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特集:プレート境界からの試料回収に成功!

東北地方太平洋沖地震の発生メカニズムの解明をめざし,地震からわずか1年という異例の短期間で出航へとこぎつけた「東北地方太平洋沖地震調査掘削(JFAST)」。その54日間におよぶ航海は,決して楽なものではなかった。かつてない深度でのオペレーションにせまる。
(2012年8月掲載)

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温度計の設置を断念

 いよいよ次は,長期孔内観測用の温度計の設置と,地質試料(コアサンプル)の回収である。
 しかし悪天候と機器の不調で,調査日程はすでに半分をすぎていた。この段階で,目標としてあげていた,「地質試料の回収」も,「温度計の設置」もできていない。
 共同首席研究者の一人,京都大学のJames J. Mori教授は,「機器の不調の主な原因は,6,800m以上という水深でした。とにかく深いのです。そしてひとたび機器に不調が発生すれば,その機器の回収に時間がかかります。6,800m先の深海から回収し,調整してまた降ろすには3~4日が必要となるのです。この作業を待つ時間が心理的につらい事がありました」と話す。
 5月10日。水中カメラの電力供給ケーブルにトラブルが発生し,水中カメラの映像を確認しながら作業を進める事ができなくなった。
 水中の映像がなければ,温度計の設置は不可能である。温度計は,一度掘った孔をねらって再挿入する。「それは20階建てのビルの屋上から糸を垂らして、地面にあいた小さな孔に入れるようなものです」と,地球深部探査センターの江口暢久技術主幹は話す。海底を映す映像があっても難しく,映像なしではとてもできるものではない。二つの目標のうち一つを5月25日までの航海期間中に実施することを断念せざるをえなくなった。

整備中の水中カメラ