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プレスリリース

2016年 4月 28日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

地球深部探査船「ちきゅう」による
国際深海科学掘削計画(IODP)「南海トラフ地震発生帯掘削計画」
第365次研究航海の終了について

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦)が、地球深部探査船「ちきゅう」による国際深海科学掘削計画(※1 International Ocean Discovery Program、以下「IODP」)「南海トラフ地震発生帯掘削計画」(※2)の一環として、平成28年3月26日から実施していた第365次研究航海は、予定の作業を全て完了し、4月27日に資機材を積み下ろすため静岡県清水港(興津埠頭)に入港しましたのでお知らせします。

1.実施内容

本研究航海では、巨大分岐断層最浅部にあるC0010地点(図12参照)において、第332次研究航海(平成22年10月22日既報)で設置した簡易型孔内観測装置(以下「Genius Plug」、図34参照)を回収し、孔井を海底下555mから651mまで掘り増しした後(96m掘進)、新たに長期孔内観測システム(Long Term Borehole Monitoring System、以下「LTBMS」、図56参照)を設置しました。また、同地点において地質試料を採取しました。

本研究航海は、Demian Saffer(ペンシルベニア州立大学・教授)及びAchim Kopf(ブレーメン大学・教授)が共同首席研究者を務め、日本からの5名及びIODP参加国から選出された3名を含む計10名が乗船研究者として参加しました。

2.結果概要及び今後の展望

C0010地点での研究は、東南海地震を引き起こすと考えられる地震断層から分岐する主要な分岐断層の一つを貫通し、分岐断層の継続的な孔内モニタリングの実現を目的としています。本研究航海では、IODP第332次研究航海でC0010地点に設置したGenius Plugの回収に成功し、設置から約5か年4か月間の孔内の圧力や温度に関するデータが得られました。Genius Plugは平成23年の東北地方太平洋沖地震、本研究航海中の平成28年4月1日に三重県南東沖で発生した地震等の高品質なデータを取得しており、今後、本データの詳細な解析を通じて、地震や津波を引き起こす過程のさらなる理解につながることが期待されます。

また、Genius Plugの回収後、南海トラフにおいてC0002地点に続く2つめの LTBMSの設置に成功しました。本LTBMSは、複数のセンサー((1)温度センサー(2)歪計(3)広帯域地震計(4)傾斜計(5)高感度地震計(6)強震計(7)圧力ポート)を設置固定したものです。孔内の安定した地層内にセメントで固定しており、分岐断層やその周辺の地殻の微小な変動を長期にわたり高感度かつ高精度に観測・監視することができます。地殻内流体の圧力・温度変化や傾動を計測することによって、津波発生とも関連する巨大分岐断層近傍での詳細な地殻変動を捉えるとともに、歪みエネルギーの蓄積状態や地震活動の観測を行うことが可能となります。今回設置したLTBMSは、将来的にはDONET1(※3)と接続し、リアルタイムで孔内観測データを取得する予定です。

3.「ちきゅう」の今後の予定

・5月上旬まで 静岡県清水港(興津埠頭)において保守・整備作業
・5月上旬~  受託事業

※1 国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)

平成25年(2013年)10月から開始された多国間科学研究協力プロジェクト。日本(地球深部探査船「ちきゅう」)、アメリカ(ジョイデス・レゾリューション号)、ヨーロッパ(特定任務掘削船)がそれぞれ提供する掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。尚、本プロジェクトは平成15年10月から平成25年まで実施された、統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)から引き継いでいる。

※2 南海トラフ地震発生帯掘削計画

巨大地震や津波の発生源とされるプレート境界断層や巨大分岐断層を掘削し、地質試料を採取するとともに、掘削孔を用いて岩石物性の計測及び地殻変動の観測を実施することにより、断層の非地震性滑りと地震性滑りを決定づける条件や南海トラフにおける地震・津波発生メカニズムを解明することを目的とする。

※3 DONET(Dense Ocean floor Network system for Earthquakes and Tsunamis)

海域で発生する地震・津波を常時観測監視するため、南海トラフ周辺の深海底に設置している地震・津波観測監視システム。紀伊半島沖熊野灘の水深約1,900~4,400mの海底に設置した「DONET1」は、平成23年に本格運用を開始している。「DONET2」は、紀伊水道から四国沖の水深約1,000~3,600mの海底に設置された。各観測点には強震計、広帯域地震計、水晶水圧計、微差圧計、ハイドロフォン、精密温度計が設置され、地殻変動のようなゆっくりした動きから大きな地震動まであらゆるタイプの海底の動きを観測することができる。平成28年4月より防災科学技術研究所が運用している。


図1 調査海域
和歌山県新宮市から南東約85kmの海域(北緯33度13分 東経136度41分)

図2 掘削地点
C0001~C0012はこれまでに「南海トラフ地震発生帯掘削計画」で掘削した地点

図3 簡易型孔内観測装置(Genius Plug)概念図

図4 C0010点から回収されたGenius Plug

図5 長期孔内観測システム(LTBMS: Long Term Borehole Monitoring System)概念図

図6  LTBMSのデータ記録及び転送部分
国立研究開発法人海洋研究開発機構
(IODP及び本航海について)
地球深部探査センター 企画調整室長 花田 晶公
(報道担当)
広報部 報道課長  野口 剛
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