絶対に成功しなければいけないオペレーション

斉藤 実篤
海洋研究開発機構地球内部ダイナミクス領域
チームリーダー
悪天候と機器の不調に忍耐強く対応しながら,4月21日,「ちきゅう」は,ドリルビットの直上に各種計測センサーを装備しての掘削を開始した。掘りながら掘削孔の地層を調べていく。これを「掘削同時検層(LWD)」という。
今回のLWDで得られるデータは,孔壁の電気抵抗と自然ガンマ線である。
電気抵抗は,岩石中の水分量に影響を受ける。断層では岩石が破壊されていることが予想されている。破壊された岩石の隙間には水が入っていることになる。この水によって,電気抵抗が低くなる(電気が通りやすくなる)。一方で自然ガンマ線は,地震の断層帯をつくっていると想定されている粘土鉱物から放出されている。
これらのデータを得ることではじめて,精度の高い断層深度の特定が可能となる。それは断層の地質試料を回収する際にも,温度計を設置する際にも欠かせないものだ。「したがって,LWDは絶対に成功しなければいけないオペレーションだったのです」とLWDチームの斎藤実篤技術研究主幹は話す。
ここまで綺麗なデータは見たことがない
LWDをはじめると,船上のモニターにはほぼリアルタイムで2分毎に約1m間隔のデータが表示される。当初,そのデータの物珍しさに,モニターの前には多くの人が集まっていた。しかし,「2分に1度」のペースである。なかなかデータの変化があらわれず,モニターの前の人だかりはしだいに一人減り,二人減り,そして当番だけになった。
LWDの開始から2日。それまでのデータに変化が現れた。ポツンと,それまでとはちがう位置にデータが表示されたのだ。
「一つだけだとノイズの可能性がありました。2分に1度のデータだから,そこがもどかしい」と斎藤技術研究主幹。時間が経つにつれて,モニターにはっきりとした傾向が表れた。
電気抵抗が下がり,自然ガンマ線の数字が上昇しはじめたのである。「『キタ!』と思いました」(斎藤技術研究主幹)。断層のある粘土層に到達したのだ。
そして,厚さ15mの粘土層を貫通すると電気抵抗が一気に上昇した。太平洋プレートの上部をつくるチャートとよばれる硬い岩の地層に到達したのである。「大成功です。ここまで綺麗なLWDデータはほとんど見たことがありません」(斎藤技術研究主幹)。このときの掘削は,水深6889.5mの海底を,850.5m掘り込んだ。海面下ドリルパイプ長の世界記録である。
≫「第二回 断層コアを手に入れた」へ続く
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