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2014年 12月 16日
独立行政法人海洋研究開発機構

東北地方太平洋沖地震に伴う繰り返し地震の揺らぎを再現
~地震予測研究に重要な解析手法を実証~

1.概要

独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」)地震津波海域観測研究開発センターの有吉慶介技術研究員は、2011年の東北地方太平洋沖地震の発生により、その直後から活発化した釜石沖の繰り返し地震(※1)活動の揺らぎの特徴について、「地球シミュレータ」を用いた大規模数値シミュレーションによって再現し、この再現性を複数のモデルで試行検証することにより、東北地方太平洋沖地震に伴う余効すべり(地震発生後も続く断層のゆっくりとしたすべり)の伝播方向や摩擦特性について、岩石実験や測地観測のような従来の手法とは独立して推定できることを実証しました。

余効すべりの伝播方向や摩擦特性の把握は、繰り返し地震のみならず海溝型巨大地震をモデル化する上で重要な手がかりとなるものですが、日本周辺ではプレート境界の多くが深海にあるため、陸上観測からでは、その把握が難しいのが現状でした。

今回の研究成果を、今後、南海トラフのような海溝型地震も含む、他の「繰り返し地震」に適用することで、今後の地震予測研究に役立つことが期待されます。

本成果は、米科学雑誌「Geophysical Research Letters」に12月16日付け(日本時間)で掲載される予定です。

タイトル:A trial estimation of frictional properties, focusing on aperiodicity off Kamaishi just after the 2011 Tohoku earthquake
著者:有吉慶介1, 内田直希2, 松澤暢2, 日野亮太3, 長谷川昭2, 堀高峰1, 金田義行4
1.独立行政法人 海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センター, 2.東北大学大学院理学研究科附属 地震・噴火予知研究観測センター, 3.東北大学 災害科学国際研究所, 4.名古屋大学 減災連携研究センター

2.背景

岩手県釜石沖 (図1) の深さ約50kmのプレート境界では、M4.9±0.1の地震が約5.5年間隔で非常に規則的に発生することが世界的に知られていました。このような規則正しい地震が起こる理由は、この地震の周辺のプレート境界で、ほぼ一定の速度でのゆっくりとしたすべり(ゆっくりすべり、スロースリップ:slow slip)が進行しており、その中の1kmほどの大きさの固着域(ひっかかり:asperity)が周りのすべりに追いつこうと定期的にすべる(地震を起こす)ためと考えられています。このように、同じ場所において同じ地震波を放出する地震を「繰り返し地震」と呼んでいます。

釜石沖の繰り返し地震は、発生間隔と規模がほぼ一定となる、規則的な活動をする地震 (固有地震) としても世界的に知られていました。このような固有地震のほとんどは、周期が長く被害をもたらすような大型の地震がほとんどですが、釜石沖の繰り返し地震は、固有周期が短く、固有マグニチュードが小さいため,地震の発生モデルを検証することが比較的容易であり、また近年の高精度観測データによって小さなシグナルも捉えられるようになってきたことから、プレート境界型地震の発生メカニズムを研究する上で非常に重要な対象となっています。

ところが、2011年にM9の東北地方太平洋沖地震が発生し、釜石沖の繰り返し地震の発生間隔や規模に大きな「揺らぎ」が生じました (図2)。東北大学および気象庁による長期間の観測データによると、1957年以降、M4.9クラスの地震が約5.5年間隔と規則的に起きていたのに対し、2011年3月の東北地方太平洋沖地震発生直後には1年間で7回と頻発しています。またその規模も、同地震発生直後には通常よりも規模の大きな地震が起こり、その数週間後の3月29日には通常よりも規模の小さな地震が起こっています。

研究チームはこの「揺らぎ」の原因が、巨大地震後に発生した「余効すべり」の釜石沖への伝播にあるのではないかと考えました。東北地方太平洋沖地震で発生した大規模な余効すべりが周辺の固着域を巻き込んで広がり、釜石沖にまで達した結果、従来の釜石沖での繰り返し地震のサイクルに影響を及ぼしたのではないかというのが研究チームの立てた仮説です。

