海洋モデルを結合した気候変動予測モデルを用いて現象の発生予測を行う必要があります。

地球温暖化が進行する中で、世界各地で極端気象現象が増大していることから、こうした現象の発生を事前に予測し、適切な対応策を準備することの重要性が増しています。これには気候変動予測モデルを実用的な季節予測モデルとして高精度化する必要があります。今回、新たに発見されたような中緯度地域に局在する気候変動現象を予測する科学技術の進展は、地球全体の季節変動予測モデルの高精度化に新たな指針を与えることになり、国際的に注目されています。

※ NCEP/NCAR再解析データ
NCEP/NCAR(National Centers for Environmental Prediction/National Center for Atmospheric Research)再解析データは、アメリカ海洋大気庁によって作成された再解析データで、1948年1月から現在までについて、様々な観測データを高度なデータ同化技術を用いて解析された大気データセット。

図1

図1(a)過去30年の東北太平洋の月平均の海面水温の標準偏差(1982.1-2011.12)。黒い枠に囲まれた海域の領域平均した海面水温はカリフォルニア・ニーニョ/ニーニャ指標と定義された。(b)海面水温の経年変動で最も卓越する空間パターン。(c)月別の標準偏差。灰色バー:カリフォルニア・ニーニョ/ニーニャ指標。黒い線:エル・ニーニョ/ラ・ニーニャ現象に関わる経年変動を除いたカリフォルニア・ニーニョ/ニーニャ指標。

図2

図2(a)過去30年の7-9月のカリフォルニア・ニーニョ/ニーニャ指標と海面水温(色影)・海上風(矢印)・海面気圧(線)との先行や遅行相関係数。(b)北緯25˚に沿う垂直断面における気温(色影)と気圧(線)との先行や遅行相関係数。相関係数の絶対値は0.4以上と、5%水準で有意(両側)である。

図3

図3(a)過去30年の7-9月のカリフォルニア・ニーニョ/ニーニャ指標と図1(a)に黒い枠に囲まれた海域の領域平均の海面水温・岸に沿う海上風・沿岸湧昇との先行や遅行相関係数。相関係数の絶対値は0.4以上と、5%水準で有意(両側)である。

独立行政法人海洋研究開発機構
(本研究について)
アプリケーションラボ 気候変動予測応用グループ
ポストドクトラル研究員 袁 潮霞
(報道担当)
広報部 報道課長 菊地 一成
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