第13回となるSand for Students(略してS4S)野外実習@相模川を開催しました。今回は、神奈川県高校教科研究会・理科部会との共催として高校地学の研修会として行われました。
授業概要
- 開催日
- 2010年 3月 26日
- 試料採取場所
- 相模川河川敷(神奈川県相模原市)
- 参加者
- 高等学校理科教諭
- 共催
- 神奈川県高校教科研究会・理科部会
海洋研究開発機構(JAMSTEC)
統合国際深海掘削計画(IODP) - 協力
- 相模原市立博物館
神奈川県立生命の星・地球博物館 - 講師・スタッフ
- 小尾 靖(神奈川県立相武台高等学校・相模原青陵高等学校)
高島 清行、相原 延光(神奈川県立西湘高等学校)
田中 芳信(川崎市立橘高等学校(定時制))
河尻 清和(相模原市博物館)
平田 大二、石浜 佐栄子(神奈川県立生命の星・地球博物館)
小俣 珠乃(海洋研究開発機構 地球深部探査センター)
レポート
野外実習

集合場所の海老名駅から実習場所までの移動中、バスの窓から相模川の河岸段丘が見えました。相模川の西側には、下位から陽原段丘、田名原段丘、相模原段丘が広がっています。

実習場所の相模川自然の村公園に到着し、野外実習がはじまりました。

講師の河尻博士から相模川の流域、流域の地質の説明がありました。小雨が降ってきましたが、皆、小雨はほとんど気にならない様子です。

河川敷に見られる岩石は、上流の岩体から削り取られて、河の流れに乗って運ばれてきています。ということは、基本的には流域の地質を反映しています。
ここで見られる岩石の種類は実習場所の上流域の地質を反映して、大きく、富士山起源、関東山地起源、丹沢山地起源、山間部の段丘および相模原大地起源の4種類に分けられました。説明をきいて、参加者も早速岩石観察を始めます。

丹沢山地起源の岩石の多くは緑色の凝灰岩です。凝灰岩は、火山から噴出した火山灰などからできた岩石です。この緑色の凝灰岩は、グリーンタフと呼ばれ、日本列島の各地で見ることができます。富士山起源の岩石は黒っぽく、軽石のようにたくさんの孔があいているのが特徴です。河口湖畔などでもよく見られます。関東山地起源の岩石は、古い岩石が多く、チャート、千枚岩、メランジェと言われる、複数の岩石が混ざったような岩石等です。相模原大地起源の岩石は見分けることが以外に難しいですが、比較的新しい岩石なので、砂粒が集まってできたような岩石(砂岩)で変成の少ないものなどが相当しています。
写真の岩石は下見時に撮影したものを使用しています。

岩石の観察を一通り行った後、今度は砂の観察を行います。比較的比重の重い鉱物は、量が少なく、そのままでは観察しにくいので、椀掛けを行い濃集させて観察を行います。椀掛けを行うと、磁鉄鉱やかんらん石などが観察しやすくなってきました。ルーペを使って、観察を行います。

一通り椀掛けと砂の観察を終えて、午前の野外実習は終了です。
屋内実習

屋内実習では、まず、午前中に採取した砂を実体顕微鏡で観察します。

ルーペよりも倍率が高いので、より鉱物の特徴がわかります。場所によっては、鉱物の観察方法など、早速議論が始まります。

採取した砂試料をすぐに観察したい人のために、スミアスライド作成も行いました。

椀掛けして集まった重鉱物では、なにが見えるでしょうか?ここでは、ガーネットが見られ、ガーネット探しに夢中になる生徒がちらほら・・・。他の生徒達は片付けを行います。野外実習はここまでですが、まだ高校に戻って鉱物の顕微鏡観察がまっています。あともう少し、がんばろう!

観察用の薄片を作るのは難しくて大変ですが、このスミアスライド作成は初心者でも作ることができ、なかなか好評です。

すでに準備してあった薄片の観察も始まり、参加者も顕微鏡での観察に夢中になっています。顕微鏡の接眼レンズにデジタルカメラのレンズを近づけて、オートフォーカスで撮影すると、なんと観察中の薄片を撮影することができます!顕微鏡の撮影用設備がなくても、このように顕微鏡観察中の薄片撮影を行うことができます。

読者の皆さんも試してみるときは、撮影時にはレンズを傷つけないように注意しながら行いましょう。

顕微鏡観察が中盤にさしかかった所で、相模湾海底の掘削試料(コア)の観察を行いました。存在を知っているけれど、実際に見る機会は限られている海底掘削試料です。海底の掘削試料は陸地で観察する地層と比較して、風化が少なく、化石を始めとする堆積物を構成する粒子の保存状態が良いのが特徴です。粒子の並び方に乱れがなければ、通常、柱状の試料の下部分が一番古い地層で、上にいくにつれて新しい地層になっていきます。

試料の中には貝殻のかけらも見られました。この貝殻のかけらは、シロウリガイという二枚貝の殻の化石と考えられています。シロウリガイは体内に硫黄やメタンを栄養分に変えることのできる微生物を共生させているという、深海に生息することが知られているめずらしい生物です。現在の相模湾でもメタンなどがわき出す場所があることが知られており、そこではシロウリガイなどの生物群集が見られることが報告されています。。

一通りの観察終了後、河尻博士より、相模川流域の地質、河岸段丘などの地形、神奈川県の地質の成り立ち、付加体と日本列島の形成についての講義がありました。この講義では、野外実習での観察結果と日本列島の形成史との関連づけを行いました。
参加者感想
- 椀掛けの原理はわかっていても、実際やってみるとおもしろい!これは物理ですネ。『ちきゅう』のコアサンプルも見れて良かったです。
- 体験した話や持ち帰った資料(試料)を理科総合Aや化学Iの授業において、主に資源の分離・確保という立場から生徒に紹介・回覧する等、十分還元することができたから。また、私自身、大変貴重で有意義な体験ができました。
- 色々な先生方の反応を見ていると、生徒にやらせるときの参考になります。
スタッフ陣より
- 今回のSand for Students実習では、初めての理科教諭対象でした。準備から実習の進行にいたるまで、すべてがいつもより素早く、深い内容でした。また、各参加者自らが、観察テクニックや生徒への説明方法を披露して下さり、担当者としても得ることが多い一日となりました。(T.O.)
- 相模原市立博物館、神奈川県立生命の星・地球博物館、海洋研究開発機構、神奈川県高等学校教科研究会理科部会と、同じ県内にある4者の連携で、最先端の科学と地域を教材に行われました。
今後とも、地域から最先端の科学を学ぶ研修、授業実践を行なっていけたらと思います。
研修に参加していただいた先生方、研修を企画していただいた先生方、ありがとうございました。(Y.O.)