「しんかい6500」研究航海 YK17-11C レポート
YK17-11C調査潜航
2017/5/29 - 6/14
『YK17-11C航海レポート』
写真1:南鳥島周辺海域のマンガンノジュール
海底一面にマンガンノジュールが密集している海底を「しんかい6500」で調査した。1回の潜航で4~5kmほど海底を航走したが、走れど、走れどマンガンノジュールの海底だった。海底鉱物資源の広大さを感じる潜航調査だった。
写真2:音響による広域地形調査
「よこすか」船上での音響地形調査。指をさしているモニタがマルチビーム音響測深機の画面で、その右側のモニタがサブボトムプロファイラの画面である。これらで得られる海底地形データや音響反射強度から海底のマンガンノジュールやマンガンクラストの分布状況を推測する。
2017年5月29日から6月14日にかけて南鳥島周辺海域で8回の調査潜航を実施しました。南鳥島周辺の海底といえば、海底鉱物資源が豊富に存在することで最近テレビニュースや新聞記事でも頻繁に話題に取りあげられる場所です。
本航海の目的も海底鉱物資源の調査です。南鳥島を中心とした広範囲な潜航調査ポイント8か所についてマンガンノジュールやレアアース泥などの産状を目視観察しながら岩石や泥の試料採取を実施しました。【写真1】
また、近年の音響探査器の性能向上により船舶で行われる音響測深データを解析することで海底の状況が推測できようになってきました。今回は、新たに取得する音響測深データや他船で得られた既存データ等からマンガンノジュールやマンガンクラストの有無や、その分布密度などを推測し、「しんかい6500」の潜航で観察される実際の産状と比較する調査も行われました。
船舶での海底地形調査は、マルチビーム音響測深機やサブボトムプロファイラ(SBP)【写真2】など、音響を利用して海底地形や海底堆積層の状態などを調査しますが、その音響の反射の強弱で海底の固さも推測できます。
今回実施した潜航調査では、海底一面にマンガンノジュールが敷き詰められた場所からほとんどノジュールの認められない場所まで、様々な分布の様子の異なる海底が目視観察されました。その結果、音響反射強度から研究者が推測したマンガンノジュールやマンガンクラストの分布状況と潜水船で観察される実際の産状とが、ほぼ研究者の推測した状況に近いことが確認されました。しかし予想と違った潜航もあり、今後、既存の音響データについて本航海での結果を元に再解析が行われるとのことです。
今回の調査航海は、潜水船の着水揚収作業には多少厳しい海況もありましたが、研究者が計画した調査は、予定通り完遂できたと思われます。
支援母船「よこすか」は、計画通り6月14日にJAMSTECに帰港し、「しんかい6500」で採取した多くのサンプルを持って研究者は下船していきました。
今後、採取された岩石試料や南鳥島周辺で実施した総距離4,800kmにおよぶ音響地形データの解析が進められるでしょう。分析結果によってどんな新たな発見が出てくるのか楽しみです。
『日本の最東端の孤島 南鳥島』
YK17-11C調査航海5回目の調査潜航(第1502回)は、南鳥島を構成する西側斜面の水深2,000mから900mまで地形地質観察及び岩石試料採取の潜航でした。島からはわずか2マイルと近く、潜航中の潜水船を追尾している支援母船「よこすか」からは、南鳥島が間近に見える海域での調査でした。
南鳥島は東京都の小笠原支庁小笠原村に属し、東京から南東約1,900kmの日本最東端の孤島です。島の面積は、1.5キロ平方メートルと小さく、周辺は白い砂浜とサンゴ礁が形成されています。【写真3】
約100年前には、カツオ漁業やヤシの栽培などで移住者もいたそうですが、現在は気象観測所があり、海上自衛隊の航空派遣隊と気象観測の関係者のみが駐在しています。当然、船や航空機の定期便など無く、一般の人がこの島を見る機会は、まず無いだろうと思われます。
「しんかい6500」の調査で南鳥島周辺には何度か訪れていますが、そのたびに白い砂浜が綺麗な南鳥島を眺めています。調査船で来なければ一生見ることが無い島だと思うと貴重な体験だと感じます。島を取り囲む白浜は本当にきれいです。一度は上陸してみたいものです。
『通算1500回の潜航を達成!』
写真5:運用当初の運航チーム
「しんかい6500」運用開始当初の頃の運航チーム。「しんかい6500」の運用技術を基礎から築いたメンバー。その運用技術やノウハウの伝承により、通算1500回の潜航を無事故で迎えることができた。
「しんかい6500」の記念すべき第1回目の潜航は、1990年6月5日から始まりました。そして2017年6月5日、南鳥島周辺海域の調査潜航で通算1500回目の潜航を達成しました。期せずして27年前の6月5日という全く同じ日付で1500回潜航の節目を迎えることができました。
写真は、今回の記録達成を祝して調査乗船中の運航チーム12名で撮影した記念写真です。【写真4】(3名は陸上業務で陸に居残り)
この記録達成の瞬間に「しんかい6500」運航チームの一員であることを大変光栄に感じています。
