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数理科学・先端技術研究分野 Mathematical science and Advanced Technology (MAT)

ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。(鴨長明 方丈記より)されど、数理科学と成り得たものは常磐なり。常磐なる理論に一寸の知恵を加ふれば、これ先端技術なり。

科学者は、あるときは、モノや生きモノの観察・観測を経て、その成り立ちや変化の仕組みを見抜き出す探偵であり、見抜き出した考え方を証明したり見抜き出された事実に基づいて新たなモノを作ったり将来を予測するためのレシピを書き遺すシェフでもあります。しかし、既存のレシピに拘らず、とびきり美味しい料理を作り出す秘技や神技をもつシェフもいます。このようなタイプのシェフを芸術家と呼びます。

イメージ的には、科学者シェフより芸術家シェフの料理の方が美味しそうな感じがします。実際、美味しいでしょう。しかし、芸術家シェフの料理を味わえる人は限られているのです。さらに、そのシェフが亡くなれば、その美味しい料理は二度と誰も食べられなくなるのです。

ところが、科学者シェフのレシピには、常に探偵の綿密な調査と裏付けと高い再現性が求められいるので、誰が料理しても同じ味になるのです(でなければ、科学レシピ=論文ではない)。数ある科学レシピの中でも、数理科学のレシピは寸分の付け入る隙もなく再現性抜群なのです。例えば、紀元前の科学者ピタゴラスらは、地球の大きさを推定したり天体の運動の仕組みを見抜き出すために、客観的で普遍的な数理的言語で幾何学や運動学のレシピを書き遺しました。それから二千年以上の時を経た今、人類は人工衛星を宇宙に飛ばしGPSによる計測を行うようになりましたが、計測値から数千キロで数センチから数ミリ以下の誤差で地球の大きさを正確に求めるプロセスで紀元前のレシピが堂々と使われているのです。また、このように数理科学と先端技術は実は表裏一体なのです。

一方、JAMSTECの長期ビジョンには、「海洋・地球・生命」といった一見すると数理科学からは途方も無くかけ離れたところに問題設定が置かれているように思えます。恐らく、当面の間、数々の船舶や海中探査機によって、ひたすら観察・観測する時代(肉屋、魚屋八百屋でのお買い物時代)が続くでしょう。確かに、それはJAMSTECの重要なミッションです。しかし、どんなに精緻な観察・観測データが得られても(料理の素材が揃っても )、再現性高く将来の予測をするための科学レシピを書き上げなければ、JAMSTECとしての責務は全うされません。

と、長々と前口上を述べましたが、ようするに、数理科学・先端技術研究分野 Mathematical science and Advanced Technology(MAT)とは、海洋・地球・生命に関する他の研究センターや研究分野とタイアップしながら、生物から宇宙にまで及ぶ様々な現象についての数理科学研究と、数理科学に裏打ちされた先端技術研究を行う非常にユニークな探偵とシェフ集団なのです。皆様、よろしく!

数理科学・先端技術研究分野(MAT)
分野長 阪口 秀