沖縄トラフ熱水活動域「ちきゅう」掘削孔を利用した潜航調査計画 in NT10-17

航海レポート

2010年9月13日

なつしま出港!

川口 慎介(JAMSTEC・プレカンブリアンエコシステムラボ)

なつしま」は9月13日午後2時に那覇新港を出港し、はじめの調査海域である伊平屋凹地に向かい航走を開始しました。9月中旬ながら肌を刺す日射しの晴れ渡った空は「なつしま」の出港を祝福しているようでした。


那覇新港から旅立つ「なつしま」(写真提供:寺沢 亮)

NT10-17行動では「ちきゅう」が掘削をしている「伊平屋北」に加え、「伊平 屋凹地」と「伊是名海穴」でも調査を行います。今日は伊是名海穴熱水域の簡単な紹介をします。

伊是名海穴の北東斜面にあるJADE熱水サイトは、1989年に日本で最初に見つかった由緒正しき熱水域です。その時の様子は、「ちきゅう」特設サイトの石橋 純一郎さんのコメントに詳しく紹介されています。JADEサイトでは、海底下から液体CO2が漏出するという現象が世界で初めて観測され、その後沖縄トラフで見つかる熱水域のほとんどで同様の現象が確認されています。この液体CO2は、マグマから出てくるCO2に由来することがこれまでに推定されています。一方でこの液体CO2が、海底下でどのような状況に置かれていて、そこでどのような化学反応や微生物活動が進行しているかは、ほとんど明らかになっていません。大気中のCO2が地球温暖化の悪役として注目されている現代社会では、大気中のCO2を海底下に埋め込むことで温暖化問題解決に取り組もうという研究者もいます。JADEサイトではすでに海底下にCO2が大量に存在するわけですから、そのような取り組みの天然実験室としての役割があるとも言えます。

今回の航海では、液体CO2が漏出している箇所の近傍で元素状硫黄が析出していることに注目し、「Elemental Sulfur CAP procEss(ESCAPE)」説を作業仮説として、その解明に取り組みます。これまでとは少し違う視点から、ちょっと変わった試料採取法を使って海底堆積物を採取して、最先端の化学手法を用いて分析を行うことで、ESCAPE仮説の証明、あるいは新たな学説の提案を目指します。

「明るく楽しく激しく」
自ら社長をつとめる団体の目指すところについて、ジャイアント馬場はこのように表現しました。今航海は、出港翌日から休日なしで潜航調査の続くタイトな日程ですが、「明るく楽しく激しい」航海を心がけ、無事故無違反成果てんこ盛りの航海となるようがんばります。