今回紹介するのは、海底広域研究船「かいめい」です(写真1)。この船は、2016年3月にJAMSTECに引き渡された、最新鋭の観測機器と洋上ラボを備えた多機能研究船です。
「かいめい」はいま、清水沖にいるそうです(注:取材は2016年7月下旬に行いました)。我々取材班はこれから通船(港と接岸していない船の間を結んで人などを運ぶボート)に乗って清水港を出港し、「かいめい」を目指します。そして、縄梯子をのぼって「かいめい」に乗船します。ふだんは港で乗下船しますが、航海のスケジュールによってはこのように通船で船まで移動して乗下船することもあるそうです。
お天気は雲っていますが、これから晴れるはず! では、行って参ります!
乗船
柳谷:「かいめい」にようこそ! 本船の運航管理を担当している海洋工学センターの柳谷昌信です(写真3)。
――柳谷さん、よろしくお願いします。「かいめい」は、どんな船なのですか?
柳谷:「かいめい」は、海底資源や海底下構造、地震・津波、気象海象等の調査研究を行うために建造された多機能な研究船です。全長100.5m、幅20.5m、総トン数5,747トン。「ちきゅう」を除いたJAMSTECの他の船に比べて、船の幅が大きいのが特徴です。その理由はまた後で説明します。乗組員は27名、研究者等は38名が乗船できます。これから、本船のブリッジや推進機関に関係するところを紹介します(図1)。
柳谷:早速ブリッジへ行きましょう。
ブリッジ(操舵室)
――わー、見晴らしが良いですし、カッコいい機器があって、次世代的な空間ですね!
柳谷:正面に広がるこの操縦盤は、「統合化ブリッジシステムコンソール」と呼びます。GPS、レーダー、電子海図表示装置(ECDIS)などの航海計器や、極域を除く全世界での運航に対応したGMDSS無線電話装置などの無線設備を始め、最新の航海装置を一つのシステムに統合し、集中管理しています。すべての情報が一目瞭然なので、少人数でオペレーションを行うことも可能です。
――これぞ「かいめい」の特長!ともいえる装備は何ですか?
柳谷:アジマス推進器を用いた「自動定点保持装置」(ダイナミックポジショニングシステム:DPS)です(写真4)。 調査・研究によっては船の位置を正確に把握して定点に留まる必要があります。そんなときにDPSを使えば、船が受ける外力(風や潮流等)の向きや大きさ、目標位置からの差などを自動計算し、その影響力を相殺するようにスラスタを制御して船を同じ位置に保つことができます。
――スラスタというのは、どんなものなのですか?
柳谷:本船は、船首に昇降旋回式バウスラスタとトンネル式バウスラスタ、そして船尾にアジマス推進器が搭載されています(図2)。
柳谷:昇降旋回式バウスラスタは、使う時だけ船底から降ろすスラスタで360度向きを変えることができます。トンネル式バウスラスタは、船首の右舷・左舷を貫通するトンネル中央に取り付けられたスラスタで、船が横移動するためのものです。アジマス推進器も360度向きを変えられる推進器で、船尾に2機あります。 DPSでは、これら3種を組み合わせることで、本船は潮の流れがある洋上でも定点に留まります。調査研究の精度や作業効率の向上に貢献する機能です。
――流れのある洋上で一点に留まるなんて、DPSはすごい技術ですね。
柳谷:定点保持だけではありません。3種のスラスタを使うことで、一般の大型の船が苦手とする港など狭い場所での離着岸時の操船も、本船なら可能です(写真5、6)。
――昇降旋回式バウスラスタとトンネル式バウスラスタ、そしてアジマス推進器を装備することで操船性能が格段に上がり、調査研究に貢献するのですね。須佐美智嗣船長からもお話を聞かせてください。
「かいめい」船長インタビュー
――須佐美船長、ありがとうございました。 そういえばお話にあった推進器は、どうやって動くのでしょうか。柳谷さん、仕組みを教えてください。
柳谷:では、本船を動かすための機関制御室と機関室へ行きましょう。
機関制御室
柳谷:機関制御室に到着しました。機関長の金田和彦さんにお話を聞きましょう。
――金田機関長、こんにちは。「かいめい」の推進器は、どのようにして動くのですか?
金田:こんにちは(写真7)。
金田:一般に普及しているのはディーゼル機関で動くタイプですが、本船は発電機で電気を起こし、その電力でプロペラを回す「電気推進システム」で動きます。発電機は主発電機2台と補助発電機2台があります。
――電気推進だと、どんな違いがあるのですか?
金田:大きく2つのメリットがあります。1つは、振動の発生が少なく、音波を使う調査や観測への影響を軽減できる点です。もう1つは、船内空間を有効利用できる点です。
――どういうことですか?
