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プレスリリース

2017年 3月 14日
国立研究開発法人海洋研究開発機構
日本地球掘削科学コンソーシアム
学校法人立命館大学
国立大学法人東北大学

国際陸上科学掘削計画(ICDP): 南アフリカ金鉱山の大深度からの地震掘削調査の開始
~世界初の地震の震源近傍の掘削調査を目指す~

南アフリカ金鉱山の地下3 kmの坑道などの付近で起きる微小~中規模の3つの地震の震源断層を直接調査する科学掘削計画(以下「DSeis(ディーサイス)計画」、別紙参照)が3月下旬から始まる予定です。この計画の筆頭は立命館大学の小笠原宏教授で、国際陸上科学掘削計画(ICDP: International Continental Scientific Drilling Program)(※1)に採択された日本主導のプロジェクトとしては4例目です。計画参加者は、9ヶ国42名の研究者です。

南アフリカ金鉱山の採掘域は非常に深いため、掘り残された岩盤には大きなひずみが生じ、微小~中規模の地震が頻発します。DSeis計画の掘削対象の断層は、長さが100 m~5 kmと自然大地震のそれに比べ小さなものです。しかし、これらの地震は、地下深くまで広がる坑道沿いに整備された地震観測網の近くで発生したため、岩盤の破壊がどのように広がったかが詳細に解析されています。また、余震活動も克明に記録されています。DSeis計画では、これらの地震の破壊開始点や停止域、余震域を十数カ所掘り抜いて、震源断層とその周辺の応力・物性・ダメージを直接調査します。また、掘削孔内に超高感度地震計を設置して、詳細な余震分布を明らかにします。これらを統合して、アスペリティ(※2)の実体は何か、あるいは、断層面上で余震活動の活発なところと低調なところの違いは何かを、世界で初めて明らかにすることを目指します。

アスペリティが破壊すると強い地震動が生成されるので、自然大地震の災害ハザード評価においても、その実体の理解は極めて重要です。DSeis計画では、対象とする地震の規模が小さいとはいえ、これまでなかなか手が届かなかったアスペリティ本体を掘り抜いて、その実体を明らかにすることができます。このため、DSeis計画は、地震災害ハザード評価の高度化にも貢献できると期待されます。

なお、本計画については、3月21日にイイノホール&カンファレンスセンターにて開催されるIODP・ICDP成果報告会「地球を掘ってみえたこと これまでの成果とこれから目指すもの」でもご紹介します。

※1 国際陸上科学掘削計画(ICDP: International Continental Scientific Drilling Program)
ドイツ、米国、中国が主導国となり、1996年(平成8年)2月から始動した多国間科学研究協力プロジェクト。日本は1998年より加盟。「気候と生態系」「持続可能な地下資源」「自然災害」の3つの科学テーマを掲げ、地球変動の歴史を知り地下の活動的プロセスをとらえるために、各種陸上科学掘削計画を推進している。日本では、海洋研究開発機構が代表機関を、日本地球掘削科学コンソーシアム(※3)の陸上掘削部会が代表窓口を担当している。

※2 アスペリティ
断層上で、普段は強く固着しているが、地震時に急激な高速すべりを起こして強い地震波を生じる領域。アスペリティの位置や形状、大きさ、そこでのすべり量は、地表のどこに、どのくらいの強さの地震動が生じるのかを予測するうえで重要な要素となる。

※3 日本地球掘削科学コンソーシアム(J-DESC: Japan Drilling Earth Science Consortium)
地球掘削科学の推進や各組織・研究者の連携強化を目的として、国内の大学や研究機関が中心となって2003年に設立されたコンソーシアム。IODPをサポートするIODP部会と、ICDPをはじめとする陸上掘削科学をサポートする陸上掘削部会から構成されている。主な活動は、地球掘削科学に関する科学計画・研究基盤の検討、関係機関への提言、地球掘削科学に関する科学研究などの有機的な連携、研究人材育成、国際プロジェクトへの支援及び協力、情報発信・普及啓発の実施など。

別紙

南アフリカ金鉱山大深度からのM2.0-M5.5地震の震源近傍掘削計画(DSeis計画)
Drilling into seismogenic zones of M2.0-M5.5 earthquakes in deep South Africa gold mines

1.日程(現地時間)

2017 年 3月下旬
掘削開始(予定)
2019 年 8月
掘削完了(予定)

なお、掘削準備作業の進捗状況などによって変更される場合があります。

2.日本から参加する研究者 (五十音順)

氏名 所属 / 役職
阿部 周平 東北大学 / 大学院生
石田 亮壮 立命館大学 / 大学院生
石田 毅 京都大学 / 教授
伊藤 高敏 東北大学 / 教授
今西 和俊 産業技術総合研究所 / 研究グループ長
大久保 慎人 高知大学 / 准教授
小笠原 宏 立命館大学 / 教授
小笠原 宏幸 立命館大学 / 大学院生
小村 健太朗 防災科学技術研究所 / 主任研究員
加藤 春實 (株)3D地科学研究所 / 技術部長
坂口 清敏 東北大学 / 准教授
直井 誠 京都大学 / 助教
船戸 明雄 (公財)深田地質研究所 / 主席研究員
掘内 茂木 (株)ホームサイスモメータ / 代表取締役
松原 誠 防災科学技術研究所 / 主任研究員
三宅 弘恵 東京大学 / 准教授
椋平 祐輔 マサチューセッツ工科大学 / ポストドクトラル研究員
モリ ジェームズ 京都大学 / 教授
森谷 祐一 東北大学 / 教授
安富 達就 京都大学 / 大学院生(予定)
矢部 康男 東北大学 / 准教授

