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「しんかい6500」訓練潜航 YK17-07 レポート

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YK17-07訓練潜航

2017/4/3 - 4/19

『訓練潜航の目的』

2017年4月3日から4月19日にかけて駿河湾・相模湾・伊豆諸島海域において13回の訓練潜航を実施しました。訓練潜航は、長い検査工事期間中に鈍った潜水船パイロットの操船感覚を訓練により取り戻し、調査潜航に備える事を主な目的としていますが、検査工事で新たに搭載した機器の最終調整や新人パイロット育成の機会でもあります。本年度は、女性を含む2名の新しいメンバーが運航チームに加わりました。(パイロットメンバー紹介を参照

新人の操船訓練
写真1:新人の操船訓練
操船訓練中の新人。海底から一定の高さをキープしながら航走訓練中。手に持っているのが潜水船を操縦するコントローラ。写真右のタブレットが総合情報表示装置(ADS4)。

この2名は、今後約3年間の訓練期間を経て副パイロットへと育成していきます。今回の訓練潜航では、実際に潜水船を操縦させて潜水船の動きを感覚的に学びます。海上を航行する船舶は、前後・左右の平面的な動きですが、潜水船の場合は、それに上下の動きが加わり3次元的な操船となります。その違いを学ぶべく海底航走や障害物回避、目標物への接近と安全な着底作業等、まずは基本的な操船訓練を実施しました。【写真1】

訓練潜航後の5月から調査潜航が始まりますが、新人は来年度の訓練潜航まではもう潜航する機会はありません。1年後の訓練潜航に向けて訓練カリキュラムに沿った座学や実務(航法管制業務や整備業務)に従事し、先輩達から「しんかい6500」システムの知識を細部にわたり徹底的に叩き込まれます。

潜水船パイロットにとって操船技術も大切ですが、潜水船の細部まで理解することが最も重要と考えます。深海では潜水船が故障しても船外に出て故障原因を調べたり修理したりできません。耐圧殻という環境の中、計器の確認や機器の作動音や動作タイミング等、限られた情報から故障原因を推測し、潜航調査が続行できるか判断しなければいけません。そのためには「しんかい6500」を細部まで理解する必要があります。新人2名の副パイロットデビューまでは、まだまだ長い道のりが待っています。

『今回の改造と機能向上』
換装された総合情報表示装置
写真2:換装された総合情報表示装置
写真中央のタブレットが潜水船の航跡を表示するShinkai Track、その右側のタブレットが今回換装された総合情報表示装置(ADS4)である。小型・軽量化を図ると共にパイロットの手元で潜水船の全情報が容易に確認できるようになった。

先般実施された定期検査工事では、例年の開放整備点検に加えて幾つかの機能向上および改造工事も実施されました。ジャイロコンパス(OCTANSⅢ)を慣性航法装置(INS)に換装しました。今後、海底調査中の潜水船測位の精度が一段と向上することが期待されます。

大きな改造としては、耐圧殻内の機器配置替えがあげられます。大型の総合情報表示装置(ADS3)を取外し、CANバス通信を採用した小型の総合情報表示装置(ADS4)に換装され手元に置いたタブレット端末で潜水船の全データの確認が可能となりました。【写真2】

酸素ボンベ
写真3:酸素ボンベ
写真手前の黒いボンベが、スチール製の酸素ボンベで通常8時間の潜航で使用され、潜航毎に交換する。その奥に今回採用したFRP製の酸素ボンベ4本が搭載されている。この4本は、ライフサポートの5日分の酸素ボンベであり海底拘束などの非常時以外使用されることはない。

