知ろう!記者に発表した最新研究

2010年12月13日発表
長期孔内ちょうきこうない観測装置かんそくそうちの設置に成功
(航海期間:2010/10/25-12/11)

巨大地震発生きょだいじしんはっせいのメカニズム解明を目指す、地球深部探査船「ちきゅう」。今回は、和歌山県紀伊半島沖で行った研究航海結果のお知らせです(図1)!

海域図

図1:海域図

今回の目的は、海底下の地盤じばんの動きを「長い間監視かんしする長期孔内観測装置」、そして「一時的に観測する装置」を設置せっちすること。設置する場所は、深海底をったあなの中です。船上と陸上から多くの人々が力を合わせて取り組み、このたび、ついに装置の設置に成功しました!これからは、海底下をよりくわしく観測できるようになります。

現在は、装置が観測したデータを確認かくにんするには、装置そのものを海底下から引き上げる必要があります。けれど将来しょうらいは、海底下の装置から、いま紀伊半島沖熊野灘くまのなだの海底にきずいている地震・津波観測監視システム(DONET:2010年1月14日発表)までケーブル(通信線)でつないで、装置を海底下から引き上げなくてもデータを瞬時しゅんじに確認できるようにする予定です。

その大規模なシステム完成にむけて、今回は大きく前進しました!

和歌山県紀伊半島沖ってどんなところ?海底下に、地震や津波が発生する巣があるところです

地球の表面は、何枚ものプレートと呼ばれるかたい岩の板でおおわれています。プレートはいつもゆっくりと移動いどうしているため、プレート同士がぶつかると、陸側のプレートの下に海側のプレートがしずみこんでいきます(図2)。すると、それによって陸側のプレートのはしも引きずりこまれ、どんどんゆがんでいきます。そのゆがみが限界げんかいをこえた時、陸側のプレートの端がはね上がり、地震や津波を起こすと考えられています。

地震と津波の発生メカニズム

図2:地震と津波の発生メカニズム

今回の紀伊半島沖にもプレート同士がぶつかるところがあり、ユーラシアプレートの下にフィリピン海プレートがしずみこんでいます。このあたりは南海トラフと呼ばれます。(参考:2009年8月17日発表)。その様子を横から切って見てみましょう(図3)。

紀伊半島沖の海底下の様子

図3:紀伊半島沖の海底下の様子

プレートの境目さかいめからは、上に向かってすじのようなひび割れが見られます。断層だんそうといいます。これは、地層に力が加わってこわれ、そのこわれた面にそって地層がずれることでできます(解説 )。その断層は、巨大地震が起きる地震発生帯とされています。さらに、その断層からえだ分かれしたような断層があります。巨大分岐断層きょだいぶんきだんそうと呼ばれ、巨大地震による津波が発生するとされています。

紀伊半島沖の海底にはこのような場所があるため、巨大地震の研究において重要です。今回の研究航海は、その地震発生帯の真上(C0002)と、分岐断層の出口(C0010)で行いました。

どんなことをしたの?長期孔内観測装置の設置に成功しました!

【C0002】巨大地震発生帯の真上


まず、水深1937.5mの深海底で、海底下980mまでを掘り進みました。そして、その孔がくずれないように、太いパイプ(ケーシングパイプ)を入れました。それから、ケーシングパイプの通ったさらに下に、南海トラフで第1号となる長期孔内観測装置をおろし始めました。長期孔内観測装置は、その名の通り長いあいだ孔の内側を調べる装置。ひずみ計、傾斜計けいしゃけい、温度計、水圧計、広帯域地震計こうたいいきじしんけい、短周期地震計、強震計がつながっていて、およそ900mの細長い形をしています(図4)。

長期孔内観測装置

図4:長期孔内観測装置

りつめた空気の中、ひとつひとつ確認しながら、慎重しんちょうにていねいに作業を続けました。設置後、「ちきゅう」船上から装置に指令を送ってちゃんと動くことを確認。最後に、「ちきゅう」からパイプを通してセメントを孔の底に送って、装置を固定しました。これで装置の設置は、大成功!


【C0010】巨大分岐断層の出口


まず、2009年に設置した温度計と圧力計を回収かいしゅうしました(参考:2009年9月3日発表)。それらを調べたところ、15ヶ月分のデータが記録されていて、地層の中の水圧と しおの満ち引きの関係や、環太平洋かんたいへいようで起きた地震や津波のデータを確認しました。

その後、新しい装置に交換こうかんしました。今回の装置は、前回よりもバージョンアップしています。水圧や温度を測る機能に加えて、微生物びせいぶつをとってそこで育てる(培養ばいよう)機能、そして海底下の水をとる機能を追加したのです。どうして水をとるかというと、水は断層の動きと関係するので、水の性質を調べれば、断層の働きがわかるからです。今回設置した場所は、巨大分岐断層の出口のすぐ横。もし地震が発生したら、断層のすきまから水がわきでます。その水をとって性質を調べれば、断層の働きを知る手がかりをつかめるのです。

 この装置は、将来に長期孔内観測装置するまでの間、観測を続けます。

これからはどうするの?海底と海底下をリアルタイムで監視するシステムの完成を目指します

長期観測装置の設置は、今回はC0002だけでしたが、今後C0010でも行う予定です。将来は、海底下の装置から、いま熊野灘の海底に築いている地震・津波観測監視システム(図5)(DONET:2010年1月14日発表)までつなげます。完成すれば、海底と海底下の地震発生に関する情報を、陸上で瞬時に観測できるようになります。

DONET

図5:DONET


巨大地震発生のメカニズムを明らかにし、人々の生活に役立てることを目指して、作業は今日も続けられます。

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断層:

こわれた面にそって地層がずれてできた断層