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プレスリリース

2016年 3月 18日
国立研究開発法人海洋研究開発機構

地球深部探査船「ちきゅう」による
「沖縄トラフ熱水性堆積物掘削Ⅱ」について(航海終了報告)

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」)は、戦略的イノベーション創造プログラム(※1 SIP)の課題「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」における「海洋資源の成因に関する科学的研究」の一環として沖縄海域での科学掘削調査を実施しました。

1.実施内容

海底熱水鉱床の成因モデル構築のため、沖縄本島の北西に位置する伊平屋北海丘および伊平屋小海嶺(野甫サイト:平成26年12月4日JOGMECニュースリリース)(図1)において、海底下鉱体とその源となる海底下熱水域分布の把握を目的とした地球深部探査船「ちきゅう」による科学掘削調査「沖縄トラフ熱水性堆積物掘削Ⅱ」を行いました。

今回の調査では、伊平屋北海丘の3地点および伊平屋小海嶺野甫サイトの4地点において掘削同時検層(※2)を行いました。掘削同時検層から得られる物理パラメーター(温度、圧力、比抵抗、ガンマ線強度、比抵抗イメージ)と地震波探査構造から推測される海底下熱水溜まりの分布の比較・検証を行った結果(図2)、確度高く海底下熱水溜まりの分布を把握することに成功しました。さらに、掘削孔から熱水の湧出が確認された伊平屋北海丘と伊平屋小海嶺野甫サイトの各1孔において、熱水の物理パラメーター(温度、圧力、流量)の長期観測や鉱物沈澱プロセスを観察するためのモニタリング装置を設置しました(図3)。また、硫化鉱物濃集層、変質粘土層、変質火山岩層および珪化岩層などのコア試料を採取し(図4)、物理データの取得や様々な化学分析を船上で行いました。

本研究航海は、熊谷 英憲(JAMSTEC次世代海洋資源調査技術研究開発プロジェクトチーム成因研究ユニット主任技術研究員)、野崎 達生(JAMSTEC次世代海洋資源調査技術研究開発プロジェクトチーム成因研究ユニット研究員)、石橋 純一郎(九州大学大学院理学研究院准教授)の3名が共同首席研究員を務め、「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」に参画する機関のJAMSTEC海底資源研究開発センター・次世代海洋資源調査技術研究開発プロジェクトチーム、国立大学法人九州大学および国立研究開発法人産業技術総合研究所に組織された研究チームを中心としたメンバーが乗船しました(航海期間:平成28年2月11日~3月17日)。

2.結果概要

「沖縄トラフ熱水性堆積物掘削I」(平成26年7月26日既報)では、平成4年に行われた国際深海掘削計画による科学掘削調査航海(ODP Leg 193)に続く海底熱水活動域を対象とした世界で2番目の掘削同時検層が行われましたが、熱水活動が活発なマウンドの周辺を取り囲むように掘削が行われました。本航海では熱水活動がアクティブなマウンドの中心部においても海底下200mを超える掘削同時検層およびコアリングを行いました。背弧域の海底熱水鉱床を対象とし、掘削同時検層およびコアリングを両方行った科学掘削としては世界最高クラスの深度です。その結果、海底熱水鉱床の上部から下部までの一連の物理データおよびコア試料を取得することに成功しました。したがって、今回の掘削調査によって、物理探査で取得したデータと海底下で取得したデータやコア試料の照合が網羅的に行える見込みが立ちました。この成果は今後の海洋資源成因モデルの信頼性向上や、調査時の指標の特定等による調査の大幅な効率化に役立つことが期待されます。