余効すべりは、周辺にある壊れかけの固着域を連鎖的に破壊する要因の一つと考えられています。そのため、余効すべりの伝播方向が分かると、「次の地震が起きるとしたら、どの震源域が危ないのか」を事前に推定する手掛かりとなることが期待されます。そのためには測地観測が必要となりますが、陸上観測網から離れている海溝型巨大地震の場合、海底で観測をする必要があるため、観測体制が整っていなければ推定できないという問題があります。

一方、プレート境界面の摩擦特性は、岩石実験の結果から幾つかの法則が提唱されていますが、実験 (数cm~1m) と実際の断層(数km~数百km)の大きさのスケールがあまりにも異なることや、温度・圧力条件なども限られているため、どの法則が適しているのかは未解明のままとなっていました。

本研究では、この仮説を検証するため、M7クラスの大規模地震とM4クラスの小規模地震の震源域が共存するモデル (図3) を用いて数値シミュレーションを行い、大規模な余効すべりによって小規模地震のもつ固有性が揺らぐ過程について再現を試みました。もし、この数値実験で「揺らぎ」を再現し、仮説を証明することができれば、繰り返し地震発生メカニズムの理解に役立つだけではなく、これまでの観測や実験等とは別に数値シミュレーションにより余効すべりの伝播方向や摩擦特性を推定する有力な手掛かりとなることも意味します。

但し、このような規模の大きく異なる地震サイクルの数値シミュレーションは大規模な計算を要することから、計算の効率化を図るため、JAMSTECと東北大学の共同研究によって開発されたベクトル型計算機用の最適化コードをJAMSTECが所有するスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」に適用することで、初めて上記の再現検証を行うことができました。

3.成果

数値シミュレーションの結果、余効すべりの通過に伴って小規模地震の固有性が大きく揺らぐ現象が良く再現できました(図4)。

再現されたシナリオによると,小規模地震が固有的に振舞う期間では,摩擦不安定域 (スケートリンクのようにすべり速度が速いほど摩擦抵抗力が小さく、一旦止まると凍りつくように凝着する性質をもつ領域) の中心付近だけが部分的に地震を引き起こすほど高速にすべり、その周辺 (摩擦安定域:粘性のように、すべり速度が大きいほど摩擦抵抗力が大きくなる性質をもつ領域) ではゆっくりとすべる現象が繰り返し起きています。それが、大地震発生に伴った大規模な余効すべりが通過すると、摩擦不安定域全体を覆うように地震性の高速すべりが発生し、通常よりも規模の大きな地震が発生します。このとき、大規模な余効すべりは、小規模地震震源域の連鎖破壊によって、伝播速度がその周辺で速くなります。その後、周りの余効すべりのフロントが追いつこうとする一方で、小規模地震震源域で先行した余効すべりのフロントは停滞するため、小規模地震震源域内のせん断応力(物体内部のある面の平行方向に、すべらせるように作用する応力)は、余効すべり伝播方向の前面側で局所的に高まります。その結果、部分破壊が中心からずれたかたちで2回に渡って発生し、両者は相補的な位置関係にあることが確かめられました。

このような震源域の空間的な揺らぎは、釜石沖でもみられています (図5)。釜石沖の地震について上記の解釈を当てはめると、東北地方太平洋沖地震の余効すべりは、釜石沖では東南東から西北西方向へ伝播したと解釈することができます。

このことから本研究の成果をまとめると、繰り返し地震発生メカニズムを理解する上で有望な知見を得るとともに、1.摩擦特性および摩擦構成則について小規模地震の固有性が揺らぐ条件に基づく数値シミュレーションから(岩石実験とは独立して)絞り込めること、2.余効すべりの伝播方向を測地学とは独立して推定できること、となり、新たな解析手法の妥当性が今回の数値シミュレーションから示されたことになります。

4.今後の展望

今回の研究成果は、釜石沖の繰り返し地震に限らず、他の繰り返し地震にも適用することが可能であり、南海トラフ地震のような海溝型巨大地震に関しても適用されることが期待されます。 特に文部科学省が進める南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト(※2)として進められている、日本周辺における海溝型巨大地震のモデル化を行う際に、摩擦特性や摩擦構成則などの条件を設定する上で、重要な知見を与えるものです。