金田:多くの船は、主機関(エンジン)から船尾に向かってプロペラ軸が伸び、そこからプロペラを回転させます。この時、回転するプロペラ軸から大きな振動が発生し、船全体に影響を与えます(図3)。しかし本船は電気推進で主機関を持たず、プロペラ軸は不要です。そのため振動を大幅に減らすことができます。
金田:そして船底を貫く長いプロペラ軸が無い、つまりプロペラ軸に左右されないレイアウトにできるので、部屋の作りから機器の設置まで、スペースを有効利用できるのです。
――なるほど! では、この機関制御室は、何をする部屋ですか?
金田:機関制御室では、発電機や各種ポンプの操作、機関室全体の監視を行います(写真8)。室内に並ぶのは、各機械の運転状況を表示するメーターやモニタです。万が一異常が発生した場合には、アラームが鳴り響くと同時に原因を知らせます。当直の機関士が8時間ごとに交代して監視しています。
金田:発電機やボイラーを動かす燃料油には、JAMSTECの他の船はA重油を使いますが、本船はA重油にC重油を混ぜたブレンド油を使います。C重油はA重油よりも安価なので燃料費を削減できます。ただ、C重油は常温では固形なので100~130度まで熱する手間がかかります。また、その熱いC重油が通る配管が機関室に露出しているため、歩く際に気を付けなければなりません。
「かいめい」機関長インタビュー
金田:せっかくなので、発電機がある機関室に入りますか?
――ぜひお願いします!
機関室
――重い扉を開けて機関室へ入った途端、ものすごい轟音に包まれました。耳元で大声を出してやっと声が聞こえる程度です。空気も、もわっと暑いです。目の前には、大きな機械が配置され、太いパイプがあちこちに見てとれます。
加藤:こんにちは、一等機関士の加藤兼三です(写真9)。
加藤:発電機がある「機関室」と、アジマス推進器がある「推進電動機室」へ行きましょう(図4)。
加藤:ここが、船の心臓部である「機関室」です。主発電機(写真10左)は2台あり、それぞれ2200kW発電します。補助発電機も2台で、主発電機の半分にあたる1100kWをそれぞれ発電します(写真10右)。
「かいめい」発電機360度映像
――発電機の振動で全体が揺れていて、すごい迫力です。轟音もすごいです。
加藤:この発電機で、推進器を始め、観測機器、ウィンチなどすべての機械の電力をまかないます。ただし、発電機は回せば回すほど燃料費がかさみます。そこで4台の発電機を常時すべて使うのではなく、調査内容や航走状態に合わせて台数を選定して、より効率的で無駄のない電力を供給します。
推進器電動室
加藤:これが、アジマス推進器です。
「かいめい」アジマス推進器360度映像
ここからは見えませんが、この下にプロペラがあります(写真11)。
加藤:アジマス推進電動機を動かすと、回転がピニオンとスプライン軸、プロペラ軸を経由して伝達され、プロペラが回ります(図5)。
加藤:アジマス推進器の向きを360度自在に変えるには、5台あるギアを使って歯車を回します(図6)。なぜギアが5台あるかというと、アジマス推進器を360度回転させる力がとても大きいため、ギアを5台にすることで1台当たりの負荷を軽くしているのです。
加藤:アジマス推進器を円滑に駆動させるため、潤滑油が潤滑油ポンプからアジマス推進器に向かって送られています(写真12左)。アジマス推進器の操作はブリッジからもできますが、いざという時にはアジマス推進器の隣にある推進器機側操作盤からも可能です(写真12右)。
――加藤さん、ありがとうございました。
生物や環境への配慮
――「かいめい」のブリッジよりも高い位置に部屋があるようです。あれは何ですか?
柳谷:あれは「海産哺乳類監視室」です。クジラなどの海産哺乳類を監視するために、周辺海域を一望できる一番高い甲板に監視室を設けました。 クジラなどの海産哺乳類が棲息する海域で本船が音波を使った構造探査を実施する際に、その影響を最小限に抑えるために、周辺にクジラなどがいないか海産哺乳類監視室から監視するのです。
「かいめい」海産哺乳類監視室360度映像
――海の生物への配慮があるのですね。
柳谷:生物に対してだけではありません。ファンネル(えんとつ)にはフィルターが取り付けてあり、船から すすなどが飛び散るのを防ぎます(写真13)。
他にB甲板から上部の居住区や船橋甲板などの構造物は材質をアルミニウムにすることで軽量化を図ったり、ら針儀甲板には太陽光発電パネル(写真14)を設置したりしています。
柳谷:そういえば、船酔いは大丈夫ですか?
――??船は停まっているようですし、大丈夫ですよ?
柳谷:いえいえ、今「かいめい」は航走中ですよ。べた凪(風が吹かず波がない状態)なのもありますが、揺れを緩和するアンチローリングタンクを搭載していますし、船の幅も広いですから、比較的揺れないんですね。
――全然揺れを感じないので、まさか走っているとは思いませんでした。「かいめい」は、環境、調査、そして人にも海の生物にもやさしい船ですね。 次回は、研究にまつわる設備をご紹介します。
「かいめい」出航360度映像
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