「しんかい6500」研究航海 YK16-01 レポート
2016/4/8 - 4/27
『調査へ出航!』
今回の調査は海底に眠る鉱物資源が対象です。この資源は2010年、「しんかい6500」を使って海底の若い火山(プチスポット)を調査していたところ偶然発見されました。
近年より高性能な音響観測装置が船に装備されたことで底質や海底下まで画像化できるようになり、鉱物資源が観測装置にどう映るかといった研究も活発になされました。こうした努力により、「しんかい6500」で発見された資源もどれくらいの量、拡がりがあるかを推し量ることができるようになってきました。そして今回、研究による推測が合っているか確認するため、また鉱石の実物を採取して詳しく分析するためにもう一度「しんかい6500」で潜って調べることになりました。
今回の潜航調査に追加搭載する観測機材(ペイロード)は内輪で「石取りセット」と呼んでいるものです。「しんかい6500」はこれまで20数年にわたりさまざまな調査に使われてきました。より効率よく作業できるよう機材にも試行錯誤が繰り返されていますが、「石取りセット」はもっとも古くからある例の一つです。いかにもシンプルで、採取する石をできるだけたくさん仕分けできるよう四角い籠(サンプルバスケット)をいくつもに分割した形になっています。今回はその他に、音波を発射して海底下の層の厚みを測る装置(サブボトムプロファイラー)や採泥器なども搭載しました。
『潜航が始まる』
第1459潜航から始まりました。潜る場所は2010年の発見があった所です。ここには見渡す限りのマンガンノジュールがあることが分かっており、かつ海上から音響調査のデータが得られています。今回の潜航ではマンガンノジュールが密なところから疎となるところまでを実地確認しました。今回の結果を音響調査の結果と突き合わせることで、次からは音響調査だけで資源の分布が推定できるようになります。
最初の潜航者は首席研究者の町田さん、筆者もパイロットとして潜ることになりました。潜航調査ではあるはずの物が見つけられないことが往々にしてあります。最初に海底を見る瞬間、果たして底にはマンガンがあるのか否か。ありました。一面のノジュール畑といった印象です。母船上で見守る人たちからも歓声が上がりました。
海底での調査の方法は、まず1辺50cmの四角い枠(コデラート)を海底に置き範囲内にいくつノジュールがあるか写真に撮ります。そしてノジュールを採取、とにかくたくさん採ります。また取っ手の着いた筒(採泥器)を海底に突き刺し、層を崩さないよう泥を採取します。この泥もレアアースが高濃度に含まれているそうです。層を見ることで堆積の様子を推測でき、ノジュールや高濃度レアアースの成因を考えることができるようになります。潜水船を進めて所々で詳細観察と採取を行いましたが、町田さんの言葉通りの景色が広がってゆきます。最後に泥が目立つようになったところで調査は終了しました。
こうして町田さんの仮説どおり、音響調査のデータを実地調査で裏付けることができました。
『さらに調査はつづく』
今回の調査航海は何人もの研究者が乗船しました。それぞれに専門と役割分担があり、全体をまとめる立場が首席研究者です。潜水船の潜航は1回につき研究者1名しか乗れませんので、潜航ごとの調査内容は研究者の専門に応じます。
また調査は潜航だけではありません。この航海では音響測深器やサブボトムプロファイラーなどなど母船に装備されている装置や、海底設置型の流向流速計(ADCP)も用いられました。音響測深器(マルチビームエコーサウンダー)は船底から海底へ扇形に音を発射し、各方向からの反射の強さ(≒海底の硬さ)と掛かった時間(≒距離)を同時計測する装置です。船を前進させながら前へ前へと扇形を重ねてゆくことで海底地形図を作成することができます。流向流速計も音響式で、ドップラー効果を利用しています。装置に浮きと錘をつけて船から投入すると装置は海中に立った状態で静止します。そして装置は上下に音を発射し、海中の塵にぶつかった音を精密に計測します。発射した音と計測した音のわずかな音程の差とその方向から、塵がどちらへどれくらいの速さで動いているか計算できます。こうした塵は周囲の水と一体に流れていますので、すなわち流向と流速が得られます。
調査航海は貴重なので、一度に多面的なデータやサンプルが集められるようさまざまは方法を用いて研究者、母船乗組員、潜水船運航要員が一丸となって作業しています。
『初潜航の習わし』
潜水調査船業界(とても狭いですが)の習わしで、初めて潜った人は祝福されます。方法は「水を掛ける」というもので、バケツに汲んだ水を耐圧殻内から出てきた潜航者に浴びせ掛けます。今回の潜航調査は8回中7回が初めての潜航者でした。
