ウナギは日本のはるか南のマリアナ諸島沖で生まれ、成長しながら海流を乗り換え北上し、シラスウナギとなって日本にたどり着きます。ところが近年、日本ではそのシラスウナギの漁獲量が減少傾向にあります。その原因には、乱獲や河川環境の悪化などが指摘されています。そうした中、海流変動の影響もその一因であることが、このたびシミュレーションで示されました。
過去20年の海流変動は日本に流れ着くシラスウナギの数を減らしていた
論文タイトル:Potential impact of ocean circulation on the declining Japanese eel catches.
ココがポイント
●海流予測モデル「JCOPE2」を使って海流を1993年から2013年までを再現し、ウナギの卵が産卵されてから東アジアにいくまでをシミュレーションした。
●その結果、20年の間で、シラスウナギは日本や台湾などに流れ着きにくくなっていることがわかった。
●日本や台湾に流れ着きにくくなっている原因は、北赤道海流が弱まったことが関係していた。
ウナギが大好きな職員がとても心配しています。今回は、この研究をScientific Reports誌に発表した台湾出身の研究者、ユリンチャン研究員に話を聞きました。
一生で数千kmを回遊するウナギ
――ウナギに関する研究をされたそうですね。ウナギの生態は謎が多いと言われていますが、どのようなことがわかっているのでしょうか。
ウナギはとてもおもしろい生物です(図1)。ふつう水棲生物は、川などの淡水にいるものと、海水にいるものに分かれるのですが、ウナギは淡水と海水の両方で生活するのです。
日本や台湾に流れ着く二ホンウナギは、日本のはるか南に位置するマリアナ諸島沖で生まれます(図2)。親ウナギは、直径1.6㎜以下の小さな卵を何百万個も産みます。1日半ほどで孵化した赤ちゃんウナギはプレレプトセファルスといいます。目も口もまだできていません。北赤道海流にのって西へ流され、1週間ほどでレプトセファルスに成長します。レプトセファルスは葉っぱのような平べったくてペラペラした体で海流の流れに乗りやすく、また黒い眼以外は透明な体をしているため敵にも見つかりにくいのが特徴です。
北赤道海流は、フィリピン諸島にぶつかる形で二手に分かれます。北赤道海流に乗ったレプトセファルスも二手に分かれ、南側へ流れたものはミンダナオ海流に乗って南下し、北側へ流れたものは黒潮に乗って北上します。
黒潮に乗ったレプトセファルスは黒潮の中で成長し、全長5、6㎝のシラスウナギになります。シラスウナギは、体が透明なことを除けば、親とほとんど同じ形をしています。やがて日本や台湾など東アジアの河口に集まり、川をさかのぼって中流や湖などで5年から10年かけて成長します。そして成熟したウナギは川を下り、再びマリアナ諸島沖へ戻って産卵すると考えられていますが、これについてはまだ謎が残されています。
こうしたウナギの一生の回遊距離は、数千kmに達します。
――ウナギはそんな長距離を回遊するのですね。