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スタッフ

運航チームと三菱重工業チーム

「しんかい6500」は1989年の完成以来、世界一の潜航深度を誇る潜水調査船として活躍してきました。残念ながら2012年6月、中国の潜水船「蛟竜号(Jiaolong)」に潜航深度世界一の称号は譲りましたが、調査能力、信頼性そして安全性は未だ世界一の潜水船であることに変わりはありません。2013年1月から2回目の世界周航潜航調査「QUELLE 2013」(クヴェレ2013)に旅立ちます。世界の研究者が「しんかい6500」での潜航調査を待ち望んでいます。

「しんかい6500」は誕生から約22年間、大きな事故が無く、マイナーなトラブルだけで1,300回を超える潜航を積み重ねたことは、現場で頑張るオペレーター達のたゆまぬ努力だけでなく、建造メーカーである三菱重工業株式会社(以下、三菱重工)から毎年派遣される整備のプロフェッショナル達と「しんかい6500」運航チームの共同作業で実施する整備工事の賜物に他ありません。

三菱重工業株式会社 神戸造船所

このコーナーでは三菱重工を代表して、「しんかい6500」に長年携わってきた下門文雄さん、大森邦彦さんにインタビューにお答え頂きました。

メインスラスタの作動確認をする下門さんと大森さん

下門さんはプロフィールを見てもお分かりの通り、建造から携わった技術者で引き渡し前の三菱重工による試験潜航ではパイロットも経験しています。1994年「しんかい6500」が最初の長期航海「MODE' 94」で大西洋と東太平洋に赴いた時、機器のトラブルを懸念したJAMSTECは三菱重工に無理を言って下門さんを派遣して頂きました。産声を上げた時から面倒を見てもらっているまさに主治医である下門さんが寄り添った「しんかい6500」が、当時予定した60回の潜航を一度のトラブルもなく完遂出来たことは、機械と人との繋がり以上のものを感じます。

大森さんの「しんかい6500」に対する思いもまた熱く、かつてどうしても原因のわからない油漏れが続いていた時、いつ何があっても良いように大森さんは疑わしい部分の部品を常にカバンにしのばせて毎日通勤、事実ある夜に修理要請の電話を受けた大森さんは翌朝にはその部品とともに寄港地に現れ、その迅速な対応に関係者一同感激しました。

今年もオーバーホール後の「しんかい6500」が無事6,500mの最大潜航深度での試験を終えました。準備は整いました。いよいよ「QUELLE 2013」で最初の調査海域であるインド洋向け出港です。

2012年12月

作業の様子作業の様子

下門 文雄(シモカド フミオ)

