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2014年 9月 3日
独立行政法人海洋研究開発機構
国立大学法人東京大学

日本列島最古の鉱床年代決定に成功
~Re-Os法により日立鉱床の生成年代が明らかに~

1.概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という)海底資源研究開発センターの野崎達生研究員、鈴木勝彦上席研究員、東京大学大学院工学系研究科の加藤泰浩教授は、レニウム-オスミウム(Re-Os)年代決定法(※1)を用いて、長い間不明であった茨城県日立鉱床(火山性塊状硫化物鉱床(※2)に分類される銅・亜鉛鉱床)の生成年代を、鉱床を構成する硫化鉱物(※3)から直接決定することに成功しました。その結果、日立鉱床の生成年代はこれまで考えられていた石炭紀前期(約3億2,320万年前~3億5,890万年前)ではなくカンブリア紀(4億8,540万年前~5億4,100万年前)であり、日本列島最古の鉱床であることを明らかにしました。

本成果は、先行研究により提唱された日立地域に分布する1億5千万年間にわたる地質記録の欠落(ハイエタス)や本地域にカンブリア紀の地質が広く分布することを裏付ける証拠であり、日本列島がたどった歴史を再構築するうえで、その初期過程の年代幅を絞り込む重要な年代制約になることが期待されます。

本成果は、米国のThe Society of Economic Geologists, Inc.(SEG)が発行する学術雑誌「Economic Geology」に9月1日付け(現地時間)で掲載されました。

タイトル:Re-Os geochronology of the Hitachi volcanogenic massive sulfide deposit: The oldest ore deposit in Japan
著者:野崎達生1,2,3、加藤泰浩1,2,3,4、鈴木勝彦1,2
1. 海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域
2. 海洋研究開発機構 海底資源研究プロジェクト(現:海底資源研究開発センター)
3. 東京大学大学院工学系研究科 システム創成学専攻
4. 東京大学大学院工学系研究科 附属エネルギー・資源フロンティアセンター

2.背景

鉱床の成因や探査指針を検討するうえで、最も基礎的かつ重要な情報は生成年代です。従来、鉱床の生成年代は鉱床形成の源となる岩石(母岩)に含まれるケイ酸塩鉱物(※4)の放射年代や、周辺地域に産出する化石記録に基づいて間接的に決定されてきました。しかし、分析機器の発達や技術の向上及び前処理法の確立により、研究現場ではRe-Os同位体を用いた年代決定法(図1)が普及し始めています。 Re、Osはともに親鉄・親銅元素(※5)であるために硫化鉱物に濃集する性質があり、鉱床の生成年代を、鉱床を構成する硫化鉱物から直接決定できるという大きな利点があります。また、変成作用(※6)による同位体情報の二次的な擾乱(年代測定に必要な岩石の持っている初生的な地球化学情報が二次的に上書き・改変されてしまうこと)にも比較的強く、変成帯に分布する鉱床でも初生的な年代情報を得られることがあります。

JAMSTECはRe-Os同位体分析を高精度で行える国際的にも数少ない研究機関であり、これまでにも東京大学などと共同で、Re-Os年代決定法を用いた様々な鉱床・鉱石の年代決定によって、重要な科学的発見がなされてきました(平成25年5月29日「ジュラ紀後期のグローバルな無酸素海洋の発達による大規模な海底熱水硫化物鉱床と石油鉱床の生成と保存」、平成20年12月24日発表「従来の定説より3億年前に酸化的大気が存在したことの直接的証拠の発見」)。