また、同プロジェクトでは、南海トラフ沿いに設置された地震・津波観測監視システム(DONET:※3)を活用し、陸上からの観測が難しい、海溝付近で発生する小規模の繰り返し地震も対象に含めることで、微小な海底地殻変動を検知する研究が進められています。繰り返し地震は、その規模とすべり量の関係を用いて、震源域周辺でのプレート境界面上のすべり量を推定する手法としても活用されており(文部科学省・災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画「相似地震再来特性の理解に基づく地殻活動モニタリング手法の構築」)、本手法はその推定精度の向上にも役立つものと期待されます。

さらに、これらの研究によって得られた知見を、トルコ共和国における巨大地震の空白域として世界的に知られるマルマラ地震にも応用する試みが進められています。JAMSTECでは現在、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)の受託研究「マルマラ海域の地震・津波災害軽減とトルコの防災教育」の代表研究機関として、トルコ向けに最適化された海底地震計をマルマラ海直下に設置しました。この地震計データと陸上のGPS観測データを併用することにより、マルマラ海底下に走る北アナトリア断層の動きを推定する試みが進められています。今後は、東北大学およびトルコのボアジチ大学をはじめとする日本・トルコ間の共同研究によって、長期海底地震観測データを用いた繰り返し地震の解析が実施される予定です。

※1 繰り返し地震:ある断層において、ほとんど同じ間隔と規模をもって、周期的に繰り返し発生する地震。

※2 南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト:文部科学省が平成25年度から8年間にわたって実施する研究プロジェクト。南海トラフから南西諸島海溝域までの調査観測を実施し震源モデルを構築、地震・津波の被害予測とその対策、発災後の復旧・復興対策を検討し、地域の特性に応じた課題に対する研究成果の活用を推進させることを目的とする。

※3 地震・津波観測監視システム(DONET):三重県尾鷲市古江町の陸上局から、紀伊半島の沖合約125km先まで、総延長約250kmに渡る基幹ケーブルをループ状に敷設し、途中5箇所の拡張用分岐装置に、それぞれ4つの観測点が接続された稠密な地震・津波観測監視システム。各観測点は、地震計や津波を検知する水圧計等で構成された観測装置ユニットで、水深約1,900mから4,300mの深海底に設置されている。(現在、四国沖に同様のシステムDONET2を構築中。)観測装置には海底ケーブルを介して陸上から電力が供給され、観測装置からは海底の地震動、水圧変動等のデータがケーブル内の光ファイバーを通じてリアルタイムで陸上局へ送られており、従来の観測システムではなし得なかった深海底における多点同時かつリアルタイムの観測を行っている。観測装置からのリアルタイムデータは、陸上局から専用回線を通じて海洋研究開発機構横浜研究所や防災科学技術研究所、気象庁に配信されている。

図1

図1 釜石沖の震央と東北地方太平洋沖地震のすべり分布

図2

図2 釜石沖の地震活動履歴

図3

図3 本研究で想定した数値モデル。固有地震発生域は、距離が異なる3点で行った。

図4

図4

図4.(左上図)図3の中央に位置する固有地震震源域内で平均したすべり速度履歴。★印は大地震が発生した時刻を表わす。aging-law では余効すべりによる活発化が再現できるが、slip-law では静穏化する。(右上図)①②③の時刻におけるプレート境界面上におけるすべり速度の空間分布図。暖色系が高速すべり、寒色系が固着を示す。大地震震源域が固着している期間内に固有地震が発生した際のすべり速度分布も参考までに示す。(左下図)固有地震震源域周辺における地震性高速すべりの空間分布図。

図5

図5 東北地方太平洋沖地震発生後(図2の灰色背景色)の釜石沖地震の震央分布。東南東~西北西方向に揺らいでいることが分かる。

独立行政法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地震津波海域観測研究開発センター 地震津波予測研究グループ
技術研究員 有吉 慶介
(報道担当)
広報部 報道課長 菊地 一成
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