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プレスリリース

2018年 5月 31日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

アカイカ漁場の予測システムを共同開発、漁業者へ配信開始
~学術研究成果の社会実装によりスマート漁業を実現へ~

1. 概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)と一般社団法人漁業情報サービスセンター(会長 川口 恭一、以下「JAFIC」という。)は、共同で青森県のアカイカ漁業者向けの漁場予測システムを開発しました。このシステムで作成される日々のアカイカの漁場位置を予測した情報を、JAFICの海況・気象情報サービス「エビスくん」から青森県のアカイカ漁業者に配信する事業を本格的に開始します。

「エビスくん」により配信されるアカイカ漁場の予測は、アカイカの漁場となる夏季の北太平洋中央部及び冬季の三陸沖の2つの海域における3次元の海洋物理環境場の変動と、アカイカ漁場位置及び漁獲量のデータを統合して解析することにより推定した好適生息環境(ハビタット)を、毎日の海況予測場に適用することで得ることができます。この仕組みにより作成した1週間先までの漁場予測情報を「エビスくん」を通じてリアルタイムで漁業者に配信することが可能です。

このようにJAMSTECで実施した研究開発の成果を社会実装して、JAFICからアカイカ漁場予測情報配信を定常的に運用する準備を進め、5月末から開始される夏季のアカイカ漁に合わせて漁場予測情報が漁業者に提供されることとなります。さらに、この事業の継続的な実施により、漁業者は漁場探索のための燃油消費を抑えることで漁業の効率化を図り、安定的な収益確保につながることが期待されます。

2.背景

沿岸・沖合を中心とする漁場探索型の漁業では、近年では多くの漁獲対象魚種について資源量の減少が指摘される一方で、漁業者人口の減少や高齢化に伴い操業する漁船数も減少しています。このため、かつては船団で行っていたような漁場探索ができなくなり、非効率な操業を強いられているという現状があります。漁業者からは、漁場探索で大きなコストとなる漁船の燃油消費を抑え安定的な収益確保を図る手段としての高精度な漁場推定情報の配信が求められています。

このような状況の中で、青森県にとって重要な魚種の一つであるアカイカを対象とした漁場予測技術の高度化についての研究開発を、JAMSTECが中心となって平成22年度より開始しました。その研究の中で開発したアカイカ漁場予測システムを実際に運用してリアルタイムでアカイカ漁場予測情報を作成し、ウェブシステムを通じて漁業者に対して漁場予測情報を配信する実証試験を実行しました。その結果として、漁場予測情報を継続配信して欲しいというアカイカ漁業者からの要望が強く、それに応える形で、水産関連機関や地元関係者と協議を重ねながら、平成27年度からの3年間については青森県事業「あかいか漁場予測システム実用化」に引き継がれる形で、アカイカ漁場予測情報を継続的に配信していくための体制を模索しながら配信サービスを維持してきました。

このたび、漁業者の利便性の向上と運用コストの削減を図るため、このシステムをさらに改良してJAFICが主体的に情報配信の実運用を行うという形で配信を安定的に行っていく体制が整い、アカイカとしては国内外を通じて初めて、漁場予測情報の定常配信を開始することとなりました。

3.アカイカ漁業予測情報サービス

配信を開始するアカイカ漁場予測図は、アカイカのハビタットモデルから得られる好適生息域推定図に基づいて作成されます。ハビタットモデルとは、対象となる魚種の地理的分布に影響を与えている環境要因と対象魚種との関係をモデル化し、その生息に好適な海域を推定する統計モデルです。現在では、水温・塩分などの海洋環境データと漁獲・漁場位置データとの統計解析から魚種ごとの好適生息環境を推定することで、ある程度の精度を持って1週間先までの漁場推定が可能となっています。しかし、この技術を実用化して、定常的な漁業情報サービスを行った事例は過去に数例しかなく、アカイカの漁場予測情報サービスを事業として行う事例は国内外を通じて、本事業が始めてとなります。

本事業では海洋環境データとして、海況予測の情報配信が行われている米国のウェブサイト(HYCOM:HYbrid Coordinate Ocean Model)の解析値及び予測値が使用されています。解析値から得られる、アカイカ漁場における過去の3次元的な海洋環境(水温・塩分・流速など)変動と、青森県のアカイカ漁業者から提供された過去の漁獲・漁場位置データを用いてアカイカのハビタットモデルを作成しました。このハビタットモデルに対して、日々更新されるHYCOMの海況予測値を入力することで得られるアカイカの好適生息域推定図(図1)を漁業者に対して配信します。

4.今後の展望

日本の沿岸・沖合漁業では、経営コストの多くが漁船の燃油代消費に費やされており、漁場探索の効率化は経営の安定化に直結しています。これまでは漁師の過去の経験や勘に基づいた漁場探索が行われてきましたが、漁業者の高齢化や後継者不足が進む中で、これらの経験知が必ずしも伝承されていく訳ではなく、それが新規参入障壁になることで更なる後継者不足につながるという悪循環に陥ってしまいます。漁業者が培ってきたこれらの経験知を数理モデル化して科学的な根拠を示していき、さらにそれを実利用化して漁業情報サービスとして定常運用していくことができれば、業界全体としての漁業経営の安定化に対して科学が貢献していくことが期待されます。

JAMSTECでは、今後も他の海域や他魚種への拡張という形で、更なる漁場予測の高度化や漁業情報サービスの向上を目指した研究開発を進めていきます。

図1

図1 「エビスくん」によるアカイカ漁場予測情報例(提供:JAFIC)

図2

図2 アカイカ

国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本研究について)
地球情報基盤センター 統合地球情報研究開発部 部長 石川 洋一
(報道担当)
広報部 報道課長 野口 剛
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