海や地球環境に関する最新トピック

「しんかい6500」1000回潜航達成

4人が語る「しんかい6500」

研究者のニーズに応える技術開発力と
チームワークが「しんかい6500」を進化させる

海洋工学センターは、1971年に海洋研究開発機構(JAMSTEC)の前身の海洋科学技術センターが発足した当初から、海洋を探査するための基盤技術の研究開発と、研究者のサポートを行ってきた技術開発部を継承している。現在はさらに海洋研究に欠かせない7隻の海洋調査船や、有人潜水調査船「しんかい6500」、無人潜水探査機などの運航も担当している。初期の構想段階から「しんかい6500」を見守ってきた海洋工学センター・宮崎センター長に、「しんかい6500」にかける想いと夢を聞いた。

技術と科学の両輪で進む「しんかい6500」での研究

宮崎センター長がJAMSTECに入ったのは、「6,000m級の潜水調査船をつくる!」ということが、まだ夢として語られていた時代だった。いよいよ「しんかい6500」の前身「しんかい2000」に挑戦というとき、宮崎センター長は別のプロジェクトを担当しながらも、その開発を見守っていた。「当時、私たち技術開発者には、技術が科学をリードするのだという熱い想いがあったのです」
今となっては不思議だが、建造に先立って研究者に「『しんかい2000』でどういう研究がしたいですか」と聞いても、イメージがわかないのか、あまりニーズが出てこなかったという。「しかし、できたとたん、乗船して調査をしたいという研究者が続出しました。よく科学と技術は両輪といわれますが、その時々で引っ張る力の強いほうがリードし、お互いが前進するのだと思います」
「しんかい6500」は研究用の有人潜水船であるから、世界最深の圧力に耐えて安全に潜航するだけでなく、画像などの情報を確実に捉えて送り、ときには生物を捕獲し持ち帰られなければならない。耐圧や搭載キャパシティの制約をクリアしながら、別途道具の開発が必要なときもある。しかし、そんな工夫こそが面白いのだという。海中は普通の照明では散乱してうまく撮影できないので、横から光を当てることができるようにカニの爪のようなアームライトを開発したこともあった。
研究者の意外な要望に驚くこともある。宮崎センター長は、深海での研究時間を十分確保するために、深いところにたどり着くのが少しでも速いほうがよいと思っていた。ところがクラゲなど中層の生物の研究者からは、「潜航途中で照明をつけてゆっくり観察したい」と要望されたのだ。「最初の設計がパーフェクトではなく、要望が出てきた時点で改良、改装も必要です。『しんかい6500』をとことんよいものにしたい。研究者のニーズが出るほど、やりがいがあります」。
現在、「しんかい6500」の利用は公募制である。JAMSTECの研究者であっても競争に勝つ必要がある。「採択されるのは大変ですよ。1回潜るには1千万円以上のお金がかかりますから、乗ったからにはよい成果を出してもらいたいです。実際にこれまでも世界的な成果が出ており、私たちにとっても非常にうれしいことです。特に微生物の研究では、教科書を書きかえるような新しい発見が出ています。海のなかや海底下には、私たちが知らないことがまだまだ詰まっているのです。その発見がどのように人間の役に立っていくのかも、また楽しみです」

最高の機械も人の力なしでは機能しない

よい成果を出すには、機械の性能はもちろんだが、チームワークが大事だ。研究者が限られた時間のなかで最大の成果を出せるようにするためには、パイロット、母船のスタッフ、モニターする人、整備する人が持てる力を合わせなければならない。「特にパイロットは叩き上げで、第一線の研究者とともに潜航し、知識やノウハウを幅広く蓄えています。その人的なノウハウも、次の世代に伝えていきたい。ですから、ぜひ潜水船に乗りたいという若い人に来てもらいたいのです。私自身、海が好きというだけでこの分野に入りました。興味と熱意があれば、一から教育します。そろそろ女性パイロットが出てもいいですね」
生物系の研究では、生物そのものを捕獲するのも大切だが、生息環境がどのようなものなのか、そのなかで生物が活動しているようすをくわしく知ることが重要である。そこで研究用の撮影器材や撮影ノウハウ向上にも力を注ぐ。「魚の背びれの1本1本までクリアに映れば、研究者がそれをもとに分類もできます。よい映像が撮れると、科学的知見はさらに進むのです。ですからJAMSTECでは映像関係の人も大歓迎です。熱意を持つ人たちにぜひ来てもらい、ともに次世代の潜水船計画を立てることができればうれしいです
海が好き、そしてモノづくりが好きな若い人たちにも、ぜひ広く「しんかい6500」の存在をアピールしたいという。「人の後追いではなく、世界で初めてのものを目指す若人よ来たれ、一緒にやろうじゃないか」というのが、宮崎センター長からのメッセージである。


完成直後のチタン製耐圧殻

みやざき・たけあき

●1945年石川県生まれ。工学博士。1972年海洋科学技術センター(現、海洋研究開発機構)に研究員として入所。海洋エネルギーなどの業務に携わり、波力発電装置の研究開発を立ち上げ、世界一を達成。1987年海域開発・利用研究部研究主幹、1997年研究業務部部長を経て、2006年海洋工学センターセンター長