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プレスリリース

2015年 3月 27日
独立行政法人海洋研究開発機構
国立大学法人東京大学地震研究所
国立大学法人京都大学大学院理学研究科

2013年11月噴火後初めてとなる海洋調査船による西之島火山の学術調査研究について
~火山活動、地震、津波の観測体制を整備し、西之島周辺の地形調査、空振観測、
映像撮影等を実施~

1.概要

独立行政法人海洋研究開発機構(以下「JAMSTEC」という。)、東京大学地震研究所、京都大学大学院理学研究科の研究チームは、2013年11月の噴火後初めて西之島周辺海域(西之島から6km以上外側の海域)で、海洋調査船による西之島火山活動の学術調査研究を実施しました。(

本調査では、西之島火山の斜面崩落に伴う微小津波観測のために、海底微差圧計を装備した海底長期電磁場観測装置(以下「SFEMS」)と、火山噴火に関係する微小地震活動観測のための海底地震計(以下「OBS」)5台を設置しました(図1)。また西之島周辺海域におよそ2日間滞在し、周辺の地形調査、空振観測と目視観察、映像撮影を行い、連続的な噴火の様子を把握することができました(図2)。

今回の調査により、東京大学地震研究所で行っている西之島から130km離れた父島での空振(噴火等に伴う空気の振動)の観測と今回の6km圏での観測結果を比較することで、父島での観測から西之島の活動を常時把握する道筋が付けられたと言えます。

(※)KR15-03航海(主席研究者:藤浩明 京都大学准教授 使用船舶:JAMSTEC深海調査研究船「かいれい」) 期間:平成27年2月20日~3月1日)
乗船研究者:JAMSTEC(浜野洋三・杉岡裕子・伊藤 亜妃)、東京大学地震研究所(市原美恵・阿部英二)、京都大学大学院理学研究科(藤浩明・川嶋一生・岩下 耕大)計8名

2. 背景

小笠原諸島・西之島では、2013年11月以来、活発な噴火活動が継続し、溶岩流出によって、新しく形成された島が成長を続け、新しくできた島は旧島を飲み込んで東西2 km 南北1.8 kmまで拡大しています(2014年2月5日計測・東京大学地震研究所)。島の中央やや南には火砕丘が成長し、小規模の爆発が頻発しており(海上保安庁)、その爆発によるものと思われる空振は、父島で体感されることもあります。火山噴火予知連絡会は、2014年6月に西之島総合観測班(班長:中田節也・東京大学地震研究所教授)を立ち上げ、気象庁、海上保安庁、および、各研究機関と連携して、西之島の活動把握と災害予防のための予測を試みていますが、観測情報は非常に限られています。

一方で、成長中の西之島の崩壊を想定した津波シミュレーション(東京大学地震研究所)の結果では、崩壊量によっては小笠原村に津波の影響が出る可能性が示唆されています。小笠原に影響が及ぶ津波が発生する可能性は、今の段階では非常に低いと考えられますが、将来の火山島成長に伴う災害軽減のためにも、新島形成を伴う火山活動の推移やメカニズムに関する知識の蓄積と、離島火山活動を監視する観測技術の開発が重要です。

 現在、東京大学地震研究所は、気象庁と小笠原村の協力のもと、父島において、西之島の空振活動のモニタリングを行っています。ここでは、130 kmの距離があるにも関わらず、高い頻度で西之島からの空振を検出していますが、この情報を火山活動に結び付けるためには、近い距離での計測データと比較し、伝播の影響を補正することが必要です。

 一方、京都大学とJAMSTECは、共同研究の一環で、西フィリピン海盆沖の鳥島近傍に2006年以来SFEMSを設置してきましたが、今回の噴火を踏まえ、西之島火山で生じうる山体崩壊に伴う微小な津波を検出することを目的として、西之島周辺海域への移設を計画していました。

これらの状況を受け、本調査航海では、西之島の活動、およびそれに伴う地震や津波の観測体制を整えること、航空機観測では得られない西之島周辺海域の地形調査、そして西之島近傍での空振・映像観察を行うことを主たる目的としました。

3.成果

①西之島火山周辺での地震、津波の観測体制の整備

西之島では活発な活動が続いていますが、火山の深部活動及び山体の崩壊を調べるための観測体制は噴火開始後これまでは存在していませんでした。本調査では、船舶に搭載された機器による西之島周辺の地形調査結果(後述)に基づき、西之島の中心からほぼ7km、水深1500mの海底に自己浮上型のOBS4台、中心からほぼ10kmのところで見つかった水深2000m程度で、南北におよそ500m程度の広がりを持つ平坦な場所に、OBS1台とSFEMS1台を設置しました(図1)。

SFEMSは、山体斜面の崩落や海底地滑りに伴って発生する微小津波を検出することで、火山体の津波発生メカニズムを解明するために有用な観測装置であり、今回試験的に設置したものです。

本調査で設置した全ての観測装置は回収後にデータを取得することとしています。OBSについては6月もしくは10月頃に回収を予定していますが、SFEMSについては当面設置し、津波計として用いて観測を継続していく予定です。このSFEMSは、現時点ではリアルタイム観測はできず、長期にわたり観測データを取得していくことで、火山体での津波発生メカニズムの解明のための基礎研究の役割を果たしますが、同時に、JAMSTECが現在開発しているウェーブグライダー(以下「WG」)を用いたベクトル津波計(以下「VTM」)()リアルタイム観測システムを設置するための準備観測としての役割を持っています。

②火山体近傍(6~10 km)での空振観測と映像観測

本調査において、2月26日6時頃~2月27日15時頃までの2日間にわたって西之島の活動の変化を近傍でとらえることができました。初めての連続観測であり、その意義は大きなものがあります。噴火活動の活発さは、時間によって大きく変わっており、全体として、27日の方が26日よりも活発であったという結果が得られました。

