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プレスリリース

2017年 6月 5日
国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立大学法人高知大学
国立大学法人茨城大学
国立大学法人筑波大学

本州近海に位置する拓洋第3海山の水深1500m~5500mの斜面に
厚いコバルトリッチクラストの広がりを確認
~成因モデルの普遍化から低コスト、高効率な調査手法の開発へ~

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)、国立大学法人高知大学(学長 脇口 宏、以下「高知大学」という。)、国立大学法人茨城大学(学長 三村 信男)及び国立大学法人筑波大学(学長 永田 恭介)は共同で、戦略的イノベーション創造プログラム(※1 以下、「SIP」という。)の課題「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」の一環として、拓洋第3海山の北斜面において、将来の鉱物資源として有望とされるコバルトリッチクラストの調査を実施しました(※2)。今回の調査では、コバルトリッチクラストが水深1500mから5500mの斜面一帯に広がり、一部は10cmを超える厚さに成長していることを発見しました。この結果は、SIPで構築しているコバルトリッチクラスト資源の形成過程に基づく予測と一致するものであり、コバルトリッチクラストの効率的な調査手法の提案に向けて大きく前進したことを裏付けています。

拓洋第3海山は、房総半島の東南東約350km沖に位置する平頂海山(※3)です。このような、本州近海の排他的経済水域の海山がコバルトリッチクラストに覆われていることが確認されたのは初めてです。さらに、10cmを超える厚いコバルトリッチクラストが多数採取されたことから、拓洋第3海山は、コバルトリッチクラストの産状や形成・成長プロセスなどの成因解明のための調査対象として非常に有用であるだけではなく、将来の調査技術・開発技術の実験の場としての利用も期待できます。

2.研究の背景・目的

古い海山の斜面には、海山を構成する玄武岩や水深の浅い石灰岩等の基盤岩を覆うようにマンガンと鉄の酸化物を主体とした数mmから10cmあまりの厚さのコバルトリッチクラストが分布しており、コバルト、ニッケル、テルル、白金、レアアース等のレアメタルを含む海底金属資源として注目されています。SIP「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」の「海洋資源の成因の科学的研究に基づく調査海域の絞り込み手法の開発」(※4)課題においても、コバルトリッチクラストが対象となっており、科学的な研究を基にその調査技術の研究開発を進めています。

これまでコバルトリッチクラストの科学的調査に関しては、主に日本列島から遠く離れた(南東約1800km)巨大平頂海山 拓洋第5海山(図1)において、JAMSTECの船舶・無人探査機を用いて行われてきました。研究グループは拓洋第5海山をモデル海山と位置づけ、1100mから5500mの水深において、系統的なコバルトリッチクラストの研究用試料の採取や3000m以浅の斜面でのコバルトリッチクラストの厚み計測などを行ってきました(2016年2月9日既報)。

一方、拓洋第3海山(図1)では、1988年の東海大学の実習航海によってコバルトリッチクラストの存在は報告されていました。また、1992年に国際深海掘削計画(ODP)によって海山平頂部の科学掘削が行われ、2006年にはJAMSTECの船舶を用いた産業技術総合研究所による科学調査が行われました。しかしながら、これらの調査は海山本体の形成過程の研究が目的であったため、コバルトリッチクラストの系統的な観察、調査は行われませんでした。

モデル海山と位置付けた拓洋第5海山において実施してきた調査に基づき、JAMSTEC、高知大学らではこれまでの科学的研究によって次のようなコバルトリッチクラストの成因を明らかにしてきました。

コバルトリッチクラストの現場観察や成長構造などの観察から北西太平洋ではコバルトリッチクラストが普遍的に存在する。
採取された試料の成長方向に沿った同位体年代測定などによって、コバルトリッチクラストは百万年に数mmと非常にゆっくりとした速度で成長する。
コバルトリッチクラストは多くのレアメタルが濃集している。また、モリブデン、タングステン、テルルなど多くのレアメタル濃集は、コバルトリッチクラストに対する原子レベルでの吸着構造によって支配されている。
ネオジムなどのレアアースは、海水起源である。
コバルトリッチクラストの遺伝子解析から、表面に多様な微生物が生息している。微生物がコバルトリッチクラストの起源や成長に関わっている可能性がある。

これらの成因モデルは分野を横断した幅広い視点での研究によって得られました。さらに、研究グループでは本調査に先立ち、これらの成因モデルの一部に基づき、拓洋第3海山のコバルトリッチクラストの産状に関して、次のような予測を立てました。

1)
北太平洋の海山斜面にはコバルトリッチクラストが普遍的に存在するという成因モデルから、コバルトリッチクラストが拓洋第3海山斜面全体にも広がっている。
2)
コバルトリッチクラストは海水からレアメタルを濃集しながら、ゆっくりとした速度で成長をするというモデルから、拓洋第5海山より古いプレート上に位置する拓洋第3海山では、より厚いコバルトリッチクラストが発達している。

本調査では、構築した上記のようなコバルトリッチクラストの成因モデルを検証するため、コバルトリッチクラストの本格的な調査が行われていない拓洋第3海山において、コバルトリッチクラストの広がりと産状の観察、研究用試料の採取を行いました。調査には、5000m超の水深の調査が可能で、重量物の運搬が可能なJAMSTECの無人探査機「かいこうMk-IV」を用いました。

3.成果

本調査では、無人探査機「かいこうMk-IV」を用いて、本州近海の排他的経済水域(銚子から約350km)の拓洋第3海山において、合計5回の調査潜航を水深1400-1700m、2500-2700m、3200m、4300m、5500mの地点で行いました。