各調査項目の結果概要は以下の通りです。

(1)詳細な掘削同時検層データの取得と海底下の熱水域分布の把握(図2

伊平屋北海丘は小火山体が集まった直径約8 kmの高まりであり、北から南にかけて伊平屋北オリジナルサイト、伊平屋北ナツサイト、伊平屋北アキサイトの3つの熱水噴出域が分布しています(図1B)。オリジナルサイトとナツサイト、およびナツサイトとアキサイトの間において掘削同時検層を行い、地震波探査構造解析(図2A)から予想される海底下深度において温度異常を検出し、地震波探査構造解析と掘削同時検層データの照合を実際に行うことができました(図2Bの右から二番目)。この結果は、地震波探査構造解析の結果から今後は確度高く海底下熱水溜まりの分布を予測できるようになることを示します。したがって、地震波探査構造解析の結果から掘削すべき地点を予測し、効率の良い検層などの実施が可能になります。また、伊平屋北海丘および伊平屋小海嶺野甫サイト(図1A)のマウンド、野甫サイトの平坦で堆積物が被覆する地点においても掘削同時検層を行い、これまでの航海では観察されなかった新しい深度方向のガンマ線強度と比抵抗変化の組合せなどを捉えることに成功しました。さらに、掘削孔における孔壁比抵抗画像の取得に成功し(図2Bの一番右)、コア試料との対比を進めることによって、今後海底下構造のより詳細な描像や海底熱水鉱床の成因モデル構築が期待されます。

(2)長期観測のためのモニタリング装置設置(図3

掘削後に盛んな熱水噴出が観察された伊平屋北海丘および伊平屋小海嶺野甫サイトの各1孔において(図3A)、熱水物理パラメーターの長期観測やチムニー・マウンドを構成する鉱物の沈澱プロセス観察を目的としたモニタリング装置を設置しました(図3B)。モニタリング装置には熱水を導入し鉱物を沈殿させる容器、熱水の温度・圧力・流量をモニターするセンサーとロガー(データ記憶部)および鉱物が沈殿した容器の重量変化をモニターするロードセルとロガーが装着されています。これらのデータを長期間取得することによって、熱水噴出孔から噴出される物質の量(フラックス)を把握することが期待されます。これまでの熱水噴出量の計測は、深海底での目視や画像解析以外の手段に乏しく、噴出が乱流状態であることも相まって極めて困難でした。本調査でモニタリング装置の設置を行い、計器による計測が可能となったことは飛躍的な進歩です。また、容器内に沈澱した鉱物を観察することによって、極めて初期の海底熱水鉱床生成プロセスを観察できると予想されます。これらの容器およびデータロガーは、平成28年度の調査航海において回収される予定です。

(3)硫化鉱物濃集層のコア試料(図4)および船上物性データの取得

本航海の後半において、コア試料を採取するコアリングを重点的に行いました。その結果、硫化鉱物濃集層、変質粘土層、変質火山岩層および珪化岩層など熱水鉱床を構成する典型的な岩相から網羅的にコア試料を入手することに成功しました(図4)。船上でこれらのコア試料の物性計測や記載、化学分析によって様々なデータを取得しました。特に伊平屋北海丘においては、熱水鉱床マウンドを海底下208.5mまで掘削し、上部から下部まで一連で各岩相の層厚や物性データを取得することができました。熱水変質堆積物から得られる一連の変質鉱物の詳細な解析を今後進め、海底下の温度や化学的性質の深度方向プロファイルを詳細に推定し、探査に有用な鉱床モデルの構築に貢献することが期待されます。この成因モデルと既に得られている地震波探査や電磁気探査結果などを融合することによって、より効率的な物理探査手法の開発に貢献することが期待されます。

また、コアリング後の掘削孔に、JAMSTECで開発中の孔内温度を計測する装置を投入しました。その結果、伊平屋北アキサイトのマウンド部を掘削した孔内(海底下188mの位置)において、最高244.6度という温度が得られました。掘削中に注水した泥水などの影響によって現場の温度よりも低めの値を示していると考えられますが、今後本装置を改良することによって、迅速に孔内計測を行えることが期待されます。

3.今後の予定

SIP課題「次世代海洋資源調査技術」の下、これまでに得られたコア試料や地層物性データなどの詳細な解析を進めることによって、海底下に広がる熱水分布域および海底下構造の把握を図ります。これにより海底下鉱体(鉱石の集合体)の形成環境を解明し、その形成に関する成因モデルを海のジパング計画課題で行われている有機的な調査システム開発につなげることにより、非活動的熱水鉱床(※3)または潜頭性鉱床(※4)の効率的な調査に必要なセンサー類、探査手法の構築が期待されます。

