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【話題の研究 謎解き解説】真核生物誕生の鍵を握る微生物「アーキア」の培養に成功

記事

私たちヒトを含む真核生物の祖先に最も近い微生物「アーキア」を、深海底の堆積物から培養することに、世界で初めて成功しました。
それは、触手のような長い突起を持ち、とてもユニークな姿をしていました。
そして、培養したアーキアを観察して分かったことと、ゲノム解析から分かったことを組み合わせると、謎に包まれていた真核生物誕生の道筋が明らかになってきました。
この成果を英科学誌『Nature』に発表したJAMSTEC超先鋭研究開発部門の井町寛之主任研究員と産業技術総合研究所生物プロセス研究部門のMasaru K. Nobu(延 優)研究員にお話を聞きました。

取材協力:

井町寛之

井町寛之
JAMSTEC 超先鋭研究開発部門

Masaru K. Nobu(延 優)

Masaru K. Nobu(延 優)
産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門

アーキアとは?

──今回培養に成功したアーキアとは、どういう生物ですか?

井町:地球上に生息する生物は、「アーキア」と「バクテリア」と「真核生物」の三つの大きなグループに分けられています。アーキアは古細菌、バクテリアは真正細菌とも呼ばれています。
私たちヒトは、真核生物です。動物だけでなく、植物や菌類も真核生物です。真核生物は、細胞の中に核を持っていて、その中に遺伝情報が書かれたDNAが収められています。
細胞の中に核を持たない生物を「原核生物」といいます。アーキアとバクテリアは原核生物です。「微生物」も、よく聞く言葉ですね。微生物とは、肉眼では見えない小さな生物のことです。真核生物でもバクテリアでもアーキアでも、小さな生物をまとめて微生物と呼んでいます。

図
原核生物の細胞と真核生物の細胞

──三つのグループは、どのように進化してきたのですか?

井町:地球の生命の共通祖先は、約40億年前に誕生したと考えられています。これまでの研究によって、共通祖先からバクテリアとアーキアに分かれ、さらにアーキアと真核生物に分かれて進化してきたことが分かってきました。

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生物の進化

──核を持たない原核生物のアーキアから、どのようにして核を持つ真核生物が誕生したのですか?

井町:ある種類のアーキアがバクテリアを取り込み、共生させることによって真核生物が誕生した、という仮説が広く支持されています。
真核生物の細胞には、エネルギーをつくり出すミトコンドリアという小器官があります。取り込まれたバクテリアが、やがてミトコンドリアになったと考えられています。
しかし、原核生物から真核生物になる途中の、中間体のような生物は見つかっていません。そのため、真核生物がどのように誕生したのかは、まだ謎に包まれています。
真核生物の祖先に近いアーキアについて詳しく調べることができれば、真核生物の誕生について、もっとよく分かるに違いありません。だから、真核生物の祖先に近いアーキアを培養したかったのです。

微生物を研究する二つの方法:培養とゲノム解析

──今回の研究で、井町さんと延さんは、どのような役割分担になっているのですか?

井町:微生物を研究するには、大きく分けて二つの方法があります。
一つは、目的の微生物を実験室で増やしてから、細胞の形態、生理的な性質、生活環などを調べる方法です。微生物を人工的な環境で増やすことを、「培養」といいます。

延:もう一つは、微生物のゲノムを調べる方法です。ゲノムとは、その生物が持っている全遺伝情報のことです。
ゲノムの本体であるDNAの塩基配列を読み取って、どういった遺伝子があるかを解析します。その解析結果から、その生物がどのように生きたいのか、どのような機能を持っているのかを推定します。

井町:二つの手法を組み合わせることで、その微生物の形態や生き方について詳しく理解できます。
私は、培養が難しいとされてきた微生物の培養にいくつも成功した経験があり、培養は得意です。でも、ゲノム解析はあまり得意ではありません。
延さんは、微生物のゲノム解析で多くの成果を上げています。でも培養は得意ではありません。
2人は、補完し合うことで完璧な関係になれる。いわば共生ですね。

──真核生物の祖先に近縁のアーキアについて、培養やゲノム解析は、これまで行われていたのでしょうか?