「しんかい6500」運航チームは、元運航チーム(OB・OG)だけでも20名を優に超しています。また建造に係わって下さった方々や陸上で運航支援や工務支援して頂いている方々も含めると数えきれない多くの方々のご支援あっての1500回達成であると感じます。第1回の潜航から無事故で多くの研究成果に貢献できたのも先輩方が、安全を基本とした運用技術やノウハウを基礎から築き上げ、しっかりした土台あってこそ成し得た記録であると感謝いたします。今後も長年築き上げてきたそれら技術の伝承に努め、未知なる深海を解き明かすべく更なる挑戦を続けていきます。
【潜航情報】
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6月1日 No.1497DIVE
- 潜航海域:南鳥島周辺海域
- 観察者:金子 純二(JAMSTEC)
- 船長:鈴木 啓吾
- 船長補佐:石川 暁久
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6月2日 No.1498DIVE
- 潜航海域:南鳥島周辺海域
- 観察者:大田 隼一郎(JAMSTEC)
- 船長:大西 琢磨
- 船長補佐:西郷 亮
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6月3日 No.1499DIVE
- 潜航海域:南鳥島周辺海域
- 観察者:大田 隼一郎(JAMSTEC)
- 船長:千田 要介
- 船長補佐:植木 博文
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6月5日 No.1500DIVE
- 潜航海域:南鳥島周辺海域
- 観察者:町田 嗣樹(JAMSTEC)
- 船長:千葉 和宏
- 船長補佐:石川 暁久
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6月6日 No.1501DIVE
- 潜航海域:南鳥島周辺海域
- 観察者:安川 和孝(東京大学)
- 船長:植木 博文
- 船長補佐:鈴木 啓吾
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6月8日 No.1502DIVE
- 潜航海域:南鳥島周辺海域
- 観察者:藤永 公一郎(東京大学)
- 船長:千田 要介
- 船長補佐:西郷 亮
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6月9日 No.1503DIVE
- 潜航海域:南鳥島周辺海域
- 観察者:飯島 耕一(JAMSTEC)
- 船長:千葉 和宏
- 船長補佐:石川 暁久
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6月10日 No.1504DIVE
- 潜航海域:南鳥島周辺海域
- 観察者:飯島 耕一(JAMSTEC)
- 船長:鈴木 啓吾
- 船長補佐:大西 琢磨
【航海情報】
- 5月29日
- 研究者13名乗船、サイパン出港
南鳥島周辺海域向け発航、船内安全レクチャ - 5月30日
- 調査海域着、XBT計測、プロトン磁力計投入、8の字航走実施
MBES広域地形調査開始 - 5月31日
- MBES広域地形調査(SiteA1,A2,A3海域の事前調査を含)
- 6月1日
- SiteB1海域着、XBT計測、MBES事前調査、プロトン磁力計揚収
調査潜航(第1497回)、プロトン磁力計投入、MBES広域地形調査 - 6月2日
- SiteA1海域着、プロトン磁力計揚収
調査潜航(第1498回)、プロトン磁力計投入、MBES広域地形調査 - 6月3日
- SiteA2海域着、プロトン磁力計揚収
調査潜航(第1499回)、プロトン磁力計投入、MBES広域地形調査 - 6月4日
- 整備日、MBES広域地形調査、XBT計測、MBES事前調査(SiteC1)
XBT計測、MBES事前調査(SiteC2) - 6月5日
- 8の字航走実施、SiteC2海域着、プロトン磁力計揚収
調査潜航(第1500回)、プロトン磁力計投入、MBES広域地形調査 - 6月6日
- SiteC1海域着、プロトン磁力計揚収
調査潜航(第1501回)、プロトン磁力計投入、MBES広域地形調査 - 6月7日
- 整備日、MBES広域地形調査
- 6月8日
- SiteA3海域着、プロトン磁力計揚収
調査潜航(第1502回)、プロトン磁力計投入、MBES広域地形調査 - 6月9日
- SiteD1海域着、XBT計測、MBES事前調査、プロトン磁力計揚収
調査潜航(第1503回)、プロトン磁力計投入、MBES広域地形調査 - 6月10日
- 8の字航走実施、SiteD2海域着、XBT計測、MBES事前調査
プロトン磁力計揚収、調査潜航(第1504回)、プロトン磁力計投入
MBES広域地形調査 - 6月11日
- MBES広域地形調査、船内時刻改正(-1h,日本標準時間となる)
- 6月12日
- MBES広域地形調査終了、プロトン磁力計揚収、横須賀港向け回航
- 6月13日
- 横須賀港向け回航
- 6月14日
- JAMSTEC入港、研究者13名下船
櫻井 利明(運航チーム司令)