今回、研究対象とした日立地域は、変成作用を被った岩石で構成されており、化石記録や放射年代記録に乏しい地域です(図2)。その北西に位置する日立鉱山(図2)は1591年に開発が開始され、1981年に閉山するまでに約3,000万トンの硫化物鉱石、44万トンの銅、5万トンの亜鉛を採掘した日本屈指の鉱山であり、その鉱床の成因について長年にわたって研究されてきました。これまで、日立鉱床の生成年代は、石灰岩中に含まれる珊瑚化石の数少ない記録から石炭紀前期(約3億2,320万年前~3億5,890万年前:地質年代については末尾の国際年代層序表を参照)と推定されてきましたが、同地域には、飛騨帯や南部北上帯のように中国古大陸の断片が分布していると考えられることから、その年代はカンブリア紀(4億8,540万年前~5億4,100万年前)まで遡ると先行研究により報告されていました。しかしながら、他の化石や年代記録が乏しいため、これまでは日立鉱床そのものから直接的に具体的な生成年代を明らかにすることはできていませんでした。

3.成果

本研究では、1971~1973年にかけて岡山大学の加瀬克雄名誉教授により日立鉱山の坑道内から採取された鉱石試料(図3)をRe-Os年代決定法を用いて分析した結果、日立鉱山不動滝鉱床から5億3,300 ± 1,300万年前を示すRe-Osアイソクロン(※1)が得られました(図4)。この結果は、日立鉱床の生成時期が、これまで考えられていた石炭紀前期よりも約2億年古い生成年代であることを示すものです。したがって、不動滝鉱床を含む日立鉱山の一部の鉱床群は、従来考えられていた石炭紀前期の大雄院層ではなく、カンブリア紀の上部赤沢層に分布していることが明らかになりました。

また、最近の先行研究により、日立鉱山不動滝鉱床の直上には石炭紀前期とカンブリア紀にまたがる約1億5,000万年の年代差を持つ不整合(※7)を有する地層が存在すると報告されていましたが、研究チームの得たRe-Os年代はそれを強く裏付ける結果となるとともに、鉱床母岩である火成岩の噴出年代も鉱石の沈殿とほぼ同時であると考えられることから、日立地域にはカンブリア紀の地質体が広く分布していることも裏付ける結果です。

さらに、本研究で得られた年代情報と当時の大陸配置および日立地域に分布する火成岩の地球化学的特徴が背弧-島弧-海溝系の特徴を示すことから、日立鉱床は古中国大陸とパンサラッサ海(古太平洋)の沈み込み帯の間の島弧域(背弧域)で生成したことが明らかになりました。

本研究のもう1つの成果としては、日立鉱山不動滝鉱床のような変成作用(緑簾石-角閃岩相(※8)低温部程度)を被った岩石について、従来は初生的な年代を明らかにすることは困難とされてきましたが、Re-Os同位体法を用いればそれが可能であることを実証したことです。したがって、複雑な地質学的プロセスを経てきた日本列島の構造史をひも解くうえで、Re-Os年代決定法が有効な手法であることを示しています。

4.今後の展望

日立鉱床の年代値は、これまでに年代が明らかになっている日本の鉱床の中では最古であることから、日本列島がたどった歴史を再構築するうえで、その初期過程の年代幅を絞り込む重要な年代制約になることが期待されます。今後も本手法を用いた鉱床学的・地球化学的研究を進めることにより、まだ生成年代の明らかになっていない大規模な鉱床についても年代値が明らかにされ、成因解明が進むことが期待されます。特に、日本列島には様々なタイプの鉱床や、火山性塊状硫化物鉱床の模式地などが存在することから、多くの鉱床の成因解明にも寄与すると考えられます。そして最終的には、日本列島構造史の解明や効率的な資源探査指針の策定に貢献することが期待されます。

※1 Re-Os年代決定法:Re、Osは原子番号75番、76番の元素であり、Osは6つある白金族元素の1つ。Reには185Reと187Reの2つの同位体が存在するが、これらのうち187Re量が半分に減少するまでの時間(半減期)は416億年で、β-線を放射して187Osを生じる。この放射壊変系を利用した年代決定法がRe-Os法である。化学分析により得られる187Re/188Os同位体比と187Os/188Os同位体比から近似直線(等時線:アイソクロン)を引き、その傾きから年代値を計算することができる。

※2 火山性塊状硫化物鉱床:海底火山・熱水活動に伴う噴気性堆積鉱床で、火山岩を母岩とするもの。日本列島に広く分布している別子型鉱床や黒鉱鉱床は、火山性塊状硫化物鉱床の一種に分類される。

