「しんかい6500」研究航海 YK14-13 レポート
マリアナ海溝の調査、後半
2014/07/16 - 07/28
- 7月16日
- 事前調査後、「しんかい6500」潜航調査(第1401回)
海域移動 - 7月17日
- 事前調査後、「しんかい6500」潜航調査(第1402回)
調査海域で漂泊 - 7月18日
- 「しんかい6500」潜航調査(第1403回)
事前調査 - 7月19日
- 「しんかい6500」潜航調査(第1404回)
海域移動 - 7月20日
- 事前調査及びMBES広域地形調査
- 7月21日
- 海況不良のため、潜航中止
- 7月22日
- 海況不良のため、潜航中止
MBES広域地形調査 - 7月23日
- 横須賀港向け回航(グアム島北西沖)
- 7月24日
- 横須賀港向け回航(マリアナ諸島西方沖)
- 7月25日
- 横須賀港向け回航(南硫黄島南西方沖)
船内セミナー - 7月26日
- 横須賀港向け回航(小笠原群島西方沖)
- 7月27日
- 横須賀港向け回航(青ヶ島西方沖)
- 7月28日
- 横須賀港入港
『台風、熱帯低気圧の狭間で潜航調査』
前回のレポートでは台風や熱帯低気圧の影響が無い場所を選んで潜航調査を行っていることを報告しました。調査海域ではその後も台風10号が発生したり熱帯低気圧が調査海域の近くで停滞したりと海況の判断が難しい状況が続きましたが合計8回の潜航調査(予定は9潜航)を実施しました。8回の潜航調査のうち5回は、おもにマリアナ海溝チャレンジャー海淵より西側の未踏査部分で調査を行いました。ここでの調査は研究者から出来るだけ広い範囲の地質調査と熱水域や湧水域の探索を行いたいと要望がありました。そこで、「しんかい6500」の船首側にある二つのサンプルバスケットに岩石仕分け用の仕切りや海水中のいろいろな成分を計測するマルチセンサー、採水器などを搭載してどの潜航も、深度差で約1,000mの崖登り、水平移動距離では3,000m以上、航走して試料を採取しました。ROVではまねのできない、まさにケーブルの無い有人潜水船ならではのアクティブな調査でした。
残り3回の潜航調査は台風10号と熱帯低気圧の影響で未踏査海域での海況が厳しくなってきたため海域を変更してチャレンジャー海淵の東側で調査を行いました。
『テスト中の機材』
「しんかい6500」は3年前に推進操縦装置などを大改造しましたがその後も少しずつ改良しています。今年度は以下の機器を潜航調査で搭載し、いろいろな海域でテストを行っています。
「14kHz帯同期ピンガー」
昨年度末の中間検査工事で母船「よこすか」に従来の7kHz帯音響測位装置に加えて他のJAMSTEC船舶と同じ14kHz帯音響測位装置が搭載されました。これに対応するため「しんかい6500」が測位用に2本搭載している「同期ピンガー」(音響信号発生装置)の1本を14kHz帯用に交換して4月からの調査航海で使用して、いろいろな海域で測位状況を確認しています。2周波数帯に対応できることになり、より安全性が高まりました。
「船外用デジタルスチルカメラ」
今航海から「しんかい6500」の船外の旋回俯仰装置にテレビカメラと一緒に取り付けられている「デジタルスチルカメラ」を運航チームや陸上の技術スタッフなどの水中機器を整備・運用する側とカメラメーカーなどが協力して製作したカメラに交換しました。従来型と比較すると撮影画素数と記録容量が増えたので写真の解像度が向上し、撮影できる枚数も増えました。しかし、水中での細かい設定や調整方法は確立されていません。このカメラは「しんかい6500」だけでなく「ハイパードルフィン」「かいこう7000Ⅱ」にも同じものが搭載されます。いろいろな潜水機種、さまざまな状況で使用してカメラの調整方法や研究者からの意見を関係者が共有、改良することでよりよい海底写真の撮影を目指します。
「LEDライト」
「しんかい6500」の水中投光器(水中ライト)は前方を照らすだけではなくTVカメラなどの撮影用ライトも兼ねています。現在使用しているメタルハライドライトと呼ばれる水中投光器は製造が中止となりました。数年間は部品供給されますが、今から代替の水中投光器を探す必要があります。今回は従来型メタルハライドライトの400ワット水中投光器と新しく開発されたLEDライトのフラット型400ワットの比較を行いました。フラット型LEDライトは従来型メタルハライドライトにくらべ照射範囲が広く一灯でも広範囲を均一に明るく照らせるようですが、光源としては白色が強調されるように感じました。
- 7月16日No.1401DIVE
- 潜航海域:マリアナトラフ西端
- 観察者:渡部 裕美(海洋研究開発機構)
- 船長:佐々木 義高
- 船長補佐:鈴木 啓吾