この間、船上に設置した空振計は、明瞭な空振波形を捉えており、映像データとも対応づけることができました(図4)。一方で、初期解析の結果では、空振の見られない時間帯も多く、これが実際の空振活動の盛衰を反映しているのか、ノイズや船の位置など外的影響によるものかについては、今後、詳しく調べる必要があります。

船が西之島から風下6 km付近を航行した後には、船体に付着した火山灰を採取しました。この火山灰を確認したところ、結晶を含む新鮮な噴出物であることから西之島由来のものであると推定され、火山活動を把握する上で貴重なサンプルとなります。また、やや大きな爆発に伴って、火口周辺で火山弾が見られましたが、飛距離は火砕丘の範囲内にとどまり、周辺海域には浮遊物等は見られませんでした。

③WGによるリアルタイム観測システム構築のための試験観測

開発中のリアルタイム観測システムに用いているWGは、イリジウム衛星通信によるデータ通信を行っていますが、転送速度や通信料の制約により、空振や映像データを送ることは難しい状況でした。 本調査では、Thuraya 衛星携帯電話を通信モデムとして使用する可能性を検討し、そのための実験を行いました。波に揺れるWG上での使用を想定し、防水ケースに入れたPCとThuraya モデムを海上に浮かべて東京大学地震研究所にデータを送る実験を行い、良好な通信を確認することができました。本実験結果により、WGシステムの開発が大きく前に進められることになったと言えます。

④周辺海域の地形調査

本調査では、西之島6km圏外において、船舶に搭載されたマルチビーム音響測深による詳細な海底地形調査を実施しました(図1)。その結果、2008年の海上保安庁による測量地形から顕著な変化は見られず、6km圏の外までは溶岩流が届いていないことや海底噴出口が新たに形成されていないことを確認することができました。6km圏外から見た西之島までの海上には、火山性浮遊物は見当たらなかったことも、この調査結果を裏付けています。

4.今後の展望

①空振観測:比較による父島でのモニタリングの性能の向上

本調査期間中、父島の空振計でも西之島の空振を検出しており、よい比較データを得ることができました。今回、船上で得られた空振の観測データと、伝播時間(約6分)をずらした父島の空振データを比較してみると、よく似た特徴が識別できます(図4)。

今後、本調査で得られた観測データを解析し、その結果を用いて父島での空振観測の解析手法を改善することで、西之島の活動を常時把握する体制を構築していくことを計画しています。

②SFEMSとOBSの回収:海底火山性津波の発生メカニズム研究等への活用

本調査で設置されたSFEMSの回収時期は未定ですが、OBSについては6月ないし10月に気象庁が行う調査航海にて回収する予定です。世界的にみても火山活動に伴う津波が観測された実例は少なく、まして今回のように離島火山あるいは海底火山の場合は、観測網が近傍に無いため、実態はほとんど分かっていません。

SFEMS及びOBS回収後には、そのデータを解析し、津波発生と地震活動の関連性から火山性津波の発生メカニズムを明らかにしていくとともに、研究結果をVTMによるリアルタイム津波観測システムにも反映し、来年度以降に西ノ島海域での同システムを用いたリアルタイム津波観測を実施していく計画です。

※ベクトル津波計(VTM):

地震の発生に伴う地震動、地殻変動と津波に伴う水位変化を圧力変化として捕らえる海底微差圧計(DPG)と津波伝播による海水の流れによって誘導される電磁場変動を検出する海底電磁気観測装置(OBEM)を組み合わせた装置で、今回設置したSFEMSの発展型。ベクトル津波計によって、津波伝播に伴う水位変化、海水の流れ、津波の伝播速度、伝播方向と、地震に伴う地殻変動とを分離して観測できるので、震源過程での津波の発生過程や、複雑な地形の場所などの津波伝播の様子を詳細に把握することが可能となり、沿岸での津波予測の信頼性向上に貢献することが期待されます。

図1

図1 西之島地形調査結果とOBSとSFEMSの設置地点

図2

図2 西之島噴火写真(撮影 阿部英二:東京大学地震研究所)

図3

図3 SFEMS(a)とOBS(b)の船上からの投入風景

図4

図4 航海中に、西之島から約6kmの距離において船上で得られた映像(a-f)と空振記録。130km離れた父島でもよく似た空振波形が確認できた(下段)。(撮影 阿部英二:東京大学地震研究所)

参考1

【参考1】ベクトル津波計リアルタイム観測システムの概念図

参考2

【参考2】ウェーブグライダー(WG)

【参照】「ベクトル津波計によるリアルタイム海底津波監視システムの実海域での試験観測に成功」(2014年4月4日既報)

活発に噴火する西之島:2015年2月27日の映像

(西之島火山観測について)
国立大学法人東京大学地震研究所
広報アウトリーチ室
独立行政法人海洋研究開発機構 地球深部ダイナミクス研究分野
主任研究員 杉岡 裕子
(SFEMSについて)
京都大学大学院理学研究科
准教授 藤 浩明
独立行政法人海洋研究開発機構 地球深部ダイナミクス研究分野
特任上席研究員 浜野 洋三
(VTMについて)
独立行政法人海洋研究開発機構 地球深部ダイナミクス研究分野
主任研究員 杉岡 裕子
特任上席研究員 浜野 洋三
(報道担当)
独立行政法人海洋研究開発機構
広報部 報道課長 菊地 一成
国立大学法人東京大学地震研究所
広報アウトリーチ室
国立大学法人京都大学渉外部広報・社会連携推進室
広報企画掛長 進藤 健司
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