「しんかい6500」研究航海 YK17-14 レポート
YK17-14調査潜航
2017/7/6 - 7/15
『YK17-14 Leg.1航海レポート』
2017年7月6日から7月15日にかけて2つの研究課題についてLeg.1とLeg.2の調査に分かれ調査航海が実施されました。
Leg.1調査は、今年4月に噴火活動を再開した西之島周辺海域で調査が行われました。調査の目的は、西之島特有の溶岩である安山岩マグマに関係するものです。
一般に海洋地殻は玄武岩で形成され、大陸地殻は安山岩で形成されると考えられており、伊豆諸島の八丈島や三宅島など他の火山島は、海洋地殻と同じ玄武岩マグマを噴出するのに対して西之島は、地殻が薄い海底で活動するにも関わらず安山岩マグマを噴出する特異な火山です。
海に覆われていた太古の地球で大陸地殻を形成したのは、西之島のような安山岩マグマを噴出する多くの火山群だったかもしれないという新仮説が提示されたのです。
今回の調査では、その仮説を検証すべく、西之島の北側に位置する土曜海山(海底火山)で「よこすかディープ・トウ」(YKDT)による海底観察および岩石採取が行われました。土曜海山もやはり地殻が薄い海底で火山活動によりできた海山です。西之島と類似した特徴はあるのか?採取される岩石の成分は何か? YKDTによる曳航調査が2日間に渡り実施されました。
7月8日及び9日は、午前と午後の2回、計4回のYKDT曳航調査を実施しました。4回の調査では、土曜海山の北側海域、東側斜面、西側斜面そして山頂付近と尾根の水深約2800mから山頂の水深約400m付近までの範囲を調査しました。
いずれの調査も垂直に近い急崖が頻繁に確認されるなどエキサイティングな曳航調査でした。この曳航調査では、岩石採取のためYKDTにドレッジャーとよばれる装置を取り付けました。ドレッジャーは、厚い鉄板で製作した四角い箱状のもので重量は約70kgです。YKDTから長さ5mのロープで吊り下げた状態で海底を掻きながら曳航し、四角く開いた開口部で岩石を採取しながら進みます。【写真:1,2】
今回実施した4回の調査でも多くの岩石の採取に成功しました。これらYKDTで得られた映像データや岩石試料は、帰港後に陸上で詳細な分析が進められるとのことです。今回の調査で得られた多くの試料が、大陸地殻形成における新仮説の検証につながることを期待しています。
YKDT調査終了後の7月9日夜間と10日早朝には、支援母船「よこすか」で西之島に2マイルの距離まで接近し、噴火活動の現状調査も実施されました。日中には約1分間隔で灰色の噴煙を上げる噴火活動と大きな噴火音が観察されましたが、夜間は昼間では確認できなった真っ赤な噴石が、四方八方に飛び散る光景と山の斜面を溶岩が滑り落ちる状況も観察することができました。間近で観察した噴火活動は、研究者も乗組員も大変興奮する調査となりました。【写真:3】
西之島といえば、2011年に小笠原群島が世界遺産(自然遺産)に登録された際に硫黄島(北硫黄島・南硫黄島)や西之島も併せ登録されました。今回の調査では、西之島を間近に観察でき、労せずして訪れた世界遺産がひとつ増えた形となり、少し得した気分になった調査航海でした。7月10日の昼には、西之島周辺海域の音響測深機(MBES)広域地形調査も終了し、Leg.2海域である小笠原海溝に向け発航しました。
写真3:西之島の噴火活動 日中と夜間今年4月に火山噴火を再開した西之島。YKDT調査が終了した夜間に島まで2マイルの距離まで接近し、噴火活動の観察を行った。日中に観察される噴煙を上げる姿も迫力があったが、夜間の観察では、真っ赤な溶岩噴出と斜面を滑り下りる溶岩も観察され更に迫力を増した。
『YK17-14 Leg.2調査レポート』
7月10日夕刻からLeg.2調査が開始されました。Leg.2調査は、前弧マントル掘削計画で地球深部探査船「ちきゅう」による掘削計画があり、その掘削候補地を選定するため小笠原父島東方の小笠原海溝で岩相分布の事前調査が行われました。
この海域の水深6000m以深では、はんれい岩やマントルかんらん岩が露出していることが想定されており、かつての海洋モホ面(モホロビチッチ不連続面)を直接観察できる稀な海域と考えられています。
7月11日から13日にかけて「しんかい6500」による3回の潜航調査が行われました。深部の岩石を狙った調査のため3回の潜航とも水深6500mの深場での調査潜航となりました。調査潜航は、1回目の父島の北東沖から始まり、そこから調査海域を徐々に南下させた3海域で行われました。
2回目の調査潜航までは、海況も安定しており順調な調査が進み、採取された岩石試料も研究者の予想した岩石が、続々と採取され喜ばれていました。
3回目の調査潜航は、父島の東方海域で実施しましたが、水深6500mの海底に着底し、調査が開始された1時間後に調査海域の南方にあった大きな雲のかたまりだった低気圧が勢力を拡大させ熱帯低気圧に発達しました。
