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プレスリリース

2018年 1月 11日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

地球深部探査船「ちきゅう」による国際深海科学掘削計画(IODP)第380次研究航海
「南海トラフ地震発生帯掘削計画:南海トラフ前縁断層帯における長期孔内観測システム
設置」の実施について

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦)は、国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)の一環として、地球深部探査船「ちきゅう」によるIODP第380次研究航海「南海トラフ地震発生帯掘削計画:南海トラフ前縁断層帯における長期孔内観測システム設置」を実施致します。

・期間:
平成30年1月12日~平成30年2月24日
なお、気象条件や調査の進捗状況によって変更の場合があります。
・海域:
紀伊半島沖熊野灘(別紙 図1参照)
・概要:
別紙参照

※ 国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)

平成25年(2013年)10月から開始された多国間科学研究協力プロジェクト。日本(地球深部探査船「ちきゅう」)、アメリカ(ジョイデス・レゾリューション号)、ヨーロッパ(特定任務掘削船)がそれぞれ提供する掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行っている。

別紙

「南海トラフ地震発生帯掘削計画」及び国際深海科学掘削計画(IODP)
第380次研究航海について

1. 「南海トラフ地震発生帯掘削計画」の目的及び全体概要

「南海トラフ地震発生帯掘削計画」は、巨大地震や津波の発生源とされるプレート境界断層や巨大分岐断層を掘削し、地質試料を採取するとともに、掘削孔を用いて岩石物性の計測(検層)及び地殻変動の観測(モニタリング)を実施することにより、断層の非地震性滑りと地震性滑りを決定づける条件や南海トラフにおける地震・津波発生メカニズムを解明することを目的としています。本計画に基づき、平成19年度から地球深部探査船「ちきゅう」による科学掘削が、南海トラフ近傍の15地点において進められてきました。

2. IODP第380次研究航海の実施内容概要

今回のIODP第380次研究航海では、トラフ軸近傍のC0006地点(図1及び2参照、水深約3,870m)において、新たに海底下495mまで掘削し、長期孔内観測システム(図3)を設置します。本航海により設置する長期孔内観測システムは、後に地震・津波観測監視システム(DONET)(※1)に接続し、リアルタイムで孔内観測データを提供する予定です。長期孔内観測システムを用いてトラフ軸近傍の地殻内流体の圧力・温度変化や傾動を計測することにより、巨大地震発生に深く関連すると考えられているプレート境界近傍における詳細な地殻変動を捉えるとともに、プレート境界での歪みエネルギーの蓄積状態やスロー地震(※2)に代表される微小地震活動の観測なども行うことが可能となります。

これまでに、長期孔内観測システムは巨大地震震源域の海側の縁付近の2地点(C0002、C0010)に設置されており、DONETに接続することで常時リアルタイム観測を行っています。C0002地点は巨大地震の発生領域の海溝側の端にあたり、海底下5,200m付近のプレート境界断層の真上、海底下900mの地点に設置されています。またC0010地点は、その海側に位置し、地震発生帯から海底面へ向かって延びている巨大分岐断層の浅部にあたります。これら2点の孔内観測データから、プレート境界断層のうち、地震発生帯の海側の縁からさらに海側にかけておよそ1年に1回、スロー地震などが起こっていることが発見されました。

今回、3か所目の長期孔内観測システム設置となるC0006地点は、フィリピン海プレートが陸側のプレートに沈み込むプレート境界断層前縁に位置しています。C0006観測点が加わることにより、地震発生現場の状態を、巨大地震発生へ向けてひずみエネルギーの蓄積が進む場所の海側境界から海溝軸まで、切れ目なく観測することが可能になります。巨大地震に向けた準備が海底下でどの程度進んでいるのか、そして巨大地震発生域で発生する破壊がどのように浅い領域へ伝わり巨大津波を引き起こすのか、などの手掛かりが初めて得られると期待されます。

3. IODP第380次研究航海研究チーム

共同首席研究者(以下2名)

 木下 正高 (東京大学地震研究所 教授/海洋研究開発機構 招聘上席技術研究員)

 Keir Becker(マイアミ大学 教授)

日本側研究者(以下2名)

 町田 祐弥(海洋研究開発機構 技術研究員)

 木村 俊則(海洋研究開発機構 技術研究員)

また、IODP参加国から選考された他4名の合計8名(3ヵ国)の研究者が乗船します。

※1 地震・津波観測監視システム(DONET)

海域で発生する地震・津波を常時観測監視するため、JAMSTECが開発し南海トラフ周辺の深海底に設置した地震・津波観測監視システムであり、DONET1およびDONET2からなる。紀伊半島沖熊野灘の水深1,900~4,400mの海底に設置した「DONET1」は、22の観測点から成り、平成23年に運用を開始した。また、紀伊水道から四国沖の水深1,100~3,600mの海底に設置した「DONET2」は、29の観測点から成り、平成28年3月末に整備を完了した。

DONETは、DONET2の完成をもって平成28年4月に国立研究開発法人防災科学技術研究所へ移管された。DONETで取得したデータは、気象庁等にリアルタイムで配信され、緊急地震速報や津波警報にも活用されている。

※2 スロー地震(ゆっくり地震)

低周波微動・超低周波地震・スロースリップイベント(ゆっくりすべり)など、通常の地震よりもゆっくりとした断層すべりの総称。低周波微動は、通常の地震よりも低周波数成分の卓越した地震波を放出する現象。一方、スロースリップイベントは、地震波を放出せずに、地下の断層がおよそ一日以上の期間をかけてゆっくりとすべる地殻変動現象である。

図1

図1 DONET1及び長期孔内観測システムの位置図
本航海で掘削作業及び長期孔内観測システムの設置を行うC0006地点は、和歌山県新宮市から南東約100kmの海域(北緯33度2分 東経136度48分)

図2

図2 南海トラフ地震発生帯掘削計画において掘削した地点(同一地点で複数の孔を掘削している場合もある)

図3

図3 長期孔内観測システム(LTBMS)概念図

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(IODP及び本航海について)
地球深部探査センター 企画調整室長 矢野 健彦
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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