またスチール製の酸素ボンベをFRP製の酸素ボンベ(充填圧力も約1.5倍)に換装し、酸素ボンベの小型・軽量化を図りました。【写真3】

これら換装により耐圧殻内の下部に取り付けられていた装置類も耐圧殻上部に集約することができました。

これにより乗員3名の観察スペースである耐圧殻下部に空間的な余裕ができました。今回の訓練潜航を利用して、研究者がより観察しやすい体勢が取れるよう、観察モニターや操作盤などの位置を適宜変更しながら最適な取り付け位置を決定しました。観察環境の改善への取り組みは、始まったばかりです。今回の改造を最終形とはせず、更なる観察環境の改善に向け努力していきます。

『サンプルバスケットは、バンパー代わり?』
調査潜航前のサンプルバスケット
写真4:調査潜航前のサンプルバスケット
とある調査潜航前のサンプルバスケット。調査潜航では、研究目的に応じて様々なペイロード機器が積み込まれる。
大きく損傷したサンプルバスケット
写真5:大きく損傷したサンプルバスケット
操船訓練中に崖に衝突し、右サンプルバスケットが大きく変形して帰ってきた。ここまで変形したのは久しぶりに見た。これでも翌日には、元の姿に補修して潜航する。
修理中のサンプルバスケット
写真6:修理中のサンプルバスケット
修理中のサンプルバスケット。大ハンマーの叩きだしで大まかな形成をしたのちシャコ万力で形状を整える。

「しんかい6500」の船首に搭載されているサンプルバスケットは、海底調査で使用する研究機材や採取された岩石や生物などの採取物の入れ物として使用されます。乗船する研究者の調査目的によってサンプルバスケットには様々な機材が搭載されて潜航します。【写真4】

「しんかい6500」に搭載されている機器のほとんどは、強固なチタン合金で製作されていますが、サンプルバスケットだけは、アルミニウムで作られています。

軽量化を図ることが主な理由ですが、実はもうひとつ理由があります。海底航走中に想定外に急な崖が、現れ回避できない時に最初に接触する場所が、サンプルバスケットとなります。アルミで出来たサンプルバスケットが変形して衝撃を吸収することで潜水船本体へのダメージを最小限に抑えることです。言わば自動車のバンパーの様な役割も持たせています。海底熱水域の調査では、サンプルバスケットを高温の熱水を噴き上げているチムニーに当てて潜水船を固定させて作業を行います。

