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プレスリリース

2014年 10月27日
独立行政法人海洋研究開発機構

地球の軌道変化は太古の南極にいかなる影響を及ぼしたか
―鮮新世~前期更新世における東南極氷床量の変動から―

1.概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦)生物地球化学研究分野のフランシスコ・ヒメネス研究員らは、統合国際深海掘削計画(IODP)第318次掘削航海において、南極大陸ウィルクスランド沖(図1)で掘削された海底コアの解析を行いました。その結果、350万年前を境に東南極の氷床量の変動パターンが変化していることを発見しました。

南極の氷床量は気候変動の影響を敏感に受けており、その長期的な変動パターンは地球への太陽エネルギーの入射に影響する地球の軌道要素(図2)と連動していることが知られています。地軸の歳差運動は夏季の日射量に影響を与え、氷床の成長や融解をコントロールすると考えられています。一方、地軸傾度の変化は、海水温の変化をもたらす年平均日射量に影響を与えるとされています。

今回、南極海の掘削コア試料を用いて430万年前~220万年前の東南極氷床融解のタイミングについて解析を行った結果、350万年前より古い時代には氷床融解のタイミングが地軸傾度の周期変動に連動していたが、350万年前以降は歳差運動に連動することが明らかになりました。つまり、350万年前より古い時代には東南極氷床は南極海の海水温の変動に影響を受け、350万年前より若い時代には東南極氷床が夏季の日射量により大きく影響を受けるようになったことを示します。

地球環境はこの数100万年間、長い時間スケールで見ると徐々に寒冷化しています。本研究成果は、その寒冷化の過程で東南極氷床の成長・融解のペースメーカーが350万年前を境にスイッチしたことを示しています。350万年前以降は東南極氷床の周辺の海域では通年で海氷が発達するようになり、海水温の影響が小さくなる一方、歳差運動がコントロールする南半球の夏季日射量の極大期にのみ東南極氷床の大規模な融解が起こるようになりました。

この研究成果は、南極周辺の海水温が現在よりも約2℃高い状態で東南極氷床の増減、特に融解が何によってコントロールされるかを示しています。人類が直面する地球温暖化に伴い、東南極氷床がどう挙動するかを知る重要な知見を示すとともに、将来的な気候変動予測にも貢献することが期待されます。

この成果は10月27日付(日本時間)で英科学誌「Nature Geoscience」へ掲載されます。

タイトル:
Orbital forcing of the East Antarctic Ice Sheet during the Pliocene and Early Pleistocene.
著者名:
M. O. Patterson1, R. McKay1, T. Naish, C. Escutia2, F.J. Jimenez-Espejo3, M.E.Raymo4, S.R. Meyers5, L. Tauxe6, H. Brinkhuis7, and IODP Expedition 318
1. ヴィクトリア大学ウェリントン校、2. グラナダ大学、3. 海洋研究開発機構、4. コロンビア大学ラモント・ドハーティー地球観測所、5. ウィスコンシン大学マディソン校、6. スクリップス海洋研究所、7. ユトレヒト大学

2.背景

地球上に存在する最大の氷床は南極大陸にあり、その面積は1400万km2と日本の陸地面積の約37倍にも及びます。氷床は地球の気候変動に呼応し、数万~数十万年という長い時間スケールで周期的に増減します。このような数万~数十万年単位の長期的な気候変動に影響を及ぼしているのは、地球と太陽の位置関係の周期的な変化です(図2)。

地球は、太陽の周りを公転していますが、その公転軌道は絶えず変化しており、ほぼ完全な円から楕円になり、また元に戻るという動きをおよそ10万年周期で繰り返しています(離心率)。また,赤道傾斜角はおよそ4万年周期で変化します(地軸傾度)。さらにコマの首ふり運動のように地軸が回転する歳差運動は2万年の周期性を持っています(地軸の歳差運動)。このような軌道要素の変化がもたらす、地球と太陽の位置関係の微妙なずれが、地球が受け取る太陽放射の量(日射量)を変動させます。この日射量の周期的変化を「ミランコヴィッチ・サイクル」と呼びます。

地球の気候変動に周期性があることは、海底堆積物に含まれる有孔虫の石灰質殻の酸素同位体比などから知られています(氷期‐間氷期サイクル)が、驚くべきことにその気候変動の周期はミランコヴィッチ・サイクルとぴたりと一致します。このことは、地球の軌道要素の周期的変化が、氷期や間氷期といった大きな周期的気候変動をもたらすことを意味しています。

離心率、地軸傾度、歳差運動の3要素の中でも、とりわけ地軸傾度と歳差運動は気候に大きな影響力を持っています。というのも、この2つは高緯度域への夏季の日射量を変化させ、それが氷床量を変化させるためです。特に後期更新世以降(80万年前以降)の気候変動の記録媒体には歳差運動の周期である約2万年周期が明瞭に記録されています。しかし、不思議なことに鮮新世から前期更新世にかけての期間(およそ500-200万年前)にはこの2万年周期が明瞭に見られません。気候システムへの影響力の強い歳差運動の周期が見られないのはなぜか?このことは科学者を長年悩ませ続けてきました。この原因を説明すべく、これまで多くの仮説が提唱されてきました。しかし、いずれも決定打に欠けています。特に問題なのは、200万年前以前の南極氷床の成長や衰退の歴史を記録する直接的な証拠が得られていないことでした。

