がっつり深める

地震断層面は従来考えられていたより低温で融けることを確認

室内で断層すべりを再現する摩擦熔融実験

――どのように実験を進めたのですか?

まずは試料の準備から紹介します。コアリングマシンを使って、珪岩を直径2.5cm、高さ2cmの円柱形に切り出します。動画1は珪岩ではありませんが、こんな様子です。

動画1 試料を円柱形に切り出す様子(岩石は珪岩ではありません。)

続いて平面研削盤で円柱形試料の上面と下面を研削して、平行に整えます。動画2も珪岩ではありませんが、研削の様子です。この平行こそが、実験の命です。平行じゃないと実験データになりませんから。

動画2 試料の表面を削って、水平に整える様子。(岩石は珪岩ではありません。)

――試料の上と下を平行にすることが重要なのですね。

続いて、石英が割れるのを防ぐために試料に針金を巻き付けます(写真4)。巻き具合は締めすぎてもゆるすぎてもダメで、絶妙な加減を見出すまで色々試しました。この辺が、実験できる人とできない人の違いになってくるのです。

写真4
写真4 絶妙な力加減で針金を巻き付けた試料

――綺麗に巻きますね。

これは実験中の温度を計るサーモメータです(写真5)。物質は赤外線を放出していて、物質の温度が高いほど赤外線は強くなります。サーモメータは、その性質を利用して温度を測ります。

写真5
写真5 極小領域の温度をきっちり計測するサーモメータ

この実験では短時間且つ極めて小さな領域の温度を測定しないといけないので、90×90マイクロメータという極小領域の温度を高精度に測定できるマクロレンズを取り付けました。さらに、実験中に飛び散るメルトからマクロレンズを保護するためにゲルマニウムという材質の保護フィルタをかぶせました。

――このサーモメータは細かい領域の温度を測れるのですね!

こちらが、実験を行う回転式高速摩擦試験機です。実験は1号機と2号機でしましたが、1号機は山口大学へ移管したので今見せるのは2号機です(写真6)。

写真6
写真6 流体制御型高速せん断試験装置(2号機)

――これが断層すべりを再現する試験機ですか!

試験機の試料ホルダに、先ほどの試料を向かい合わせにセットして模擬断層を作ります(写真7)。

写真7
写真7 向い合わせに試料をセット

下側の試料を高速回転させ、上からもう片方の試料を押し付けます(図2)。

図2
図2 摩擦熔融実験のイメージ

実験でカギとなるのが、「試料が割れない範囲で押し付けながら、いかに短時間で高温に持っていけるか」です。

――どういうことですか?

試料を回転させる速度を実際の地震断層すべりに近い秒速1.3mとしたとき、試料を強く押し付けるほど摩擦発熱しますが、強すぎれば試料が割れて実験になりません。だからといって時間をかけて摩擦発熱させると、試料がぐちゃぐちゃになってその後回収して分析できません。

いかに短時間で高温にもっていくか。私は学生時代から18年以上にわたってこのような摩擦実験に取り組んできた経験を生かして、荷重などを試行錯誤して最適な条件を探しました。そしてシュードタキライトの再現に成功した実験が動画3です。1号機で行ったものです。

動画3 摩擦熔融実験で、試料をこすり合わせている部分。

――!本当に一瞬ですね!

2秒もありません。ですが、こすり合わせる部分は1,400°Cに達しています(動画4)。轟音とともに火花が散ります。怖いので、できるだけ離れます。

動画4 サーモグラフィで計測した温度変化。青いほど低く、赤いほど高い温度を示す。

――実験後、試料はどうなったのですか。

写真8の、少し透明感のある水色部分が溶けているところ、白い部分はナノメートル単位まで細かく砕かれた粉です。熔融層の厚みは0.7mmほどです。

写真8
写真8 摩擦熔融実験直後の試料

1~2秒の間に石英に何が起きたのか。韓国の共同研究者が試料を韓国へ持ち帰り、分析しました。

――こんなに一瞬の物理化学現象を解明しようだなんて…!

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