延:現在、ロキアーキオータと呼ばれるアーキアの一群が真核生物の祖先に最も近いと考えられています。ロキアーキオータは2015年、深海堆積物中の微生物集団に由来するゲノムを網羅的に読み取る「メタゲノム解析」という方法で発見されました。ロキアーキオータは、培養されたことがまったくありません。そのため、どのような形をしていて、どのような生き方をしているのかは分かっていませんでした。

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井町寛之さん(右)と延優さん。下降流懸垂型スポンジリアクターの前で。「リアクターも大切な仲間です。培養を開始した日付には毎年、誕生日のお祝いをしています」と井町さん。「実は、このリアクターと私は誕生日が同じなんです」と延さん。

そのアーキアは水深2,500mの深海堆積物にいた

──今回培養に成功したアーキアは、どこに生息していたのですか?

井町:紀伊半島沖の南海トラフ、水深2,500mの深海底の堆積物の中です。2006年5月、有人潜水調査船「しんかい6500」によって採取されました。
その「しんかい6500」に、私も乗っていました。4月にJAMSTECに移ったばかりで、「しんかい6500」に乗ったのも初めてでした。
堆積物が採取される様子を目の前で見て、とても感動して、とても興奮したことを、今でもよく覚えています。

写真
「しんかい6500」のマニピュレータで深海堆積物を採取している様子
2006年5月6日、南海トラフのメタン冷湧水帯(水深2,533m)。

──なぜ、その場所で堆積物を採取したのですか?

井町:そこは、メタン冷湧水帯と呼ばれる、メタンを含む冷たい水が湧き出している場所だからです。メタン冷湧水帯の堆積物には、真核生物の祖先に近縁といわれているアーキアが特に多く生息していることが、遺伝子解析から分かっていました。

つるしたスポンジで微生物を培養する

──いよいよ微生物の培養ですね。

井町:微生物の培養はとても難しく、地球上に存在する微生物のうち培養できているものはわずかで、1%以下だともいわれています。しかも、深海堆積物からの微生物培養は特に難しいことが知られていました。
試験管やシャーレを使う従来の方法では、おそらく培養できないと思っていました。そこで、新しい方法が必要だと考え、水処理装置を使った培養のアイデアを思い付きました。
それが、下降流懸垂型スポンジ(down-flow hanging sponge:DHS)リアクターです。この装置の特徴の一つは、スポンジを微生物の住み処として使うことです。

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微生物の住み処となるポリウレタンスポンジ

──スポンジですか?

井町:このスポンジは特別なものではなく、皆さんが食器洗いに使っている、あのポリウレタンスポンジです。
私は学生時代、微生物を使った排水処理技術の研究をしていました。微生物を含ませておいたスポンジに排水を通すと、微生物が排水中の有機物や無機物を分解して水をきれいにしてくれるのです。
そのスポンジの中にいる微生物を遺伝子解析で調べると、知られている微生物のほかにも、これまで培養されたことがない未知の微生物がたくさんいることが分かりました。
これを逆に考えると、水処理で使われているDHSリアクターを使えば、培養が難しいといわれている深海の未知微生物も培養できるのではないか、とひらめいたのです。

DHSリアクターのここがすごい!

──DHSリアクターでどのように培養するのか教えてください。

井町:まず、深海から採取してきた堆積物を、微生物を育てるための培地で薄めて、泥水をつくります。
その泥水にスポンジを投入し、手でもみ込みます。もちろん素手ではありません。体に付いていたり、空気中を漂ったりしている微生物が入り込まないように、細心の注意を払います。
泥と微生物が付着したスポンジを20個ほど、ナイロン製の釣り糸を使って縦に並べてつなぎ、塩化ビニル製の筒状容器の中につるします。
そして、深海堆積物を採取したメタン冷湧水帯の環境を再現した条件で培養します。
深海堆積物中の多くの微生物は、酸素がないところでしか生育できない嫌気性微生物です。リアクターの中に酸素が入らないようにして、上から栄養分を含んだ人工海水を、下からはメタンガスを供給します。

写真
下降流懸垂型スポンジ(DHS)リアクター

──DHSリアクターを使った培養方法には、どのような良い点があるのですか?

