「ちきゅう」は私たちの未来を掘っている

2015年7月に地球深部探査船「ちきゅう」は就航10周年を迎えました。これまでに「ちきゅう」は、国際深海科学掘削計画(IODP: International Ocean Discovery Program)の一環として、巨大地震発生帯掘削研究、地下生命圏掘削研究、海底鉱物資源掘削研究などを実施し、これまで誰も成し得なかった科学成果を創出して来ました。

例えば巨大地震の研究では、これまで非地震性帯と考えられていた海洋プレート沈み込み先端部で、地震性高速滑りが発生していたことを世界で初めて掘削試料から明らかにし、特に巨大津波を励起する可能性がある範囲を大きく拡げました。それにより国の防災指針にも影響を与え、科学的根拠に基づいた新たな防災計画が求められるようになりました。

また生命が存在できる限界付近まで掘削を行い、特異な能力を持った微生物群集の存在を明らかにし、その生命を実験室で培養することにも世界で初めて成功しています。その生命はなんと2,000万年前の地層に存在していたのです。まさに驚愕の生命群であり、これからさらに生命の起源や、産業への展開が期待されています。

海底鉱物資源の生成メカニズムに関しては、これまでの熱水循環系モデルを覆す、熱水溜まりの存在が指摘されています。海底で高温の熱水を噴出する場を直接掘削し、その場の環境や時系列の変化を直接計測、観測することに成功しました。将来、海底で金属鉱物の生成を人工的にコントロールすることも可能に成る日も近いかもしれません。日本発の新たな資源産業の創出も可能かもしれません。

このように「ちきゅう」が行ってきた科学掘削は、科学の最先端であると同時に、私たちの生活を一変させる可能性も秘めているのです。まだまだ人類は自分の足元である大地、そしてこの惑星(ほし)のことに関して、知らないことがたくさんあるのです。それを掘り起こし、地球の歴史に刻まれた謎の糸口を見つけ、紐解いていく。それが海洋科学掘削であり、その最も高い能力を持った掘削船が地球深部探査船「ちきゅう」なのです。

「ちきゅう」は最先端の掘削技術を擁しています。大水深、大深度、高温環境下での掘削、あるいは強い潮流環境でも掘削できる技術をこれまでに培ってきました。おそらく世界一の技術であり、そしてそれを支える技術者も、様々な経験を経て、世界一の科学掘削船を支えていると自負があります。

「ちきゅう」にとって、新たな10年がスタートしました。これからの「ちきゅう」プロジェクトは、さらに防災や資源研究、そして地下生命圏の解明に向けた研究掘削を進めると同時に、未着手 の課題であるマントル掘削を実現させるべく、国際的な協力も得つつ推進していく所存です。人類未踏の課題へのチャレンジは、そこに携わる人を育て、人類の知恵や生活を豊かにすることに通じます。そのような私たちの未来を創造していく、それが「ちきゅう」の使命なのです。多くの国民の皆さん、そして人類に貢献する科学掘削をこれからも最大限実施できるように努力してまいります。私たちと一緒に未来を創っていきましょう。「ちきゅう」とともに!

地球深部探査センター長

地球深部探査センター長
倉本 真一