『帰りの航海』
調査が終わり帰途につきます。海況不良による潜航延期が何度かありましたが予定された事がらはすべて実施することができました。自然が相手なので、計画には必ず余裕が見込まれています。今回も予備日が2日ありましたが、ちょうどこれを使い切る形で計画が達成できました。時には運不運もあり、台風が立て続けに発生したりするとまったく調査ができないこともあります。そうしたケースも見渡すと、今回は幸いと言えるでしょう。
次は8月まで「しんかい6500」の出番はありません。今年は調査船の入れ替わりがあったので船団の延べ調査日数が少なく予定が変則的になっていて、「しんかい6500」の稼働日数も少なくなっています。母船「よこすか」はその間も様々な調査に使われ休む暇はありません。母船に積む設備や装置は調査ごとに替えられるようになっており、「しんかい6500」もそうした物のひとつなのです。
8月の「しんかい6500」が使われる航海は沖縄近海の熱水鉱床での調査です。海況に恵まれますよう、皆様もご祈念お願いいたします。
【潜航情報】
-
4月12日 No.1459DIVE
- 潜航海域:南鳥島周辺 SiteB
- 観察者:町田 嗣樹(JAMSTEC)
- 船長:小椋 徹也
- 船長補佐:鈴木 啓吾
-
4月13日 No.1460DIVE
- 潜航海域:南鳥島周辺 SiteA
- 観察者:飯島 耕一(JAMSTEC)
- 船長:植木 博文
- 船長補佐:千田 要介
-
4月15日 No.1461DIVE
- 潜航海域:南鳥島周辺 SiteC
- 観察者:金子 純二(JAMSTEC)
- 船長:松本 恵太
- 船長補佐:石川 暁久
-
4月16日 No.1462DIVE
- 潜航海域:南鳥島周辺 SiteD
- 観察者:安川 和孝(東京大学)
- 船長:大西 琢磨
- 船長補佐:鈴木 啓吾
-
4月17日 No.1463DIVE
- 潜航海域:南鳥島周辺 SiteD
- 観察者:高谷 雄太郎(JAMSTEC)
- 船長:小椋 徹也
- 船長補佐:千田 要介
-
4月20日 No.1464DIVE
- 潜航海域:南鳥島周辺 SiteC
- 観察者:大田 隼一郎(JAMSTEC)
- 船長:植木 博文
- 船長補佐:大西 琢磨
-
4月21日 No.1465DIVE
- 潜航海域:南鳥島周辺 SiteC
- 観察者:藤永 公一郎(東京大学)
- 船長:松本 恵太
- 船長補佐:鈴木 啓吾
-
4月22日 No.1466DIVE
- 潜航海域:南鳥島周辺 SiteA
- 観察者:野崎 達生(JAMSTEC)
- 船長:大西 琢磨
- 船長補佐:千田 要介
【航海情報】
- 4月8日
- 京浜港東京区晴海ふ頭 出港
南鳥島周辺向け回航 - 4月11日
- 南鳥島周辺 調査海域到着
ADCP係留系の設置
事前調査及びMBES/SBP広域地形調査
プロトン磁力計曳航調査 - 4月12日
- 南鳥島周辺 SiteB 調査潜航 #1459潜航
南鳥島周辺 SiteA向け 回航
事前調査及びMBES/SBP広域地形調査 - 4月13日
- 南鳥島周辺 SiteA 調査潜航 #1460潜航
南鳥島周辺 SiteC向け 回航
事前調査及びMBES/SBP広域地形調査
プロトン磁力計曳航調査 - 4月14日
- 海況不良により調査潜航取り止め
ADCP係留系の設置
MBES/SBP広域地形調査
プロトン磁力計曳航調査 - 4月15日
- 南鳥島周辺 SiteC 調査潜航 #1461潜航
事前調査及びMBES/SBP広域地形調査
プロトン磁力計曳航調査 - 4月16日
- 南鳥島周辺 SiteD 調査潜航 #1462潜航
MBES/SBP広域地形調査
プロトン磁力計曳航調査 - 4月17日
- 南鳥島周辺 SiteD 調査潜航 #1463潜航
MBES/SBP広域地形調査
プロトン磁力計曳航調査 - 4月18日
- 海況不良により調査潜航取り止め
MBES/SBP広域地形調査
プロトン磁力計曳航調査 - 4月19日
- 海況不良により調査潜航取り止め
事前調査及びMBES/SBP広域地形調査
プロトン磁力計曳航調査 - 4月20日
- 南鳥島周辺 SiteC 調査潜航 #1464潜航
MBES/SBP広域地形調査
プロトン磁力計曳航調査 - 4月21日
- 南鳥島周辺 SiteC 調査潜航 #1465潜航
事前調査及びMBES/SBP広域地形調査
プロトン磁力計曳航調査 - 4月22日
- 南鳥島周辺 SiteA 調査潜航 #1466潜航
MBES/SBP広域地形調査
プロトン磁力計曳航調査 - 4月23日
- YKDTウインチケーブルフリーフォール(F.F.)実施海域向け回航
小椋 徹也(運航チーム潜航長)