井町:人工海水やメタンがスポンジの中にまで行き届くため、スポンジに付着している微生物と栄養分が接触しやすくなります。その結果、微生物を効率よく増殖させることができるようになっています。
また、シャーレや試験管を使った培養では、微生物の排せつ物がたまり、増殖の妨げとなる可能性があります。この方法ならば、排せつ物は流れ出ていくので、微生物の増殖が阻害される心配はありません。

──延さんは、この培養方法について、どのように思いますか?

延:私も学生時代、微生物を使った排水処理の研究をしていました。その経験からも、井町さんのリアクターは未知の微生物を培養するのに最適だと思っています。
スポンジの表面と中心、またリアクター上部のスポンジと下部のスポンジでは、栄養分の濃度やpH(水素イオン指数)などの物理化学的な環境が変わります。一つのリアクターの中でいろいろな環境がつくれるので、培養条件が分からない未知の微生物も培養できる可能性が高まります。

深海堆積物の採取から12年。ついに培養に成功

──微生物の培養は順調でしたか?

井町:時々DHSリアクターのスポンジから試料を少し取り出して遺伝子解析を行い、スポンジの中にどのような微生物が増殖してきているかを調べるのですが……。真核生物の祖先に近い微生物が増えているというはっきりとした結果が、一向に出ませんでした。
それでも諦めずに培養を続けていくと、ようやく真核生物の祖先に近い微生物が増殖していることが分かりました。
培養開始から約2,000日、5年半がたっていました。

──培養成功、おめでとうございます。

井町:いいえ、この状態では、まだ培養成功とは言えないのです。
スポンジから取り出した試料には、さまざまな微生物が混在して培養された状態になっています。混在した状態では、目的の微生物を詳しく調べることが難しいのです。そのため、目的の微生物だけを増やして、最終的にはその微生物を分離する必要があります。
そこで、少しずつ内容を変えた培地を入れた試験管を数百本用意して、スポンジから取り出した試料から目的の微生物を増やして分離するための培養を行いました。いろいろな培地を用意するのは、目的の微生物がどの条件で増殖するか分からないからです。
すると1年後、培地がわずかに濁っている試験管がありました。微生物が増殖すると培地が濁るのです。
遺伝子解析をしてみると、真核生物の祖先に近いとされているアーキアと、数種類の微生物が一緒に培養されていることが分かりました。

延:しかし、ゲノム解析をするには、そのアーキアの細胞が大量に必要です。井町さんに頑張って培養してもらわなければいけません。

──井町さんの腕の見せどころですね。

井町:微生物の培養では、植え継ぎといって、新しい培地に移し替えながら増やしていきます。でも、このアーキアはなかなか増えないのです。
1個の細胞が2個の細胞に分裂するまでの倍加時間を調べてみると、このアーキアは14〜25日でした。これは、よく研究に使われる大腸菌の1,000分の1です。このアーキアは、増える速度がとても遅かったのです。
また、細胞はある密度に達すると、増殖を停止します。このアーキアの最大細胞密度は、大腸菌の1,000分の1。少し増えると、増殖が止まってしまうのです。リアクターでなかなか増殖しなかったはずです。
相手の性格が分かれば、付き合い方も少しずつ分かってきます。
そして、2018年になってようやく、真核生物の祖先に近縁なアーキアの分離に成功しました。このアーキアをPrometheoarchaeum syntrophicum(プロメテオアーカエウム・シントロフィカム)MK-D1株と名付けました。
深海堆積物を採取してから培養・分離まで、12年もかかりました。

細胞の中はシンプル、外には長い突起

──MK-D1株は、どのような姿をしていたのですか?

井町:MK-D1株は、球状の細胞で、大きさはわずか550nm(1mmの約2,000分の1)でした。
次に、細胞の中を観察しました。真核生物の細胞内部には、核や小器官など複雑な構造があります。真核生物の祖先に近縁なアーキアの細胞は、すでに複雑な構造を持っているのではないかと予測されていました。どんな構造が見えるのだろうと期待していたのですが……。
細胞の中はシンプルで、核や小器官のような構造物はまったく見られませんでした。
形態はこれまで知られているアーキアと変わらず発見はなかったな、と思いながら電子顕微鏡で観察していると……。

──何が見えたのですか?

