ちきゅうレポート
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「海面下4000mのそのまた下の世界」2010年12月27日

みなさんは海面下4000mの世界を見たことがありますか?
突然の質問ですいません。こんにちは、「ちきゅう」乗船中の里口です。深い海底を探検した映像を見たことがあるという人が、ひょっとしたらいるかもしれません。私?私はないです。いやいや、海底の世界を見たことはないのですが、さらにその下にあるものを今まさに目にしています。下にあるもの。それは深~~~~~~い海底でできた地層です。

「ちきゅう」は海底の掘削調査をする船です。掘削調査(ボーリング調査ともいいます)では、私たちがなかなか目にすることのできない地下の状態や構成物質などを直接手にとって調べる事ができます。しかし、そういう調査はめったやたらにはできません。今回の航海もそのめったやたらにできない調査の一つで、紀伊半島沖の地点に船を止め、その4000mよりもまだ深い海底を掘って地層や岩石を採取しています。

「ちきゅう」からながめた地球の夕日。
紀伊半島沖といっても、大分沖合にいるので、当然周りはすべてが水平線。


さぁ、想像してみて下さい。4000mという深さを。なかなか難しいですが、逆に上へのばしていくと、富士山の頂上よりもさらに高いところまで届きます。日本で一番高いところよりも、まださらに上へ行くくらい深いところまで掘削の道具をおろしていきます。それだけでもすごい事なのに、そこで海底に到着して、さらにその下を掘るなんてっ!!....掘るなんてっ!!!(驚きを表現するために繰り返させてもらいました)。掘るなんてっ!(しつこいか)なんてすごいんだ、と想像するのは、なかなか難しいかもしれませんね。





夕日に映える掘削やぐら。
日本語にするとなんか野暮ったいですが、海底4000mまでボーリング機材をおろしていくための巨大なものです。

本当ならここで、実際に掘られた現物を皆さんにお見せしたいところですが、調査中のことはきちんとした成果が出るまではお見せできないルールになっているので(編集長チェックが入るでしょうし)、研究が進んでからのおたのしみという事で。今は乗船している私たち研究者だけの楽しみとさせて下さい。海底4000mでたまったもの達にふれている私達の興奮がちょっとでも伝わったら幸いです。

そうやって採取した試料は、主に乗船している研究者がよってたかって採取し、それぞれの目的にそった研究に利用します。得られた試料は大変貴重なものなので、当然ながら研究をするための審査も厳しく行われます。裏庭に蒔きたいからとかそんな理由では困りますからね。私?そりゃあここにいるって事は、審査されて「まぁ、研究をやらしたってもええよ」てな具合で受け入れられたのです(先日の記事で説明しましたね)。

研究者はそれぞれの分析に必要な量の試料を要求します。掘削で得られる試料の量は決まっているので、それぞれの採取部分が競合しないように協議され、試料の分配が行われます。乗船中には、基礎的なデータ(先日書いた地層の記載もその一つです)をとる作業と平行して、交代で試料の採取・分配作業が行われています。

試料採取の風景。同じ人が永遠とやりつづけるのではなくて、時間でくぎった交代制です。
右側にいるのが首席研究者のピエールさん。みんながまじめにやっているか見回りにきたのか?というとそうではなく、全体の状況を把握するためにいろんな所に突然出没します。
先日、私が顕微鏡をのぞいているといつの間にか背後に立っていました。本当にこの研究が好きなのだろうなという熱意が伝わってきます。


研究者は気難しい顔をしてやっている、というイメージとは全く違って、割合に楽しそうにやっています。それは、単に疲れのせいでハイ状態になっているだけなのかもしれません。こういう大切な試料を使うからには、きちんと研究報告書を書き、論文として公表することは当然の義務としてあります。乗船中に提出する報告書もあり、そのために様々な議論やまとめが、調査と平行して行われています。



研究報告書作成中のひとこま。
乗船中はいくつかのグループに分かれて、様々な記載や分析を行い、報告書をまとめます。下船後には科学論文などになっていきます。



里口 保文(琵琶湖博物館

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