実際の潜航調査によって、上記1)で予測したとおり、拓洋第3海山で調査した斜面一帯がすべて厚いコバルトリッチクラストで覆われていました図2)。さらに、各水深で研究用試料を採取したところ(図3)、3200mの水深では13cmに達するコバルトリッチクラストが採取されました(図4)。この厚さは北西太平洋のコバルトリッチクラストとしては最大級の厚さです。また、潜航点すべてにおいてコバルトリッチクラストの厚さは5cmを超える比較的厚いものであり、2)で予測したとおり、より古いプレート上に位置する拓洋第3海山のコバルトリッチクラストは少なくとも新第三紀の間、継続的に成長し続けて厚いコバルトリッチクラストとなった可能性があります。以上の結果から、研究グループの提案している成因モデルの検証が大いに進みました。

これまでJAMSTECがモデル海山として調査・研究を続けてきた拓洋第5海山でも幅広い水深でコバルトリッチクラストが確認されており(2016年 2月 9日既報)、そこから遠く離れた拓洋第3海山でも同様の斜面一帯のコバルトリッチクラストが観測されたことは、北西太平洋のほぼ全ての深海域の古い岩石露頭にコバルトリッチクラストは発達するという研究グループの仮説を強く支持するものです。さらに、双方の調査データとコバルトリッチクラスト試料分析データと比較することによって、研究グループがこれまでに得てきた成因モデルの普遍化が可能となりますが、そのために必要な研究試料を今回の調査で得たことになります。

4.今後の展望

アクセスが比較的容易な本州近海の拓洋第3海山は、コバルトリッチクラストの産状や成因解明のために有用なフィールドとなるだけではなく、将来コバルトリッチクラストの調査・開発技術の実験海域としての利用も期待できます。

拓洋第3海山の各水深で採取したコバルトリッチクラスト試料については、その化学組成、同位体組成を分析し、水深によるレアメタル濃度の違いとその法則性を調べます。そのデータと、海水の溶存酸素濃度や海水の元素組成とを比べることで、コバルトリッチクラストのレアメタル濃度を決めている要素を明らかにすることが期待されます。また、微生物の解析を行うことによって、コバルトリッチクラストに存在する微生物の種類等を把握します。それによって、微生物の機能を明らかにし、コバルトリッチクラストの形成と成長にどのように関わっているかが明らかになることが期待されます。そして、先述のように得られたデータを、拓洋第5海山でこれまでに構築した成因モデルによる知見と比較することにより、成因モデルの普遍化を進めます。その結果、SIP「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」におけるテーマ「海洋資源の成因の科学的研究に基づく調査海域の絞り込み手法の開発」の目的である調査技術の構築につなげることが可能になります。すなわち、普遍化した成因モデルを用いれば、コバルトリッチクラストの存在地域とそのレアメタル含有量の予測が可能となり、コバルトリッチクラストの低コスト、高効率な調査手法の開発につながります。

※1 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)
総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が自らの司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野の枠を超えたマネジメントに主導的な役割を果たすことを通じて、科学技術イノベーションを実現するために平成26年度より5カ年の計画で新たに創設したプログラム。CSTIにより選定された11課題のうち、「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」(プログラムディレクター 浦辺 徹郎、東京大学名誉教授、国際資源開発研修センター顧問)はJAMSTECが管理法人を務めており、海洋資源の成因に関する科学的研究に基づく調査海域の絞り込み手法の開発、海洋資源調査技術の開発、生態系の実態調査と長期監視技術の開発、それらを統合した統合海洋資源調査システムの構築と、民間企業へ技術移転を実施している。
https://www.jamstec.go.jp/sip/index.html

※2 深海調査研究船「かいれい」KR17-07C航海(首席研究者:加藤真悟、JAMSTEC次世代海洋資源調査技術研究開発プロジェクトチーム・特任研究員、調査期間:平成29年4月23日~5月1日)

※3 平頂海山:頂上が平坦な海山。火山が形成後、頂上部分が波によって削られて頂上が平らになったと考えられている。拓洋第5海山は平頂部の面積が神奈川県ほどあり、巨大な平頂海山として知られている。

※4 SIP「次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)」の構成テーマのうち、今回の調査は、「海洋資源の成因の科学的研究に基づく調査海域の絞り込み手法の開発」(研究代表者:鈴木 勝彦、JAMSTEC次世代海洋資源調査技術研究開発プロジェクトチーム成因研究ユニットリーダー)によって実施された。
(https://www.jamstec.go.jp/sip/enforcement-1/development1-1.html)

図1

図1: 拓洋第3海山、拓洋第5海山の位置

図2

図2:各水深におけるコバルトリッチクラストの産状

図3

図3:各水深におけるコバルトリッチクラストの写真(岩石の黒い部分がコバルトリッチクラスト)

図4

図4:水深3200m付近の厚さ約13cmのコバルトリッチクラストの写真

(本研究について)
国立研究開発法人海洋研究開発機構 次世代海洋資源調査技術研究開発プロジェクトチーム 成因研究ユニット
ユニットリーダー 鈴木 勝彦
特任研究員 加藤 真悟
国立大学法人高知大学 海洋コア総合研究センター
特任教授 臼井 朗
国立大学法人茨城大学 教育学部
教授 伊藤 孝
国立大学法人筑波大学 数理物質系/アイソトープ環境動態研究センター
准教授 坂口 綾
(報道担当)
国立研究開発法人海洋研究開発機構 広報部 報道課長 野口 剛
国立大学法人高知大学 総務部 総務課広報係 石田 菜美
国立大学法人茨城大学 広報室 山崎 一希 
国立大学法人筑波大学 広報室 渡辺 政隆
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