調査海域も影響が出始め、風が強まり波浪も高くなってきたため「しんかい6500」に早めの調査打ち切りを指示しました。
『しんかい!海況悪化のため30分後に調査を打ち切り、離底・上昇を開始せよ!』
写真4:天候急変よるハードな揚収作業
天候急変により途中浮上した潜水船。荒れた海面で必至に潜水船に吊り上げ索を取り付けるスイマー。荒馬に乗ったロデオ状態となりながらも、何とか吊り上げ索を取り付け、潜水船も無事に揚収された。
写真5:回航中の潜水船格納庫
本年度4月より自律型深海探査器「じんべい」の運用も運航チームの業務に加わった。今回のYK17-14航海終了後に「じんべい」の試験航海が予定されているため「じんべい」も同時搭載され、YKDTや潜水船調査の合間を利用して、次行動のため「じんべい」の整備作業も進めた。
この連絡からです。離底までの30分間は、怒涛の勢いでマニピュレータによる岩石サンプリングが始まりました。わずかな時間でも多くの岩石試料を採取したいという潜航者3人の熱い気持ちが伝わってくるようなサンプリング作業でした。結果的に、この潜航が一番多くの岩石試料を持ち帰ってきました。
深場の調査だったため離底から浮上まで2時間半近くの時間を要します。「しんかい6500」が浮上した時には、予想以上に海況が悪化しており、スイマーが潜水船から落ちそうになるほど、久しぶりにハードな揚収作業となりました。【写真:4】
しかし潜水船も無事に揚収され、短い時間で採取した岩石試料も研究者の想像以上の成果があり、狙っていた岩石の他に想定外の興味深い岩石も採取されたとのことです。パイロットの怒涛のサンプリング作業が、功を奏した結果となりました。
Leg.2調査は、最終日の調査潜航が海況悪化により途中浮上となりましたが、計画された3回の潜航を大きな成果と共に無事終えることができました。
7月13日潜水船揚収後「よこすか」は、熱帯低気圧から逃げるように北上を開始し、入港予定の東京港晴海ふ頭に向け発航しました。晴海ふ頭向け回航中の7月14日には、Leg.1研究者およびLeg.2研究者による船内セミナーを開催して頂き、本調査航海における目的や研究成果について速報という形でお話を聞くことができました。
調査航海での成果について話を聞くことは私達運航チームや母船乗組員にとっても大きな励みになります。
7月15日午前中に東京港晴海ふ頭に入港し、YK17-14航海の研究者は多くの岩石試料と共に下船し、調査航海が無事に終了しました。
【潜航情報】
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7月11日 No.1505DIVE
- 潜航海域:小笠原海溝陸側斜面
- 観察者:道林 克禎(静岡大学)
- 船長:植木 博文
- 船長補佐:鈴木 啓吾
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7月12日 No.1506DIVE
- 潜航海域:小笠原海溝陸側斜面
- 観察者:岡本 敦(東北大学)
- 船長:大西 琢磨
- 船長補佐:千葉 和宏
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7月13日 No.1507DIVE
- 潜航海域:小笠原海溝陸側斜面
- 観察者:針金 由美子(産業総合研究所)
- 船長:鈴木 啓吾
- 船長補佐:千田 要介
【航海情報】
- 7月6日
- 研究者14名乗船
横須賀出港(JAMSTEC専用1号桟橋)、調査海域向け発航 - 7月7日
- 調査海域向け回航(土曜海山)
夕刻、調査海域着、XBT計測、MBES事前調査、MBES広域地形調査 - 7月8日
- 午前YKDT曳航調査(第198回)、XBT計測
午後YKDT曳航調査(第199回)、MBES広域地形調査 - 7月9日
- 午前YKDT曳航調査(第200回)
午後YKDT曳航調査(第201回)、MBES広域地形調査
西之島の火山活動観察(夜間) - 7月10日
- 西之島の火山活動観察(早朝)、Leg.1海域のMBES広域地形調査
Leg.1海域を離脱、Leg.2海域到着、XBT計測、MBES広域地形調査 - 7月11日
- MBES事前調査、XBT計測、「しんかい6500」調査潜航(第1505回)
プロトン磁力計投入、MBES広域地形調査 - 7月12日
- MBES事前調査、プロトン磁力計揚収、「しんかい6500」調査潜航(第1506回)
プロトン磁力計投入、MBES広域地形調査 - 7月13日
- MBES事前調査、プロトン磁力計揚収、「しんかい6500」調査潜航(第1507回)
潜水船揚収後、東京港向け発航 - 7月14日
- 東京港向け回航
- 7月15日
- 東京港晴海ふ頭入港、研究者14名下船
櫻井 利明(運航チーム司令)