沖縄トラフ熱水活動域「ちきゅう」掘削孔を利用した潜航調査計画 in NT10-17

航海レポート

2010年9月21日

伊是名の赤バット

川口 慎介(JAMSTEC・プレカンブリアンエコシステムラボ)

9月21日、伊是名海穴HAKUREIサイトで、チムニーの採取を行いました。これまでのレポートでも「チムニー」という言葉を使ってきましたが、これは「煙突」という意味を持つ「chimney」という英単語です。熱水が噴出すると、熱水に溶け込んでいた成分の一部が固体として析出し、噴出口の周辺に蓄積していきます。温泉で見られる湯ノ花のようなものです。これが噴出口の周辺にどんどん蓄積し、太く、長くなる方向に成長したものが、チムニーです。

チムニーの内側はより熱水に近いため、熱水からチムニーができたばかりの時の成分を保っています。一方チムニーの外側は海水と接しているため、海水パワーにより錆びてしまっていて、できたばかりの頃とは異なる成分で構成されています。ということで、チムニーを輪切りにして見てやると、中心から外側に向かって色や質感が変化している様子を発見することができます。これに沿って少しずつチムニーを削り取っていき、様々な分析をすることで、チムニーの歴史を知ることができます。チムニーの歴史を知ることは、チムニーを作った熱水の噴出の歴史を知ることにつながり、地球の歴史を知ることにつながります。細かい話をし出すとキリがないですが、今回乗船している広島大の高橋嘉夫教授(ヨシオさん)はそんなチムニーに萌え萌えの様子で、特にきれいな円筒状のチムニーの採取を心待ちにしていました。

9/17のHAKUREIサイトへの潜航で発見した赤いチムニーを、我々は赤バットチムニーと名付け、ヨシオさんを含む乗船研究者にとって最高の研究材料としてマークしていました。今日の潜航では赤バットチムニーの採取を目標にして、実際に赤バットをポッキリと折って採取することに成功しました。船上で赤バットを観察したところ、きれいな同心円状の構造が見え、中心には熱水の通り道である直径1cmほどの穴が下から上まで通っていました。「いやー、いいよー、すごいねー」とヨシオさんは感動しきりで、「これを使ったらあんな研究やこんな研究が展開できるね」というようなことを語りあいました。

「社長も課長も包丁も盲腸も同じ」
常に仕事の本質を見つめた本田宗一郎の独特の言い回しです。研究者も、所属機関では「教授」やら「ポストドクトラル研究員」やら何やらと肩書きが与えられていますが、科学という真理の前では互いにまったく平等です。教授から学生までが寝食をともにし、調査をしながら科学を熱く語りあえる研究船は、最高の研究環境であり、最高の教育環境です。より多くの研究者や学生さんに乗船してもらって、船を使って地球を研究する楽しさを実感してもらいたいです


ハイパードルフィンコントロールルームの様子。
運航に支障のないタイミングで運航長席の乗っ取りに成功した寺沢くん。
手前で決め顔をしているのがマニピュレーター・マイスターのサカキさん。