トップページ > プレスリリース > 詳細

プレスリリース

2016年 2月 9日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

地球深部探査船「ちきゅう」による
「沖縄トラフ熱水性堆積物掘削II」の実施について

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という)は、戦略的イノベーション創造プログラム(※1 SIP)の課題「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」における「海洋資源の成因に関する科学的研究」の一環として、地球深部探査船「ちきゅう」による沖縄海域での科学掘削調査「沖縄トラフ熱水性堆積物掘削II」を実施します。

1.航海日程

・期間:
平成28年2月11日 静岡県清水港出港
平成28年3月17日 静岡県清水港帰港、研究航海完了(全36日間)
なお、気象条件や調査の進捗状況によって変更する場合があります。
・海域:
沖縄トラフ伊平屋小海嶺南麓、伊平屋北海丘(図1

2.乗船研究チーム

共同首席研究者(以下の3名)
・熊谷 英憲(JAMSTEC海底資源研究開発センター資源成因研究グループリーダー代理)
・野崎 達生(JAMSTEC海底資源研究開発センター資源成因研究グループ研究員)
・石橋 純一郎(九州大学大学院理学研究院准教授)

他、JAMSTEC海底資源研究開発センター・次世代海洋資源調査技術研究開発プロジェクトチームおよび「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」に参画する国立研究開発法人産業技術総合研究所、国立大学法人九州大学に組織された研究チームを中心としたメンバーで構成

3.航海の概要

本調査では、掘削同時物理検層と地熱ツールを用いて、伊平屋北海丘における科学掘削を行い、昨年までに発見された海底下の熱水だまりと鉱体が山体規模で一体となって連続しているかを検証します。また、沖縄海域・伊平屋小海嶺に近年発見された熱水活動域(野甫サイト:2014年12月4日JOGMECニュースリリース)での掘削調査を行うことにより、これまで限られた熱水活動域でしか確認されていなかった海底下における熱水だまりと鉱体が様々な熱水活動域に普遍的に分布しているかどうかを検証します。両地域の科学掘削により、海底熱水鉱床の成因モデルを構築します。加えて、掘削孔の一部において、鉱石の形成条件を推定するのに必要な鉱物化学組成データを得るため、化学分析に用いる海底下の鉱体及び周囲の岩石・堆積物試料採取を行い、さらに両海域において掘削孔から熱水の湧出が確認された場合は掘削孔に長期観測のためのモニタリングシステムを設置します。

4.研究の背景・目的

日本近海で大規模な海底熱水鉱床が存在する可能性の高い海域として、沖縄海域・伊豆小笠原海域等が知られています。これらの海域には活動を終えた熱水鉱床(非活動的熱水鉱床)に加えて、規模が大きいながらも熱水活動を過去に終了して堆積物に覆われ、現在は海底面上に露出していない鉱床(潜頭性鉱床)が存在している可能性があり、採掘に向けた事業化・産業化の対象として期待が高まっています。しかしながら、非活動的熱水鉱床や潜頭性鉱床については詳細な分布が明らかになっていないだけでなく、確立された探査技術も存在していません。また、沖縄海域・伊豆小笠原海域等に限っても、その海域面積は広大であり、それらに対してくまなく船舶や探査機等を用いた調査を実施することは多額なコストと膨大な所要時間がかかります。したがって、船舶や探査機を用いた調査を効率化するために、海底熱水鉱床の科学的成因を明らかにし、有望海域を絞り込むのに有効な観測項目を特定する必要があります。

一方、2010年に沖縄海域の伊平屋北海丘北部において統合国際深海掘削計画(IODP)(※2)第331次研究航海で実施された科学掘削調査により、海底下に少なくとも数百m規模の広大な熱水溜まりが発見され(2010年10月5日既報)、さらに2012年から2013年にかけて実施した調査航海では、同海丘の中央部と南部で新たに2つの熱水活動域が発見されています(伊平屋北ナツサイト、伊平屋北アキサイト:2014年3月4日既報)。加えて、2014年にSIP「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」課題のもとで実施された地球深部探査船「ちきゅう」による科学掘削調査(「沖縄トラフ熱水性堆積物掘削I」、2014年6月25日既報)により、これらの3つの熱水噴出域が伊平屋北海丘全域にまたがるような大きな熱水溜まりを形成している可能性が示されました(2014年7月26日既報)。その規模は東西に2 km以上、南北に3 km程度と推測され、沖縄海域で発見された中では最大の熱水域と考えています。本調査において得られる更なるコア試料の記載・化学組成データや地層の物理データを取得することにより、海底下に広がる熱水分布域および海底下構造の把握を図ります。これにより海底下鉱体(鉱石の集合体)の形成環境を解明し、その形成に関する成因モデルを海のジパング計画課題で行われている有機的な調査システム開発につなげ、非活動的熱水鉱床又は潜頭性鉱床の効率的な調査に必要なセンサー類、探査手法を構築していくことが期待されます。

※1 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)
総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が自らの司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野の枠を超えたマネジメントに主導的な役割を果たすことを通じて、科学技術イノベーションを実現するために平成26年度より5カ年の計画で新たに創設したプログラム。CSTIにより選定された11課題のうち、「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」(プログラムディレクター 浦辺 徹郎、東京大学名誉教授、国際資源開発研修センター顧問)ではJAMSTECが管理法人を務めており、海洋資源の成因に関する科学的研究、海洋資源調査技術の開発、生態系の実態調査と長期監視技術の開発を実施し、民間企業へ技術移転する計画となっている。

※2 統合国際深海掘削計画(IODP)
日・米が主導国となり、2003年10月から2013年10月まで実施した多国間国際協力プロジェクト。日本が運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船ジョイデス・レゾリューション号を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行った。2013年10月からは、国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)に引き継がれた。

図1
図1 中部沖縄トラフの海底地形図。A: 伊平屋小海嶺南麓、B: 伊平屋北海丘
国立研究開発法人海洋研究開発機構
(本内容について)
海底資源研究開発センター 企画調整グループ グループリーダー
菊田 宏之
(「ちきゅう」について)
地球深部探査センター 企画調整室長
花田 晶公
(報道担当)
広報部 報道課長 松井 宏泰
お問い合わせフォーム