更新日:2024/01/26

JPCZとブロッキングとの関係

JPCZブロッキングはスケールの大きく隔たった現象です(図1):
・JPCZ (日本海寒帯気団収束帯):東西に1000 kmスケールのメソスケール現象で日本海の中・南部で発生する現象。 1日〜数日程度停滞する対流圏下層での風の収束帯で、上昇流に伴い対流性の降水(降雪)を伴う。
・ブロッキング:東西に5000 kmスケールの準惑星規模の現象で、偏西風帯で発生する現象。1週間程度以上持続する対流圏上層での高気圧あるいは高気圧とその南側の低気圧のペアで、偏西風を大きく蛇行させる。
JPCZとブロッキングは時空間スケールが全く異なる現象ですが、いくつか共通点があります。それを挙げると、(1)豪雪や寒波といった通常の気象・気候状態と異なる極端気象や異常気象(天候)の要因となること、(2)地理的にほぼ固定された場所に発生する(しやすい)こと、があります。これらの共通点は、JPCZとブロッキングに何らかの関係があるのではないかと思わせます。

図1:JPCZとブロッキングの対比。(左)2018年2月5日15時でのJPCZ。高度925 hPa (約1 km)で日本海中〜南部で風の収束(負の発散[10–4 s–1])帯が見られる。色付きの等値線が標高線を示し、寒色ほど高度が高い。(右)2018年2月1日21時での北半球での高度300 hPa (約10 km)でのジオポテンシャル高度。暖色ほど高圧部で、東シベリアの上空にブロッキング高気圧、その南側に寒色のブロッキング低気圧が存在している。左図は右図の日本付近の拡大図となる。

JPCZが発生する様子を大まかに示すと、シベリアからの寒気が日本に向かって吹き付けます。東アジア冬季特有の北西季節風(冬季アジアモンスーン)の強まりを意味します。このシベリアから日本に向かう北西風は、朝鮮半島北部の長白山脈(白頭山)を迂回し、日本海で合流します。この合流域で発生する風の収束帯がJPCZとなります。つまり、JPCZの発生は冬季アジアモンスーンの強まりと関係しています。

これまでいくつかの研究で、東シベリアで発生するブロッキング(=東シベリアブロッキング)が日本を含む冬季アジアモンスーンの強まりと関係していることが示されています。ブロッキングが発生することで東アジアに強い寒波が到来すること1)、ブロッキングが寒気の源であるシベリア高気圧を強めること2)、さらにはブロッキングが冬季アジアモンスーンを強めることで新潟での里雪や山雪が生じることが示されました3)。しかし、ブロッキングとJPCZの発生や発達に直接的な関係があるのかは不明でした。

  1. 1)Park et al. (2014)Hwang et al. (2022)
  2. 2)高谷・中村(2007)
  3. 3)山崎ほか(2019)

図2:力学的ダウンスケーリングでの領域気象モデルの3つの領域(ドメイン)。このモデルでは、全球ドメインにJRA-55再解析データを当てはめ、外部ドメインを25 km、内部ドメインを5 kmの解像度でシミュレーションした。ここでは2018年2月1日9時〜2月5日9時までの500 hPaジオポテンシャル高度(全球ドメイン)、地上気圧(外部)、地上10 m風速(内部)のアニメーションを6時間毎で表示している。

そこで私たちは、JPCZを再現(解像)可能な領域気象モデル4)を使って、ブロッキングがJPCZの発生に影響を与えるのかどうかを力学的ダウンスケーリングという手法を使って調査しました。図2に、力学的ダウンスケーリングの概念図を示します。この領域気象モデルでは、水平解像度の異なる3つの領域(ドメイン)を定義しています。最も外側の全球ドメインにJRA-55大気再解析データを当てはめていて、その内部に日本を取り囲むように2つの(外部・内部)ドメインを有しています。モデルでは、より外側のドメインから風・気温・湿度などの気象変数を内側のドメインに渡します。内側のドメインほど解像度が高くなっており、雲の立つ様子などより「現実」的な大気状態の再現が可能となります。こういった複数の時空間解像度のドメインを組み合わせた階層的シミュレーションを行うことにより、ブロッキングとJPCZのような時空間スケールの大きく異なる現象の両方を考慮することができます。この場合には全球ドメインにブロッキング、最も内側のドメインにJPCZが再現されます。