4.「ちきゅう」の予定

平成28年3月26日から平成28年4月27日まで国際深海科学掘削計画(IODP、※5)第365次航海 南海トラフ地震発生帯掘削計画「巨大分岐断層浅部での長期孔内観測装置設置」を実施予定です。

<用語解説>

※1 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)

総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が自らの司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野の枠を超えたマネジメントに主導的な役割を果たすことを通じて、科学技術イノベーションを実現するために平成26年度より5カ年の計画で新たに創設したプログラム。CSTIにより選定された11課題のうち、「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」(プログラムディレクター 浦辺 徹郎、東京大学名誉教授、国際資源開発研修センター顧問)ではJAMSTECが管理法人を務めており、海洋資源の成因に関する科学的研究、海洋資源調査技術の開発、生態系の実態調査と長期監視技術の開発を実施し、民間企業へ技術移転する計画となっている。

※2 掘削同時検層

地質の特性や断層を把握するため、ドリルパイプの先端近くに物理計測センサーを搭載し、掘削と同時に孔内で各種計測を行うこと。

※3 非活動的熱水鉱床

活動を終えた熱水鉱床。

※4 潜頭性鉱床

熱水活動を過去に終了し、堆積物に覆われていて現在は海底面上に露出していない鉱床。

※5 国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)

平成25年(2013年)10月から始動した多国間国際 協力プロジェクト。現在、日本、米国、欧州(18ヶ国)、中国、韓国、豪州、インド、NZ 、ブラジルの26ヶ国が参加。日本が運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船ジョイデス・レゾリューション号を主力掘削船とし、欧州 が提供する特定任務掘削船を加えた複数の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。

尚、本プロジェクトは平成15年(2003年)10月から平成25年(2013年)まで実施された、統合国際深海掘削計画(IODP:Integrated Ocean Drilling Program)から引き継いでいる。


A:伊平屋小海嶺南麓(野甫サイト)

B: 伊平屋北海丘

図1 中部沖縄トラフの海底地形図
A: 伊平屋小海嶺南麓(野甫サイト)、B: 伊平屋北海丘

:
掘削同時検層、コア試料採取およびモニタリング装置設置を行った地点
:
掘削同時検層およびコア試料採取を行った地点
:
モニタリング装置設置のみを行った地点
:
掘削同時検層のみを行った地点
:
IODPによる科学掘削調査の地点(C0013E、C0014G、C0015B、C0016A、C0016B、C0017)
:
「沖縄トラフ熱水性堆積物掘削I」による掘削地点

A: サイトC9021付近を東西に横切る地震波反射断面図

B: サイトC9021において掘削同時検層により得られた物理パラメーター
図2
詳細な掘削同時検層データの取得と海底下の熱水域分布の把握
A: サイトC9021付近を東西に横切る地震波反射断面図
B: サイトC9021において掘削同時検層により得られた物理パラメーター
左から掘進速度、自然ガンマ線、比抵抗1、比抵抗2、温度・圧力、孔壁比抵抗画像

A:C9017Aにおける掘削同時検層のための掘削後1日目の様子

B:C9024に設置したモニタリング装置
図3
長期観測のためのモニタリング装置設置
図4
硫化鉱物濃集層、変質粘土層、変質火山岩層および珪化した白色粘土層の代表的なコア試料。
下部(4本目)の珪化した白色粘土層のコア試料は一部分のみを抜粋。
(掘削同時検層およびモニタリング装置設置について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
次世代海洋資源調査技術研究開発プロジェクトチーム成因研究ユニット
主任技術研究員   熊谷 英憲
研究員       野崎 達生
地球深部探査センター技術部長  許 正憲
(コア試料採取および地熱検層ツールについて)
国立研究開発法人海洋研究開発機構
次世代海洋資源調査技術研究開発プロジェクトチーム成因研究ユニット
研究員       野崎 達生
九州大学大学院理学研究院准教授
石橋 純一郎
(「ちきゅう」について)
地球深部探査センター 企画調整室長  花田 晶公
(報道担当)
広報部 報道課長 松井 宏泰
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