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砂データ:天竜川

分析データ

河川名
天竜川(てんりゅうがわ)
採取地
静岡県浜松市浜北大橋右岸側
国名
日本
採取日時
2008年 3月 27日
採取者
静岡県立磐田南高等学校、静岡県立静岡中央高等学校
分析者
眞砂英樹(海洋研究開発機構)

コメント

諏訪湖に源流を持ち、長野県から愛知県と静岡県の県境付近を通って太平洋に注ぐ、全長213 km、流域面積は5,090 km2の一級河川です。木曽山脈(中央アルプス)と赤石山脈(南アルプス)の多くの支川を合わせながら南流し、遠州平野を経て太平洋に注ぎます。急流である天竜川は、「暴れ天竜」と呼ばれ、流域にたびたび洪水をもたらしました。流域には多くの断層が走っており、急峻な地形と相まって土砂流出の多い河川として知られています。 流域の地質は多様性に富み、上流側では主として花崗岩類からなる領家(りょうけ)帯が、中~下流側では高圧変成岩からなる三波川(さんばがわ)帯や、古生代~中生代の付加体である秩父累帯や四万十累帯が分布しています。また流域には、わが国の第一級の大断層である中央構造線が走っています。中央構造線は西南日本では海溝にほぼ平行な東西方向に走っていますが、この地域では伊豆弧の本州への衝突の影響を受けて南北方向に大きく屈曲しています。

サンプル写真

天竜川の岩石

天竜川の岩石

天竜川で見られる礫は大きく3つに分類されます。

四万十累帯の岩石

白亜紀~第三紀の付加体である四万十累帯を構成する砂岩や泥岩及び、それらの中にブロックないしは帯状に取り込まれているチャートや緑色岩、石灰岩(やや少ない)です。付加体は、海溝に流れ込んだ陸源の泥や砂の一部がはぎ取られて陸側プレートの底に付加したものです。陸源の砂や泥に混じって、深海底でできた海洋地殻の一部(緑色岩、チャート、石灰岩)も一緒にはぎ取られて付加するので、付加体では量は少ないながらこれらの岩石も砂岩や泥岩に混じって産出します。

三波川(さんばがわ)変成岩類

沈み込み帯でできた広域変成岩です。付加体ができるよりももっと深い所でできたために、岩石を構成する鉱物の組み合わせは高温高圧で安定なものに変化しています。また、沈み込み帯で大きな剪断応力を受けたために、激しく変形し、片状の構造を持つようになっています。ここに挙げた3種類は同じような形成過程を経ていますが、原岩(変成作用を受ける前の岩石)が異なるために、このように違った変成岩になっています。

深成岩類

地下の深い所でゆっくりとマグマが固まってできた岩石です。上流に広く分布する白亜紀の領家花崗岩体に由来するものです。

その他の岩石
マイロナイト

断層運動によって、強い剪断応力を受けた断層岩の一種で、三波川帯と領家帯の境界に当たる中央構造線付近に由来するものです。岩石が低温条件下(< 300°C)で変形すると、鉱物がバキバキと破砕(脆性変形)し、角張った鉱物の集合体(カタクレーサイト)になりますが、高温条件下(> 300°C)では飴のように柔らかく変形(延性変形)し、マイロナイトとなります。鉱物が伸びて再結晶している様子を下の薄片写真で確認しましょう。

石英脈

既存の岩石中に熱水が通ったりすると、熱水中に溶けている元素が沈殿して脈を作ることがよくあります。この礫は、そのようにしてできた脈の一部です。

偏光顕微鏡写真

緑色片岩

元は海洋地殻の一部であった玄武岩が、大陸プレートの下に沈み込んで高温・高圧条件にさらされた結果、その温度圧力条件下で安定な鉱物組み合わせに変化した変成岩。沈み込みに伴って、激しく剪断変形を受けた結果、平べったい緑泥石や、棒状のアクチノ閃石が一定方向に配列して、面や線の構造を形成しています。

緑色片岩

左が単ニコル、右がクロスニコルの写真

マイロナイト

マイロナイトとは、断層運動によって剪断変形を受けた断層岩の一種です。高温条件下(> 300°C)では岩石は飴のように柔らかく変形(延性変形)し、マイロナイトとなります。石英は変形を受けて細粒な結晶の集合体に変化していますが、より高い強度を持つ斜長石はそのまま残っています。写真中央の斜長石は、左ずれの剪断変形を受けて半時計回りに回転しているのが見て取れます。

マイロナイト

左が単ニコル、右がクロスニコルの写真

砂の主要鉱物

砂全体試料

砂全体試料

石英、長石類が圧倒的に多くを占め、富士川と似た傾向を示します。石英は主に砂岩や花崗岩類、曹長石(カルシウムを含まない斜長石)は三波川帯の変成岩、その他の斜長石やカリ長石、雲母類は花崗岩類にそれぞれ由来するものであると考えられます。

重鉱物

重鉱物

非常に多種多様な重鉱物が産出します。最も多いのはチタン鉄鉱、次いで普通角閃石とエピドートがほぼ同程度に含まれます。チタン鉄鉱、普通角閃石、電気石、ジルコン、モナズ石等は領家帯の花崗岩類に、エピドート、アクチノ閃石、緑泥石等は三波川帯の変成岩類に、それぞれ由来する物と考えられます。クロムスピネル、カンラン石といった、カンラン岩に特徴的な鉱物が含まれますが、流域にカンラン岩(蛇紋岩)の分布は多くはありません。ヒョー越付近の御荷鉾帯の中に、多少分布域が有るので、この辺りが供給源ではないかと思われます。数は少ないながらカミングトン閃石が含まれていますが、領家帯に属する伊那山地の生田花崗岩体(長野県飯田市の北東)はカミングトン閃石を含むことが知られており、ここが供給源である可能性が高いと思われます。

年代

ジルコンのウラン - 鉛年代

ほとんどのものが、5千万年~1億年の間の年代を示します。これらは領家帯の花崗岩類に由来するものです。その他ばらばらと産出する古い年代を持つジルコンは、秩父累帯や四万十累帯の砂岩に由来する砕屑性のものであると考えられます。

天竜川のジルコンのウラン-鉛年代
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