私たちは、JAMSTECのスーパーコンピューター「地球シミュレータ」(図3)を使って領域気象モデル(JMA-NHM)を動かしました。その際に、ブロッキングがJPCZに与える影響を調べために、 全球ドメインから人工的にブロッキングを取り除く実験を行いました(No-block実験)。具体的には、通常の階層的シミュレーション(標準実験)に対して、全球ドメインから外部ドメインへの気象変数の入力値からブロッキングに関係する風や温度などの変数を引き算する、という方法です。標準実験とNo-block実験を比較することで、JPCZにブロッキングが与える影響を評価することが可能です。これは、私たちが地球シミュレータを使い階層的シミュレーションを行うことで可能となった対照実験です。

  1. 4)気象庁非静力学モデル(JMA-NHM)を用いた。

図3:地球シミュレータ(ES4)の外観。

標準実験とNo-block実験のシミュレーションで再現された(内部ドメインでの)JPCZの様子を図4に示します。実際に2018年2月初旬に発生したJPCZを領域気象モデルで再現しました。東シベリアでは、1月25日くらいから2月の初めにかけてブロッキングが発生していました。標準実験とNo-block実験で、2月4日くらいから長白山脈の下流から日本列島に向かう風の収束帯(赤い陰影)が現れますが、No-block実験ではそれがかなり弱くなっています。この収束帯は標準実験では2月7日まで持続しているのに対して、No-block実験では2月6日で消滅しています。このことから、ブロッキングの存在がJPCZの発生に大きな寄与をしていることがわかりました。

図4:標準実験(左)とNo-block実験(右)での925 hPa発散風(陰影、[10–4 s–1])と風(矢印、[m s–1])のアニメーション(2018年2月3日〜2月8日)を示す。3時間毎の時間進行を示しており、パネル右上の数字YYYYMMDDHHが年月日時を表している。パネルの中央部に現れる赤色(収束風)の帯がそれぞれの実験でのJPCZである。

より詳細な調査から、ブロッキングは冬季アジアモンスーンを強化し寒気の吹き出しを強めていることがわかりました(図5)。ブロッキング(白い高・低気圧のペア)が東シベリアから北西太平洋に1週間程度停滞すると、その際に、通常シベリアから日本列島の北部を通過して太平洋へ抜けていく寒気の流れ(黒破線の矢印)を阻害して、寒気の流れを南へ押しやります(紫実線の矢印)。押しやられた寒気は長白山脈で南北に迂回して、その下流側の日本海上の合流域でJPCZが発生する、というメカニズムがわかりました。さらに、この寒気が黄海や日本海を通過する際にたくさんの熱や水蒸気を獲得している様子が見られました。これが、JPCZの対流活動を促進し、福井での豪雪を引き起こした可能性があります。

図5:東シベリアのブロッキングとJPCZの発生に関係する冬季アジアモンスーンでの寒気の流れの変化。通常の寒気の流れ(黒破線矢印)がブロッキング(白領域)で阻害されることで南にシフトし(紫実線矢印)、長白山脈で南北に迂回し、その下流で合流するところでJPCZが形成される。Yamazaki et al. (2024)のFig. 7を一部修正。

今回の研究は、まだ2018年2月のJPCZ 1事例についてのみの調査です。ブロッキングがどのくらいの頻度でJPCZの発生に影響しているか、あるいはどのくらいJPCZの強度を変えうるのか、さらに、日本海や黄海上でのより詳細な大気海洋相互作用のメカニズムなどを調査する必要があります。更に多くの事例についての調査が必要とされます。


この研究の詳細は以下の論文をご覧ください:
Yamazaki, A., S. Fukui, and S. Sugimoto, 2024: The impacts of East Siberian blocking on the development of the JPCZ. SOLA, 20, 31–38, doi:10.2151/sola.2024-005.