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プレスリリース

2016年 10月 3日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

深海の極限環境にヒントを得た乳化技術の実用性検証を開始
― 機能性食品素材の商業生産に向けて生産能力を引き上げ ―

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)海洋生命理工学研究開発センターの出口 茂 研究開発センター長らは、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社(代表取締役会長兼社長 清水 孝重、http://www.saneigenffi.co.jp)、奈良先端科学技術大学院大学(学長 小笠原 直毅)と共同で、深海極限環境にヒントを得た乳化技術MAGIQ(Monodisperse nAnodroplet Generation In Quenched hydrothermal solution)による機能性食品素材の製造に向けた実用性の検証を開始します。

2.背景

深海は高圧、暗黒、低温に支配された極限世界です。ところが温度に関しては例外があり、深海熱水噴出孔(図1)と呼ばれる深海底の温泉では、場所によって高温・高圧の極限である超臨界状態(臨界温度:374℃、臨界圧力:218気圧)の水が噴き出しています。また、深海熱水噴出孔は、地球上で最初の生命が誕生するにあたって重要な役割を果たしたと考えられています。

JAMSTECでも、土星の衛星エンセラダスの地下海に生命が生育可能な熱水環境が存在することを発見(2015年3月12日既報)するなど、高温・高圧水中での生命の起源や物理・化学プロセスに関する研究開発を進めていますが、これらの研究を支えているのが深海熱水噴出孔周辺の高温・高圧環境を実験室内に再現する様々な技術です。高温・高圧の極限では、水と油が自由に混ざり合うなど、水自体の性質ですら大きく変化するため、そのような環境を実験室内に再現して実験を行うことが大変重要です。またそれら基礎研究と並行して、深海熱水噴出孔環境の再現技術を応用した化学プロセスの開発も進めています。そこから生まれた技術が、深海熱水噴出孔にヒントを得たナノ乳化技術MAGIQです(2013年5月14日既報)。

JAMSTEC海洋生命理工学研究開発センターではMAGIQの産業利用を促進するために、株式会社AKICO(代表取締役社長 相澤 智)の協力を得て取り扱いが容易なMAGIQ乳化装置(図22016年1月19日既報)を開発し、オープンイノベーションプラットフォームを整備するとともに、様々な民間企業と共同で産業分野での応用展開を図ってきました。その一環として進めてきた三栄源エフ・エフ・アイ株式会社との共同研究では、MAGIQを応用した天然食品素材の加工技術が、コスト競争力を担保しつつグローバル市場での多種多様なニーズへも対応できる製品の製造に極めて有用であるとの結果を得ました。その一方で、今後、工場での大量生産へと移行するには、スケールアップ(生産能力の引き上げ)が解決すべき重要な課題であることも明らかとなりました。

3.今後の展望

この度、JAMSTEC、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社、奈良先端科学技術大学院大学の3者による研究提案「深海極限環境に発想を得た高温・高圧技術による天然食品素材の高付加価値化」が、科学技術振興機構が公募を行った研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)「ステージⅡ(シーズ育成タイプ)」に採択されたことを受けて(http://www.jst.go.jp/pr/info/info1208/index.html)、本格的なスケールアップ実証を開始します。今後3年半(2016年10月〜2020年3月)をかけて、工業スケールでの本格生産の前段階である数百kg/日の生産能力の達成を目指して研究開発を行います。

JAMSTECでは、MAGIQ以外の様々な独自技術についても、産業界・大学・他の研究機関と密に連携したオープンイノベーション体制によって産業ニーズに対応した様々な出口への横展開を促進し、研究成果のより一層の社会還元に努めて行きます。

図1
図1 深海の熱水噴出孔から噴き出す熱水。
図2
図2 ナノエマルション製造装置「SFW-E40S」
国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
海洋生命理工学研究開発センター 研究開発センター長 出口 茂
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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