サンプルバスケットは、潜水船に搭載されている機器の中でも一番酷使している機器かもしれません。

今回の訓練潜航でも難易度の高い操船訓練中にサンプルバスケットを急崖に接触させてしまい大きく変形しました。【写真5】

しかし、この程度の変形は潜水船揚収後に自分たちで修理します。大ハンマーで叩いたりシャコ万力で形成したりと力仕事で直します。【写真6】

損傷の程度がひどく運航チームでは修理困難な場合は、母船「よこすか」の機関部に修理を依頼します。機関部は、旋盤や溶接機を駆使して元通りに直してくれる強い味方です。

【潜航情報】
    4月3日 No.1479DIVE
  • 潜航海域:伊豆諸島青ヶ島周辺
  • 観察者:倉本 佳和(日本海洋事業株式会社)
  • 船長:鈴木 啓吾
  • 船長補佐:大西 琢磨
    4月5日 No.1480DIVE
  • 潜航海域:伊豆諸島青ヶ島周辺
  • 観察者:西郷 亮(日本海洋事業株式会社)
  • 船長:千葉 和宏
  • 船長補佐:千田 要介
    4月6日 No.1481DIVE
  • 潜航海域:伊豆諸島青ヶ島周辺
  • 観察者:新倉 淳也(日本海洋事業株式会社)
  • 船長:松本 恵太
  • 船長補佐:石川 暁久
    4月7日 No.1482DIVE
  • 潜航海域:相模湾初島南東沖
  • 観察者:飯島 さつき(日本海洋事業株式会社)
  • 船長:植木 博文
  • 船長補佐:斎藤 文誉
    4月8日 No.1483DIVE
  • 潜航海域:相模湾初島南東沖
  • 観察者:南野 直人(日本海洋事業株式会社)
  • 船長:千葉 和宏
  • 船長補佐:千田 要介
    4月9日 No.1484DIVE
  • 潜航海域:相模湾初島南東沖
  • 観察者:植木 光弘(日本海洋事業株式会社)
  • 船長:斎藤 文誉
  • 船長補佐:鈴木 啓吾
    4月10日 No.1485DIVE
  • 潜航海域:駿河湾土肥沖
  • 観察者:西郷 亮(日本海洋事業株式会社)
  • 船長:千田 要介
  • 船長補佐:石川 暁久
    4月11日 No.1486DIVE
  • 潜航海域:駿河湾戸田海底谷
  • 観察者:倉本 佳和(日本海洋事業株式会社)
  • 船長:大西 琢磨
  • 船長補佐:松本 恵太
    4月12日 No.1487DIVE
  • 潜航海域:駿河湾戸田海底谷
  • 観察者:西郷 亮(日本海洋事業株式会社)
  • 船長:斎藤 文誉
  • 船長補佐:植木 博文
    4月13日 No.1488DIVE
  • 潜航海域:駿河湾戸田海底谷
  • 観察者:南野 直人(日本海洋事業株式会社)
  • 船長:千葉 和宏
  • 船長補佐:大西 琢磨
    4月14日 No.1489DIVE
  • 潜航海域:駿河湾戸田海底谷
  • 観察者:黒羽 美貴(科学新聞社)
  • 船長:松本 恵太
  • 船長補佐:石川 暁久
    4月16日 No.1490DIVE
  • 潜航海域:駿河湾戸田海底谷
  • 観察者:中村 征夫(テレビ朝日映像)
  • 船長:大西 琢磨
  • 船長補佐:鈴木 啓吾
    4月17日 No.1491DIVE
  • 潜航海域:駿河湾戸田海底谷
  • 観察者:飯島 さつき(日本海洋事業株式会社)
  • 船長:松本 恵太
  • 船長補佐:西郷 亮
【航海情報】
4月2日
関係者2名乗船、横須賀新港ふ頭3号桟橋出港
青ヶ島南方海域向け発航
4月3日
青ヶ島南方海域着、XBT計測、MBES事前調査
訓練潜航(第1479回)、XBT計測、MBES事前調査(青ヶ島東方)
4月4日
青ヶ島東方沖着、訓練潜航(第1480回)
4月5日
小笠原諸島向け回航、整備日
4月6日
青ヶ島東方沖着、訓練潜航(第1481回)、相模湾向け発航
4月7日
相模湾初島南東沖着、XBT計測、MBES事前調査
訓練潜航(第1482回)、伊東港外投錨
4月8日
伊東港外抜錨、相模湾初島南東沖着
訓練潜航(第1483回)、伊東港外投錨
4月9日
伊東港外抜錨、相模湾初島南東沖着
訓練潜航(第1484回)、駿河湾向け発航、駿河湾着
4月10日
駿河湾土肥沖着、XBT計測、MBES事前調査
訓練潜航(第1485回)、XBT計測、MBES事前調査(戸田海底谷)
4月11日
駿河湾戸田海底谷着、訓練潜航(第1486回)
4月12日
駿河湾戸田海底谷着、訓練潜航(第1487回)
4月13日
駿河湾戸田海底谷着、訓練潜航(第1488回)、清水港外投錨
清水港外にてプレス関係者9名乗船(タグボート)
4月14日
清水港外抜錨、駿河湾戸田海底谷着、訓練潜航(第1489回)
清水入港、プレス関係者9名下船
4月15日
清水出港、訓練海域向け発航
4月16日
駿河湾戸田海底谷着、調査潜航(第1490回)、相模湾向け発航
4月17日
相模湾初島南東沖着、訓練潜航(第1491回)
4月18日
海況不良により潜航取り止め
伊東港沖にて荒天避泊後、横須賀港向け発航
4月19日
機構入港(機構専用桟橋)、関係者13名下船

櫻井 利明(運航チーム司令)