がっつり深める

東アジアの人為的CO2排出量の過大評価を補正する新しい手法と知見

大気化学輸送モデルとメタンを利用した新たな手法で、CO2排出量を推定

――CO2の排出吸収量は、どのように調べるのですか?

CO2の排出吸収量を推定するには2通りあります。1つは、ボトムアップアプローチです(図5)。これは、現場の観測データを積み上げて、そこから地球全体の排出量と吸収量を求める方法です。たとえば世界各地の森林や農耕地などでは観測タワーが設置され、CO2排出量と吸収量が測定されています。海では貨物船に観測センサが搭載されています。そして、エネルギー消費などに関する社会経済統計など。こうしたたくさんのデータを積み上げて、地域スケールから地球全体の排出吸収量を調べます。

図5 ボトムアップアプローチのイメージ

もう1つはトップダウンアプローチです(図6)。大気中の風や化学反応などを再現する数値モデルを使って、地上や航空機、人工衛星で観測した大気中CO2濃度のデータを解析し、地表のどこでどれだけCO2の排出と吸収があったのか逆算して推定します。CO2のトップダウンアプローチによる解析では、通常、化石燃料起源のCO2排出は正しいとして仮定して、陸域生態系と海洋からの排出吸収量を計算します。

図6 トップダウンアプローチのイメージ

――CO2排出吸収量を調べるには、データ積み上げて推定するボトムアップアプローチと、反対に大気側から逆推定するトップダウンアプローチがあるのですね。今回の研究は、どちらの手法ですか?

以前から私たちが取り組んでいるトップダウンアプローチです。ここでカギを握るのが、大気化学輸送モデルです。

――大気化学輸送モデルがカギ?

地表から排出された物質は、風や乱流で輸送され、物質によっては大気中で化学反応を起こしながら、地球大気中へ広がっていきます。このように、「地表排出」をもとに、「大気輸送」と「化学反応」を数値モデルでいかに現実的に表現できるか。それが、物質の濃度分布の正確な再現につながります。そして、数値モデルで計算した物質の濃度を観測データと比較して、濃度変動の原因を調べたりすることができます。

共著者のプラビールパトラ(主任研究員)は、それを実現するため大気大循環モデルを基にした大気化学輸送モデル「ACTM」(AGCM-based chemistry-transport model)を、グループの研究者とともに長年にわたって開発・改良し続けてきました(図7)。

図7 数値モデルでは、大気輸送、化学反応、地表排出を現実的に表現することが必要。

ACTMを利用してこれまでに、温室効果気体と反応してその濃度に影響を与える「水酸基ラジカル」、続いてCO2に次ぐ温室効果を持つ「メタン」(CH4)の濃度分布をかなり精度よく再現することに成功しています。

今回は、このACTMと観測データと組み合わせて数値計算を行いました。計算にはスカラー型並列計算機システム SGI ICE X(写真2)を使いました。

写真2 スカラー型並列計算機システム SGI ICE X
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