3.DSeis計画の概要と科学目的

南アフリカの金鉱山では、約120年前に地表で見つかった厚さが数十cmの薄板状の金鉱脈が掘り続けられ、採算がとれる限界の地下約1万フィート(約3.3 km)までが掘り尽くされつつあります。このような大深度では、採掘によってできた空洞は、その上の岩盤の重さによって閉塞します。そして、その際に、空洞の端の岩盤が破壊し、地震が発生します。このように、日常的に人がアクセスできる地下空洞のすぐ近くで地震が発生するので、南アフリカ金鉱山は、地震発生を間近でつぶさに観察できる世界的に非常に貴重な研究の場として、世界中の地震学者が注目しています。日本と南アフリカとの共同研究による、震源至近距離での近代的地震観測は1992年から始まりました。2009~2015年には、科学技術振興機構、国際協力機構、日本学術振興会、文部科学省、立命館大学、東北大学などの支援のもと、これまでで最大規模の至近距離総合観測が行われました。

DSeis計画では、M5.5(震源の深さ約5㎞)、M3.5(同約3㎞)、M2.8(同約1㎞)の3つの地震の震源断層と、大きな地震を起こすことなく、岩盤内のダメージ蓄積域が数十mの大きさにまで準静的に拡大した未成熟な断層を複数個所で掘り抜いて応力測定を行います。また、掘削によって得られる岩石試料の解析から、断層周辺岩盤のダメージを見積もります。さらに、掘削孔内に地震計を埋設し、センチメートル規模の破壊まで検知可能な超高感度の地震観測も行います。これらの成果を統合して、応力場・岩盤のダメージ・断層の形状および微細構造等からアスペリティの広がりをコントロールする要因やアスペリティの実体を明らかにします。異なる大きさの地震を比較するだけでなく、地震発生に至らなかった未成熟な断層も調査対象にしている点は、DSeis計画の大きな特長のひとつです。これにより、地震を起こす能力のある断層とそうでない断層の違いを見つけることができる可能性があります。

計算機の能力の進歩に伴って、室内実験の知見を取り入れた摩擦法則を用いた数値計算により、自然大地震の発生の仕方を解明しようとする研究が盛んにおこなわれるようになってきました。しかし、自然大地震の震源断層の長さと室内実験で用いる試料の大きさとの間には、7~8桁のスケールの違いがあるため、室内実験結果を自然大地震の断層に単純に適用できるかどうかは明らかではありません。DSeis計画で対象とする地震の断層の長さは、室内実験と自然大地震ちょうど中間にあります。また、震源の近くに整備された坑道から掘削した孔内にセンサーを埋設することで、室内実験と同じくらいの精度で断層の挙動を計測することができます。そのため、室内実験の知見を自然大地震の理解に適用することの妥当性を検証できると考えています。

DSeis計画では、太古の地球環境の解明にも挑戦します。M5.5の地震が発生した地層は、29億年前の陸生堆積物と海生堆積物が交互に重なり合っています。地下約5㎞にあるこのような地層には、地表の環境変化の影響を免れて、水素を栄養源とする太古の微生物が生き延びている可能性があります。余震活動によって岩盤が破壊されると水素が発生するので、このような微生物が存在すれば、断層帯に集中していると期待されます。断層帯から採取される地下水の観測・分析により微生物群が発見できれば、太古の地球がどのような環境であったのかを知る手がかりが得られます。

図1

図1 南アフリカ金鉱山の大深度で実施するDSeis計画の特長を示した鉛直断面模式図(黒太線はアスペリティ、マゼンタ色の線はアスペリティ周辺の余震活動が活発な領域、黄色の星は震源、赤色の下三角は既存の地震観測点、緑色の線は掘削孔、赤丸は掘削孔内に設置する地震計)。深さ約1~3㎞の大深度に整備された坑道から百数十m以内で発生したM2.8やM3.5の地震のアスペリティや余震域に対して十数本の掘削を行う。金鉱山最深部から数百m下にある、M5.5の地震のアスペリティやその余震域へは、2~5本の掘削を行う。これらの地震のアスペリティや余震域は、鉱山内および地表に設置した地震観測網により明らかになっている。それぞれの地震時すべりが始まった場所を含む、アスペリティ本体やその余震域を、大深度からの掘削によって直接、詳しく調査できること、掘削孔を利用して震源の極至近距離に観測網を構築し更なる詳細を観察できることが、DSeis計画の大きな特長である。

図2

図2 調査を実施する金鉱山(地上の様子)

図3

図3 掘削サイトの位置。右下図中の青の部分が金鉱地(Goldfields)を示す。番号4、7、8で示された3か所の金鉱地の坑道内で掘削を行う。なお、青以外の色分けは地質の違いを示す。 (左上図:Googleマップ、右下図:Frimmel & Minter, 2002より引用)

(国際陸上科学掘削計画・科学掘削について)
・国立研究開発法人海洋研究開発機構 海洋掘削科学研究開発センター
研究開発センター長 山田 泰広
・日本地球掘削科学コンソーシアム 陸上掘削部会
部会長 小村 健太朗
(国立研究開発法人防災科学技術研究所 地震津波防災研究部門 主任研究員)
(DSeis計画について)
・立命館大学・理工学部 教授 小笠原 宏
・東北大学大学院理学研究科 附属地震・噴火予知研究観測センター
准教授 矢部 康男
・東北大学 流体科学研究所 教授 伊藤 高敏
(報道担当)
・国立研究開発法人海洋研究開発機構 広報部 報道課長 野口 剛
・立命館大学 研究部 BKCリサーチオフィス 魚谷 奈未
・東北大学 大学院理学研究科 特任助教 高橋 亮
(南アフリカ現地担当)
Institute of Mine Seismology Gerrie van Aswegen
Council for Geoscience Christo Crail
University of the Witwatersrand Ray Durrheim
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