下門 文雄
所属
三菱重工業(株)神戸造船所
船舶・海洋事業本部 神戸船海工作部 電装課
趣味
ドライブ、アウトドア、家庭菜園
普段の仕事について
特殊船関係の電気一般の工事担当業務
JAMSTEC関係では「しんかい6500」、「かいこう」ランチャー
JAMSTECの整備場(定期・中間検査工事)での仕事内容について
電気工事担当で工程、品質及び安全管理を行っています。
仕事の流れは工事仕様書に基づく見積、取り外した機器を各メーカーへ発送、各メーカーでの完成検査の日程調整、整備済機器受領、機器取り付け、電線布設、接続、通電、各機器の作動確認調整等の工程管理、陸上作動検査、母船に搭載、沈降試験、試験潜航 (1,000m 3,000m 6,500m)、完工となります。
「しんかい6500」に関わるようになった経緯
1972年三菱重工業(株)神戸造船所に入社、一年間実習生として訓練を受け、一般商船の電気艤装関係の仕事に従事していましたが、1983年頃から特殊船に興味を持ち、上司に深海機器関係の仕事をしたいと申し入れ、特殊船関係の電気技術職に変わり、1987 年より「しんかい6500」の電気担当者として今日まで携わってきました。
平成元年の試験潜航ではコパイロットとして、潜水船に乗船し各試験を実施、最大深度の試験潜航(6,527m)時もコパイロットとして乗船しました。
JAMSTECに引き渡し後も毎年の整備工事には電気担当者として整備に携わっています。
「しんかい6500」の開発時、苦労したこと
水圧に対する各機器・装置の作動確認試験では設計の関係者、上司、同僚とともに大変苦労しました。試験では、潜航深度の1.5倍の圧力をかけます。その圧力は驚異です。
「しんかい6500」の開発時、潜航したときの感想
水槽試験、ドック試験、数百メートル、5,000m、最大試験潜航の6,527mと10回程度潜航しましたが、いずれも15分毎の各機器の計測記録があったため、あっという間に時間が過ぎた記憶しか残っていませんが、印象に残っているのは最大試験潜航時(6,527m)、海底に記念ポールを立てた後、当時のチーフパイロットがこっそり持ち込んだ小瓶の赤ワインで世界最大潜航記録達成の祝杯を乗船者三名であげたことは二十数年たった今でもはっきり記憶に残っています。
この仕事をやっていて良かったと思うこと
潜水船の工事に関わる多くの皆さん(JAMSTEC、運航チーム、各機器・装置の関連業者、三菱他部課の関係者)とのつながりによる多種多様な情報等を得たことは私の人生の宝物となっていると感じます。
また、毎年同じ様な点検整備を行っていますが、一年一年新たな事象等により学習することが多々あると実感します。
この仕事をやっていて大変だったこと
工事期間中会社(神戸)を離れ出張工事となるため、家族(妻、子供)には大変苦労を掛けたと思います。
亭主元気で留守がいい!!かもしれませんが、子供が小、中学生の頃は学校行事で毎週日曜日に自宅に帰った事もありました。(横須賀⇔大阪の往復)
仕事では工期を予定通り進めるため夜遅くまで作業したり、休日なしで仕事をした事など今となってはいい思い出でとなっています。
朝礼後、一日の流れを確認する下門さん
自分にとって「しんかい6500」とは?
開発当時から今日まで点検整備に携わっているため、家族の一員のような気持ちで「しんかい6500」と接しています。
朝潜航して、何事もなく無事(トラブルなし)で浮上、揚収(帰宅)してほしい気持ちです。
後継者にひとこと
引き渡し後24年が過ぎ各機器・装置が老朽化してきていますので、細かい所まで気にかけ、点検整備を進めていただきたい。
また、新規に機器を換装するにも予算だけを考慮せず、常に世界一の潜水船に搭載する機器だと感じていただき、ベストのものに換装してもらいたい。
次世代機への夢
ワンマンパイロットはもちろん、母船から直接着水、揚収できるシステム。(吊り索方式なし)

大森 邦彦(オオモリ クニヒコ)

大森 邦彦
所属
三菱重工業(株)神戸造船所
船舶・海洋事業本部 神戸船海工作部 艦艇課
趣味
休日、六甲山系を散策すること。
普段の仕事について
潜水機種(しんかい・ROV)の工事工程・品質管理
JAMSTEC関連では、2012年「しんかい2000」を分解し、「新江ノ島水族館」の展示場への移設に携わった。
JAMSTECの整備場(定期・中間検査工事)での仕事内容について
検査期間は、定期検査95日・中間検査90日と海上試験約10日間が基準となります。
前期:機器の取外し分解15日(JAMSTEC)、中期:整備検査40日(神戸)、後期:取付・復旧35日(JAMSTEC)を基準に計画しております。

前期:油圧・空気・海水・水銀・船体構造の分解、機器取り外し、メーカ整備品を各メーカに送達します。
中期:神戸に持帰り神戸で分解・清掃・手入れ・組立・検査を行います。(メーカー整備品はメーカー)
後期:潜水船に整備機器を取り付け・配管・検査の後、作動調整・試験を行います。
「しんかい6500」に関わるようになった経緯
次期潜水船を建造するとき、三菱試験船長として勤務できることを目的として、指名されました。
その夢かなわず、第1回目定年退職しました。
この仕事をやっていて良かったと思うこと
潜水機種の最先端技術を学べたこと。
この仕事をやっていて大変だったこと
空中では、油漏れしていないのに、水中で油漏れ。油圧ポンプが停止する程の量が漏れているのに痕跡が残らない。油漏れ場所を特定するために大変苦労した経験があります。
覗き窓の耐圧試験を行う大森さん
自分にとって「しんかい6500」とは?
次期潜水船の勉強のためと思っておりましたが夢かなわず。
後継者にひとこと
常に技術は進歩する。今までどおりの考えは捨てること。
新しいものにチャレンジし、積極進取で何事にも取組むこと。
次世代機への夢
今以上に、資源調査・生物観察・地震調査・地質調査等々海底のあらゆる未知の世界が調査ができ、今以上に、成果が得られるような潜水船を建造して貰いたい。