2015年 9月 17日
国立研究開発法人海洋研究開発機構
1.概要
国立研究開発法人海洋研究開発機構(本部:神奈川県横須賀市、理事長:平 朝彦、以下「JAMSTEC」)むつ研究所(青森県むつ市、研究所長:渡邉 修一)並びに地球情報基盤センター(神奈川県横浜市、センター長:高橋 桂子)は、JAMSTECのウェブサイト上で津軽海峡東部海洋レーダーデータサイト「MORSETS」(MIO Ocean Radar data Site for Eastern Tsugaru Strait:MIOはむつ研究所の略称)の公開を開始しました。
JAMSTECむつ研究所では、北海道大学、青森県産業技術センターと協力して行っている下北半島周辺の海洋観測研究の一環として、地球環境変動に対する津軽海峡の環境変動の応答を把握するため、津軽海峡東部の3箇所に海洋短波レーダー(※、以下「H Fレーダー」)を設置し、平成26年4月より津軽海峡海表面の流況を常時観測しています。今般、本観測データに一定の品質が確認できたことから、データ公開のためのシステム構築およびテスト運用を経て、平成27年9月17日付で本観測データを公開するに至りました。
「MORSETS」では、30分毎の準リアルタイムで作成される流況マップをウェブサイト上で閲覧できるほか、流向・流速等のデータをダウンロードすることも可能です。津軽海峡の海洋観測研究に資するだけでなく、データ公開によって更に漁業や海難事故防止にも役立つことが期待されます。
2.背景
津軽海峡は、対馬海峡から日本海を北上してきた対馬暖流の分岐流が津軽暖流として太平洋へと抜ける通り道です。また、津軽海峡の東口付近には北太平洋の北側からやってくる沿岸親潮も流れてくることから、津軽海峡では暖流と寒流のせめぎ合いが見られ、海峡内の海洋環境は地球規模の環境変動に大きく影響されます。
この地球環境変動に対する津軽海峡の海洋環境変動の応答を把握するため、JAMSTECは、国立大学法人北海道大学(2015年9月1日付けで連携協力協定を締結)水産科学研究院および地方独立行政法人青森県産業技術センターと協力し、下北半島周辺海域での海洋観測研究を行っています。
本観測研究を一層進めるため、平成25年9月から平成26年3月にかけて、津軽海峡東部に3局のHFレーダーを設置する作業を行い(大畑局:むつ市大畑町木野部、岩屋局:青森県下北郡東通村岩屋、えさん局:北海道函館市大澗町)、平成26年4月より海表面(概ね水深2m)の流向・流速の継続的な計測を開始しました。観測開始から半年間ほどで蓄積されたデータをこれまでの知見や船舶による観測データを参考にして検討したところ、本HFレーダーによる観測データが一定の品質を有していることが確認されたことから、計測データを広く社会に還元し、漁業や海難事故防止等に役立てていただくため、平成26年11月よりデータ公開のためのシステム構築を開始し、テスト運用を経て、この度、JAMSTECのウェブサイト上で公開するに至りました。
3.データの意義
津軽海峡を通過した津軽暖流は、夏から秋にかけては北海道噴火湾へ達し、また、冬場には下北半島に沿って流れていることが知られています。HFレーダーにより津軽海峡の東口での流れの様子を詳細に捉えることにより、津軽暖流や沿岸親潮が周辺海域へ影響を与える時期や期間、範囲、HFレーダー以外の観測と関連付けて影響の大きさ等を把握することが可能になり、海峡周辺海域で起こる現象(たとえば2014年に観測されたイベント的な異常冷水現象や長期にわたる沿岸生態系の変遷)を科学的な知見から明らかにすることができます。
また、津軽海峡を通過する暖流と寒流の勢力を把握することにより、漁場が形成されている大まかな海域を推測することが可能になり、漁船航路選択に活用されることが期待されます。さらに、潮流分布(流れの速い場所、遅い場所)を知ることが可能となり、海難事故防止にも役立つと考えられます。
4.今後の展望
今後、さらなる計測データの品質向上を進め、公開データへ随時反映していきます。将来的にはHFレーダーで得られる時々刻々のデータと数値シミュレーションを組み合わせることにより、津軽海峡内及び周辺海域の流況予測の公開を実現し、より広く社会に役立てていきたいと考えています。
※海洋短波レーダー:レーダー局から海洋表面に向けて照射した電波の後方散乱が海面の流れによってドップラーシフトすることを利用して海面流況を計測するリモートセンシング。計測範囲が二局以上重なる海域において、ベクトル合成により平面的な流況が観測される。
図1 HFレーダーの基地局と計測範囲