※3 硫化鉱物:鉱物の分類上で、硫黄(S)と結合している鉱物群。日立鉱床の鉱石は、主に黄鉄鉱(FeS2)、黄銅鉱(CuFeS2)、閃亜鉛鉱((Zn,Fe)S)、磁硫鉄鉱(Fe1-xS)、方鉛鉱(PbS)などから構成される。

※4 ケイ酸塩鉱物:ケイ素(Si)を中心としたケイ酸基四面体を基本構造に持つ鉱物群。鉱床母岩の生成年代決定には、雲母、長石、角閃石のK-Ar年代、40Ar-39Ar年代、Rb-Sr年代などが広く用いられている。

※5 親鉄元素、親銅元素:隕石質の物体が融解した仮想的な条件下で、金属相(主にFe)や硫化物相(主にFeS)に濃集する元素。

※6 変成作用:堆積岩や火成岩が、それができた時とは異なった温度・圧力その他の条件の下で、大部分が固体の状態で鉱物組成や組織が変化する現象。海洋プレートが沈み込んだ際に被る広域変成作用、花崗岩などの火成岩の貫入による接触変成作用、断層の変位などによる動力変成作用に分類される。日立鉱床は、広域変成作用と一部地域で白亜紀花崗岩類の貫入による接触変成作用を重複して被っている。

※7 不整合:ある地層が、堆積後または火成岩・変成岩の形成後に隆起し、陸上で風化・削剥作用を受け、その浸食面上に新しい地層が堆積した時、両者の関係を不整合という。すなわち、見かけ上は連続して接する2つの地層に時間間隙が存在する。

※8 緑簾石-角閃岩相:変成岩に含まれる鉱物組合せと岩石の化学組成の関係から定義される変成作用の一定範囲の温度・圧力条件(変成相)の1つ。緑色片岩相と角閃岩相との中間の変成条件を示す変成相。

図1 Re-Os年代決定法の原理:187Re/188Os同位体比と187Os/188Os同位体比をプロットして得られる近似直線(Re-Osアイソクロン)の傾きから、年代値を求めることができる。

図2 茨城県日立鉱床の位置図と層序区分図:日立鉱山は、茨城県日立市の中心部より北西約8 kmに位置し、不動滝、藤見、諏訪、大雄などの70を超える鉱体から構成される。

図3 日立鉱山不動滝鉱床および藤見鉱床鉱石試料の反射顕微鏡写真:鉱石試料は、主に黄鉄鉱から構成され、黄銅鉱、閃亜鉛鉱、磁硫鉄鉱、方鉛鉱、白鉄鉱、重晶石などを含む。閃亜鉛鉱や磁硫鉄鉱を多く含む藤見鉱床の鉱石試料からは、直線性の良好なアイソクロンが得られなかった。

図4 日立鉱山不動滝鉱床のRe-Osアイソクロン:黄鉄鉱および黄銅鉱が卓越する不動滝鉱床の鉱石試料からは直線性の良好なアイソクロンが得られ、その年代値は5億3,300 ± 1,300万年前と求められた。なお、187Re/188Os同位体比と187Os/188Os同位体比が最も高い試料(FD04)は、直線近似と年代計算から除いている。

[参考]

地質年代については、国際地質科学連合(IUGS)の国際層序委員会(ICS)が定めた国際年代層序表を参照(IUGSの許諾を得て、一般社団法人日本地質学会が作成)。
http://www.geosociety.jp/uploads/fckeditor//name/ChronostratChart2014_1.pdf

独立行政法人海洋研究開発機構
(本研究について)
海底資源研究開発センター 研究員 野崎 達生
国立大学法人東京大学大学院工学系研究科
附属エネルギー・資源フロンティアセンター 教授 加藤 泰浩
(報道担当)
広報部 報道課長 菊地 一成
大学院工学系研究科 広報室 永合 由美子
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