3.成果

そこで、研究チームは南極周辺の海域の堆積物に含まれる「砕屑物(岩くず)」に注目しました。氷床が流れるとき、氷床の底面が基盤岩と擦れることで多量の砕屑物ができます。氷床の一部が海氷となって海洋に運ばれ、融けてその中の砕屑物が堆積します。この砕屑物をice-rafted debris(海氷運搬砕屑物)と呼びます。ある地点の海底コア中に含まれるこの砕屑物の堆積速度を調べていくと、過去の海氷の量を知ることができます。

この考えに基づき、研究チームは統合国際深海掘削計画(IODP)第318次航海において、ウィルクス海盆の近傍のコンチネンタルライズ(サイトU1361、水深約3000 m)で掘削回収された430-220万年前の地質記録を含む海底コアから、この砕屑物の堆積速度を調べました。

ウィルクス海盆は東南極氷床が海に張り出す場所にあり、海洋の変動に対して東南極氷床が敏感に変動していると考えられている場所です。解析の結果、その時系列変化にいくつかの重要な周期が見えてきました。350万年前よりも古い時代には堆積速度は4万年周期が卓越していますが、350万年前以降は4万年周期が不明瞭になり(図3a)、代わりに10万年周期や2万年周期が明瞭になります。これは、350万年前以前には地軸傾度の変動が気候サイクルに大きく影響していたのに、350万年前以降は歳差運動が気候サイクルに大きく影響するようになったことを示しています。

これらの結果は、350万年前より前の温暖な気候の時代には地軸傾度の変動による年平均日射量の変化が南極氷床量の変動に大きな影響を及ぼしていたことを示します。この年平均日射量の変化は、歳差運動がコントロールする夏季日射量の変化よりも顕著に表れています。

一般に、夏季の日射量は氷床の融解に直接的に影響します。一方、年平均日射量は熱容量の大きな海水温に顕著な影響を与えます。このことから、気温よりも海水温の変動が東南極氷床の成長や衰退に大きく影響していたことが分かりました。350万年前以前には現在よりも南極周辺の海水温が高かったため、海水温の影響が現在よりもはるかに強かったと考えられます。

これに対し、350万年前より若い時代になると歳差運動に関連した氷床量の変化がより明瞭になります。これは、氷床量の変動が夏季の日射量の変化に影響を受けるようになったことを意味します。研究チームは、海底コア中の砕屑物の記録から海氷が通年で発達するようになった時期であたることに注目しました。つまり、南極海の高緯度海域が寒冷化して通年で海氷が発達することで、海水温の変化が直接東南極氷床に影響しにくくなったことが原因だと推測しています。これは、このようなコンディションになると、海水温ではなく、氷床の融解に直接作用する夏季の日射量の変動が氷床量の変動により大きな影響を与えるからです。

4.今後の展望

本研究は、これまで地軸傾度の変化が気候を支配していたと思われていた鮮新世~前期更新世の時代の中で、特に350万年以降の時代に地軸の歳差運動が強く東南極氷床の変動に影響していたことを示しました。これは地球の気候変動を理解する上で新しい知見でもあり、新しいパラドックスの誕生でもあります。なぜ350万年前以降も依然としてグローバルな氷床量を示す古気候記録(底生有孔虫の炭酸カルシウム殻の酸素同位体比など)は地軸傾度の4万年サイクルが優勢(図3b)なのに、東南極氷床の変動は歳差運動に大きく影響を受けるようになるのか?今回の成果を踏まえ、今後、350万年前を境に南極が寒冷化した原因とも絡めながら、こうした課題に対して研究が進むものと期待されます。さらに、南極周辺の海水温が現在よりも数度(約2℃)高い状態で、東南極氷床の挙動が何によってどうコントロールされていたかを知る重要なヒントを与えてくれます。人類が直面する地球温暖化に伴い、将来の東南極氷床の挙動を知る氷床モデルの高精度化に大きな知見を与えるものと期待できます。

図1

図1.ウィルクスランド周辺の地形とサイトU1361の掘削地点。白矢印は現在の海氷の流出経路。

図2

図2.3つの軌道要素の概要。およそ10万年周期で変動する離心率(楕円のひしゃげ具合、上)、およそ4万年周期で変動する地軸傾度(左下)、およそ2万年の周期を持つ地軸の歳差運動(右下)。
http://www.sciencecourseware.org/eec/GlobalWarming/Tutorials/Milankovitch/

図3

図3.軌道要素が気候に与える影響の強さの時系列変動。周期解析結果の概略。a) 軌道要素(離心率、歳差運動、地軸傾度)が海氷によって運ばれる砕屑物(IBRD)の堆積速度にどのような影響を及ぼしているか(周期性の強さ)を表したもの。350万年前より古い時代には地軸傾度の影響が卓越しているが、350万年前より新しい時代には、歳差運動や離心率の影響が大きくなっていることがわかる。なお、離心率の影響が大きくなっているのは、離心率の変化が歳差を増幅する間接的な効果によるもの。これに対し、b)世界各地の底生有孔虫酸素同位体比(Lisiecki & Raymo (2005))においては、350万年前以降も地軸傾度の変動周期の影響が強く見て取れる。

図4

図4.氷河中の砕屑物が地層に堆積していく様子(模式図)

独立行政法人海洋研究開発機構
(本研究について)
生物地球化学研究分野
研究員 フランシスコ・ヒメネス
主任研究員 黒田 潤一郎
(報道担当)
広報部 報道課長 菊地 一成
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