地球発見 まだまだ知らない「ちきゅう」がある。

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これだ!

 地質試料の回収は,パイプ内に長さ9.5mの回収用の「コアバレル」とよばれる鉄管を降ろして行われる。仮に100m分のコアを回収する場合,1回につき9.5m掘り進め,そして,コアバレルを引き上げる。それを10回以上繰り返すことになる。
 LWDのデータから認定された断層帯は海底下720mと820mの2か所。コアバレルの上げ下げを繰り返しながらその深さに至るまでのすべての地質試料を回収するには,膨大な時間がかかる。
 そこで,目標とする深度までは地質試料を回収せず,掘りとばす作戦をとることにした。天気予報に気を配り,進捗具合から残り時間を計算した上で,適宜掘りとばしながら目標の断層帯をめざす。
 航海の終了予定日がせまり焦燥感が高まるなか,LWDデータを使って掘削のナビゲーションをしていた斎藤技術研究主幹は,毎日進捗状況を研究者たちに報告していた。
 ある深度まで進んだところで,硬い地層に当たったと聞き,斎藤技術研究主幹は,「これだ!」と思ったという。実はLWDのデータから,粘土層の直上に,硬い地層があることが想定されていたのだ

LWDのデータから目標の断層を想定する


プレート境界から断層試料の回収に成功

 ドリルビットが粘土層へ到達したと判断した斎藤技術研究主幹は,ここで一つの提案をした。回収率をあげるために数m刻みで掘削しようというのである。
 断層帯の掘削では地質試料の回収率が40%を下回ることが多い。この割合は9.5mおきに掘削しても2mでもかわらない。そのため,小刻みで掘削した方が,目標である断層帯を回収できる可能性は高い。しかし,当然のことながら「数m間隔で刻んで掘る」という方法は時間がかかる。
 「絶対に断層の地質試料を回収する。その意思が決断を後押ししました」と,氏家准教授は話す。数m間隔の掘削を行うと決まったのだ。
 5月21日。船上に17本目の地質試料があがった。上がってきたサンプルを見て,乗船研究者は歓喜の声をあげた。試料を見た氏家准教授は次のように話す。「岩石が細かく剪断されていてグチャグチャになっていました。一目見て,断層帯とわかりました」。断層帯の上の地層は砂や細かい粒子が堆積して固化したものである。地震時に断層として地層がずれるとき,固化した地層は破壊され,グチャグチャに剪断される。それは,地上の地層で見る事のできる断層帯のイメージと同じだった。
 「待ちに待った時でした。こんな大水深の,さらに深い地層からサンプルを回収できたということ,それが当初の目標だったプレート境界からのものであったということに興奮しました」とMori教授は話す。
 その後,JFASTのもう一つの目的であった温度計の設置は,7月に再チャレンジが決定した。巨大地震を理解するためには摩擦熱の現場データを取り逃すわけにはいかないと,JFASTに関わる全ての人の強い意思がある。

≫「第三回 JFAST2:震源域への温度計設置を成し遂げた」へ続く


採取されたプレート境界部分のコア