井町:触手のような長い突起を持つものがいたのです!そんなアーキアは見たことがなかったので、驚きました。
培養で一番恐れていること、ほかの微生物の混入が起きたのかもしれないとさえ思いました。もちろん混入がないことは遺伝子解析で確認してあります。
詳しく調べると、MK-D1株は増殖が終わるころに長い突起を細胞の外につくることが明らかになりました。また、細胞の外にたくさんの小胞を放出することも分かりました。

延:衝撃的な姿でしたね。培養して初めて分かることがたくさんあると、あらためて思いました。

写真
培養したアーキアMK-D1株の走査型電子顕微鏡写真。上は、増殖しているときの細胞形態。下は、増殖が終わるころの細胞形態で、触手状の長い突起をつくる。白い矢印は、MK-D1株が細胞外に放出した小胞。

真核生物に最も近縁なアーキアの生き方

──ゲノム解析からは、どのようなことが分かりましたか?

延:一般的なゲノム解析では、すでに知られている遺伝子の情報をもとに、その微生物がどのような機能を持っているかを推測します。
それに対して私は、未知の遺伝子も含めて、しかも個々の遺伝子ではなくさまざまな可能性や組み合わせを考えながら解析することで、その微生物は何ができるのか、何が好きで何が嫌いか、どういう生き方をしたいのか、どのような歴史を持っているのか、といったことまで深く読み取ることを目指しています
今回、MK-D1株のゲノムの塩基配列を全て高精度に読み取ることができました。これで、メタゲノム解析では分からない詳細な機能についても分かります。
そしてまず、MK-D1株はロキアーキオータ群に属し、原核生物の中で真核生物に最も近縁な生物であることが示されました。

図
ボソームタンパク質配列の解析から明らかになった分子系統樹
MK-D1株は、原核生物の中で真核生物に最も近縁な生物である。
枝の分岐点にある数字はそこの分岐の確率(%)、横方向の長さは進化的な距離を示している(左上のスケールバー参照)。

──このアーキアは、どのような生き方をしているのでしょうか。

延:MK-D1株のゲノムには、真核生物だけが持っているとされていたアクチンやユビキチン、小胞体の輸送に関連する遺伝子がたくさん存在していました。そして、その遺伝子からタンパク質がつくられて機能していることが確認できました。

さらにMK-D1株は、自身の細胞をつくるために必要なアミノ酸やビタミン、塩基を合成できないことが分かりました。ほかの微生物からアミノ酸やビタミン、塩基を供給してもらわないと、生きていけないのです。
さまざまな微生物のゲノムを見てきましたが、ここまで何もできない微生物は初めてです。

──井町さんは、ゲノム解析の結果を見てどのように思いましたか。

井町:培養をしていく中で、MK-D1株は硫酸還元バクテリアとメタン生成アーキアと一緒でなければ生存できないこと、3種類の微生物は密着して生育していることが分かっていました。
詳しく調べると、MK-D1株は、自身でつくることができないアミノ酸を硫酸還元バクテリアやメタン生成アーキアからもらっていることが分かりました。一方で、硫酸還元バクテリアやメタン生成アーキアは、MK-D1株がアミノ酸を代謝してつくった水素を受け取っていました。
ゲノム解析の結果を踏まえると、こうした微生物たちの生き方をより深く理解できます。
私たちは、体内で合成できないアミノ酸を外から取り入れています。ほかの微生物に依存しないと生きられないMK-D1株は、真核生物っぽいアーキアだな、と感じています。

真核生物誕生の新しい仮説「E3モデル」

──真核生物誕生の謎は、どこまで明らかになったのでしょうか。

延:真核生物はアーキアがバクテリアを取り込むことで誕生した、という仮説が有力です。MK-D1株と硫酸還元バクテリア、メタン生成アーキアが互いに依存し合って生きていることは、その仮説とも調和的です。
しかし、MK-D1株は一例にすぎません。ほかのアーキアのメタゲノム解析結果なども使って、真核生物の祖先に近縁の微生物はどのような生き方をしているかを探ってみました。
すると、MK-D1株と同じように、アミノ酸を栄養源としてほかの微生物に依存して生きていたことが分かりました。