- 7月17日No.1402DIVE
- 潜航海域:南部マリアナ前弧
- 観察者:今野 祐多(海洋研究開発機構)
- 船長:齊藤 文誉
- 船長補佐:小椋 徹也
- 7月18日No.1403DIVE
- 潜航海域:南部マリアナ前弧
- 観察者:奥村 知世(海洋研究開発機構)
- 船長:植木 博文
- 船長補佐:鈴木 啓吾
- 7月19日No.1404DIVE
- 潜航海域:南部マリアナ前弧
- 観察者:小原 泰彦(海上保安庁海洋情報部)
- 船長:飯嶋 一樹
- 船長補佐:田山 雄大
佐々木 義高(運航チーム副司令)
マリアナ海溝へ出発
2014/07/07 - 07/15
- 7月7日
- 横須賀港出港
マリアナ海溝向け回航開始 - 7月8日
- マリアナ海溝向け回航(小笠原諸島北方沖)
- 7月9日
- マリアナ海溝向け回航(南硫黄島東方沖)
- 7月10日
- マリアナ海溝向け回航(マリアナ諸島西方沖)
- 7月11日
- マリアナ海溝向け回航(グアム島北西沖)
操練(総端艇部署・防火・防水) - 7月12日
- マリアナ海溝調査海域到着
事前調査後、「しんかい6500」潜航調査(第1397回)
夜間、事前調査及びMBES広域地形調査 - 7月13日
- 「しんかい6500」潜航調査(第1398回)
夜間、MBES広域地形調査 - 7月14日
- 「しんかい6500」潜航調査(第1399回)
夜間、MBES広域地形調査 - 7月15日
- 「しんかい6500」潜航調査(第1400回)
夜間、MBES広域地形調査
『マリアナ海溝の西側部分の調査』
7月7日、「よこすか」は東京の真南約2,900㎞にある南部マリアナ前弧・背弧(マリアナ海溝の西側部分)の調査を行うため出港しました。グアム島の南西側にあたる南部マリアナ前弧では最近の調査により地質・生物ついて次第に明らかにされてきています。しかし、南部マリアナ前弧・背弧でチャレンジャー海淵より西側部分と、その周辺での詳細な調査はまだ行われていません。今回の潜航調査では、この未調査部分の地質を明らかにし、同時に熱水系・湧水系の存在を探索し、東経142度以西の南部マリアナ前弧・背弧の地質・生物学的な特徴の理解を目指します。
『グアム島の東側は台風発生場所』
今航海は台風8号が太平洋を日本に向かって北上しているときに横須賀港を出航いたしました。東京湾を出て真南に進むのが海域までの最短コースなのですが、台風8号の影響で海況不良が予想されるため出港後は南東に向け、海況が穏やかになった時点で海域に向かうコースラインとしました 。調査海域付近は海水温度が高く、特にグアム島東方の海域では、毎年たくさんの台風が発生しています。
回航を開始して、翌日には台風8号の影響が海域に無いことが判明しましたが、気象衛星の画像をみるとグアム島の東側では雲が渦を巻き始めていました。この雲の渦は日を追うごとに密度が増して渦がはっきりしてきて、海域到着の7月12日は台風9号になってしまいました。
今回は9回の潜航調査を予定していますがグアム島の東側で発達する台風や熱帯低気圧の進路によっては調査に多大な影響を受けそうです。ただし、この付近では台風の速度がまだ遅いため、台風の進路の先回りをしたり、通り過ぎた後の海域に移動したりすることもできます。
このため、毎日、最新の気象情報をもとに船長、首席研究者、司令が調査計画を更新しています。
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7月12日 No.1397DIVE
- 潜航海域:マリアナ海溝西端
- 観察者:小原 泰彦(海上保安庁海洋情報部)
- 船長:齊藤 文誉
- 船長補佐:田山 雄大
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7月13日 No.1398DIVE
- 潜航海域:マリアナ海溝西端
- 観察者:Pujana Ignacio (University of Texas at Dallas)
- 船長:植木 博文
- 船長補佐:片桐 昌弥
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7月14日 No.1399DIVE
- 潜航海域:マリアナ海溝西方
- 観察者:奥村 知世(JAMSTEC)
- 船長:飯嶋 一樹
- 船長補佐:小椋 徹也
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7月15日 No.1400DIVE
- 潜航海域:マリアナトラフ西端
- 観察者:石井 輝秋(深田地質研究所)
- 船長:松本 恵太
- 船長補佐:片桐 昌弥
佐々木 義高(運航チーム副司令)