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プレスリリース

2014年 7月 26日
独立行政法人海洋研究開発機構

地球深部探査船「ちきゅう」による
「沖縄トラフ熱水性堆積物掘削」について(航海終了報告)

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という)は、戦略的イノベーション創造プログラム(※1 SIP)の課題「次世代海洋資源調査技術」(プログラムディレクター 浦辺 徹郎、東京大学名誉教授、国際資源開発研修センター顧問)における「海洋資源の成因に関する科学的研究」(研究代表者:鈴木 勝彦、JAMSTEC海底資源研究開発センター資源成因研究グループリーダー)の一環として、沖縄海域での科学掘削調査を実施しました。

1.実施内容

非活動的な鉱床や過去に熱水活動を終了し、堆積物に覆われていて海底面に露出していない鉱床(いわゆる潜頭性鉱床)の科学的成因論を確立するための第一段階として、伊平屋北海丘の海底下鉱体とその源となる海底下熱水域分布の把握を目的とした地球深部探査船「ちきゅう」による科学掘削調査を行いました。2010年のIODPによる(※2)科学掘削調査により発見された海底下熱水溜まり(平成22年10月5日既報)と、2012年から2013年にかけて同海域で新たに発見された熱水噴出域(平成26年3月4日既報)を含むように、海丘全域を対象として、6地点において掘削同時検層(※3)を行い、伊平屋北海丘海底下の熱水溜まりの分布と地層物性データを入手しました(図1)。

本研究航海は、高井 研(JAMSTEC海底資源研究開発センター資源成因研究グループ上席研究員)が首席研究者を務め、「次世代海洋資源調査技術」に参画する独立行政法人産業技術総合研究所、独立行政法人国立環境研究所及び海底資源研究開発センターを中心としたメンバーが乗船しました。

2.結果概要
(1)伊平屋北海丘の海底下の熱水域分布の把握(図2

伊平屋北海丘は小火山体が集まった直径8 km程の高まりであり、ここでの熱水域は海丘の頂部を縦断するように配列していますが、本調査によって、伊平屋北オリジナルサイト、伊平屋北ナツサイト、伊平屋北アキサイト(図1)の3つの熱水噴出域が伊平屋北海丘全域にまたがるような大きな熱水溜まりを形成している可能性が示されました。その規模は、反射法地震探査データと今回行った掘削同時検層データとの対比及びコア試料による地層構成物質の知見から、伊平屋北オリジナルサイトでの熱水溜まりは東西に2km以上、南北に3km程度と推定され、沖縄海域で発見された中では最大の熱水域と考えられます。

(2)詳細な掘削同時検層データの取得と海底下で形成途上の鉱石試料の採取

海底熱水活動中心から周辺部にかけての6地点(図1中の星印)において掘削同時検層を行い、掘削同時検層が海底下熱水溜まりを規定するキャップロック構造(熱水を含む地層を透水性の低い地層が覆うことで熱水の上方移動が妨げられている構造)や熱水変質帯の分布、更には海底下の熱水流路を高精度に推定できる手法であることが明らかになりました。また、掘削同時検層孔の物性データと近接した掘削孔から取得したコア試料を対比することにより、掘削同時検層データから予想された海底下熱水溜まりや熱水変質帯の分布を実際に確認できただけでなく、掘削同時検層データから推定される海底下熱水鉱床の母体となる硫化鉱物濃集層を実際に試料として得ることに成功しました(図3)。この結果は、油田開発で用いられてきた掘削同時検層が、海底下熱水鉱床の開発に応用可能な新しいツールとなる可能性を示すものです。

(3)掘削地点における事前の環境ベースラインデータの収集

掘削予定地点の周辺にて「ちきゅう」に搭載した無人探査機によるビデオ映像の記録と観察、堆積物試料の採取、センサーによる温度計測を行いました。また、表層環境の状況を解析するため海水を採取して保存するとともに、植物プランクトンの生息状況を船上実験室にて観察しました。

3.今後の予定

SIP課題「次世代海洋資源調査技術」の下、これまでに得られたコア試料や地層物性データ等の詳細な解析を進めることによって、伊平屋北海丘の海底下の熱水域の広がりを科学的に明らかにするとともに、海底下鉱体形成過程を長期的に調べるための観測装置を掘削孔に設置するなど、その発達メカニズムや熱水鉱床形成との関わりについて研究を進めていきます。また、船舶や探査機による海底熱水域の探査と今回の研究で可能性が示された新しい海底下熱水活動や鉱床の探査技術を組み合わせることによって、有望海域の絞り込みに有効な方法論の開発・確立に取り組みます。

なお、本航海に関する具体的な研究成果については、論文等としてまとまった段階で公表します。

4.「ちきゅう」の予定

7月26日に沖縄県中城港にて資機材の搬出及びクルーチェンジを行い、その後、静岡県清水港において保守・整備作業を行う予定です。

※1 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)

総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が自らの司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野の枠を超えたマネジメントに主導的な役割を果たすことを通じて、科学技術イノベーションを実現するために新たに創設したプログラム。CSTIにより、「次世代海洋資源調査技術」を含む10課題が選定された。

※2 統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)

日・米が主導国となり、2003年10月から2013年10月まで実施した多国間国際協力プロジェクト。日本が運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船ジョイデス・レゾリューション号を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行った。2013年10月からは、国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)に引き継がれた。

※3 掘削同時検層

地質の特性や断層を把握するため、ドリルパイプの先端近くに物理計測センサーを搭載し、掘削と同時に孔内で各種計測を行うこと。

図1

図1 掘削地点

掘削同時検層とコア試料採取双方を行った地点
掘削同時検層のみを行った地点
IODPによる科学掘削調査の地点(C0013E、C0014G、C0015B、C0016A、C0016B、C0017)
図1

図2 今回の調査で推定される熱水溜まりの分布(図1の詳細海底地形図で範囲はほぼ同じ)

黒破線:
伊平屋北オリジナルサイトの範囲
濃い赤:
掘削同時検層もしくは海底観察で熱水の存在が確認できる場所
薄い赤:
掘削同時検層データと反射法地震探査データで熱水溜まりが推定される範囲
赤破線:
反射法地震探査データにより拡張しうる範囲
掘削同時検層とコア試料採取双方を行った地点
掘削同時検層のみを行った地点
図3

図3 採取した海底下熱水鉱床の母体となる硫化鉱物濃集層の一部

 

独立行政法人海洋研究開発機構
(本内容について)
海底資源研究開発センター資源成因研究グループ 上席研究員 高井 研
(「ちきゅう」について)
地球深部探査センター 企画調整室長 菊田 宏之
(報道担当)
広報部 報道課長 菊地 一成
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