井町:こういう解析は、今まで誰もやっていません。

延:私たちは、培養やゲノム解析から明らかになったことをもとに、真核生物の誕生についての新しい仮説「E3モデル」を提案しました。
それは、こういうストーリーです。──今から約27億年前、光合成を行うシアノバクテリアの登場によって地球に酸素が増えていきました。真核生物の祖先となるアーキアにとって、酸素は毒です。そのアーキアは、酸素を解毒してもらうために、MK-D1株で見られるような長い突起や小胞を使って酸素を利用するバクテリアを取り込んだのです。やがて、さまざまなやりとりを通して、取り込まれたバクテリアはミトコンドリアとなり、最初の真核生物細胞が生まれた──

──E3とは、どういう意味ですか。

延:E3はEntangle-Engulf-Endogenizeの略です。順番に、巻き込む、のみ込む、内部に発達させるという意味で、真核生物誕生まで様子を表しています。

図
真核生物の誕生についての新しい進化説「E3モデル」
E3はEntangle-Engulf-Endogenizeの略。Entangleは巻き込む(1・2)、Engulfはのみ込む(3)、そしてEndogenizeは内部に発達させる(4)という意味で、真核生物の祖先となるアーキア(青色で示した細胞)がミトコンドリアの祖先となるバクテリア(赤色で示した細胞)を取り込み、その共生関係が成熟していくそれぞれの過程を表現している。この一連の進化を通じて私たち真核生物の祖先が生まれた。

──今回の成果について、すでに大きな反響があるそうですね。

井町:私たちは『Nature』に論文を投稿した後、それをプレプリントサーバーで公開しました。すると、TwitterなどのSNSであっという間に世界中に拡散し、とても大きな反響がありました。バズりましたね。
皆さん、まずMK-D1株の姿に驚くようです。そして、培養やゲノム解析の結果、「E3モデル」についても、賞賛の言葉をたくさん頂いています。

延:反響はあると思っていましたが、想像を超えましたね。
今回の成果は、培養とゲノム解析を組み合わせると、こんなに画期的なことができる、分かる、ということを示す良い例になったと思います。
ゲノム解析だけで研究を進めていくと、生物の研究者からすると理解できない結論を導き出してしまう場合があります。私たちは生物進化の専門家ではありません。しかし、培養のスペシャリストとゲノム解析のスペシャリストが組み、互いにリスペクトして互いの研究に興味を持つことで、生物進化の専門家にとってもしっくりくる仮説を提唱できたのだと思います。

──今後は、どのように研究を進めていこうとお考えですか。

延:MK-D1株の細胞内部の構造は、とてもシンプルでした。一方、真核生物の細胞内部はとても複雑です。細胞内部の構造がどのように複雑化していったのかを、ゲノム解析から迫っていきたいですね。ほかにも、やりたい解析はたくさんあります。

井町:MK-D1株についても、まだ調べるべきことがたくさんあります。まず、突起がどういう成分でできているかに興味があります。
また、MK-D1株は一例でしかないので、真核生物の祖先に近いとされるほかのアーキアも培養して調べる必要があります。DHSリアクターでは現在も微生物の培養を続けています。その中に真核生物誕生の鍵を握る微生物がほかにもいる可能性があります。

延:今回は、原核生物として真核生物に最も近い生物を解析しました。次は、原核生物に最も近い真核生物のゲノムを解析したいですね。両方から攻めることで、原核生物から真核生物への道のりがより明確になることでしょう。
井町さん、原核生物に最も近い真核生物の培養も期待しています。

井町:培養は、失敗の繰り返しです。失敗をしても諦めない。そして、焦らずに待つ。それは自分の性格とも合っていますし、自分の強みだと思っています。
培養されていない微生物をすべて培養して調べる。それが、私の研究者としての目標です。これからも、誰も培養できていない微生物を培養していきます。

──井町さん、延さん、ありがとうございました。

写真
MK-D1株を培養している瓶を持つ井町さん(右)と延さん。

私たち真核生物はどうやって地球上に誕生したか—新しい進化説E3モデル—

本研究についてのイメージCG(CG作成:ADHD Studio)

 

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