地球発見 まだまだ知らない「ちきゅう」がある。

CDEX
特集:プレート境界からの試料回収に成功!

東北地方太平洋沖地震の発生メカニズムの解明をめざし,地震からわずか1年という異例の短期間で出航へとこぎつけた「東北地方太平洋沖地震調査掘削(JFAST)」。54日間におよぶ航海は、乗船研究者たちに幾多の試練をもたらした。かつてない深度でのオペレーションにせまる。
(2012年8月掲載)

世界最深からの断層試料回収に挑む

 2012年4月1日。地球深部探査船「ちきゅう」は,仙台沖約250kmの日本海溝域をめざして清水港を出航した。  2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震。その発生メカニズムは,それ以前に研究者たちが予測していたものとは大きく異なっていた。とくに海溝近くの海底までのびた断層が,いったいどのように作用して巨大地震と大津波を引き起こしたのかについて,新たな地震発生モデルを組み立てる必要があった。そのための調査と研究を進め,その結果を社会に生かす事が急務となっている。
 そこで「東北地方太平洋沖地震調査掘削(JFAST)」では,「ちきゅう」による直接掘削で二つの挑戦を行った。一つは,今回の地震に関与した断層の地質試料を回収すること。もう一つは,掘削孔内に計測装置(温度計)を設置して断層すべりによる摩擦熱を観測をすることである。こうすることで,世界で初めて直接かつダイナミックな地震像を描く事に挑戦した。
 地球の表層は,プレートとよばれる十数枚の岩盤でつくられている。東北地方太平洋沖地震の発生場所である日本海溝域では,東北地方などが乗る北米プレートの下に,太平洋の海底である太平洋プレートが沈み込んでいる。東北地方太平洋沖地震はこの両プレートの境界域が大きくずれることで発生した。
 ずれた以上,そのときにできた断層があるはずだ。事前の調査で,太平洋プレート内の上層部に水分を多く含む粘土の層があることが予想されている。地震でできた断層はこの粘土層内にあると予想された。
 JFASTのターゲットは,この断層だ。
 北米プレートと太平洋プレート境界部分の断層に蓄えられていたエネルギーは、東北地方太平洋沖地震時に震動と摩擦熱として一気に放出された。この地震発生前は、プレート境界地震発生帯のごく浅部では、地震を引き起こすエネルギーが蓄積されないと考えられており、地震時にプレート境界浅部の断層が大きくずれるとは思われていなかった。それにも関わらず、東北地方太平洋沖地震震源域の浅部の断層は大きくずれた。プレート境界地震発生帯浅部地層にかかる力とひずみの状態はどのようなものであったのか?
この疑問の答えを得るには,震源域を実際に掘削し,そこに温度計を設置して摩擦熱を観測する。そして,その地層を回収する必要があった。そのためには,北米プレート側からプレート境界断層を経て,その下にもぐり込んでいる太平洋プレートまで,水深7,000mの海底をさらに1,000mも掘り下げなければならない。そんな掘削は,世界中を見渡しても過去に例がない。

掘削予点の海底下構造概念図