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「しんかい6500」研究航海 YK18-09 レポート

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YK18-09調査潜航

2018/7/17 - 7/20

『YK18-09航海レポート』

今回の調査は、7月17日から7月20日と短期間の調査ですが、ミッションは盛りだくさんの調査となりました。研究目的は、深海特有の環境下におけるコンクリートの化学組成や物理的な変化を長期に渡り、評価試験することです。これまで陸上や浅海域で得られた評価結果はありますが、深海域での試験データは存在しません。今後増加すると考えられる海中構造物の安全性を評価するうえで貴重なデータとなります。

本航海は、その第1段階として南海トラフ北縁部の3000m以深の海底にコンクリート試験片を長期設置するためのプラットフォームを設置のうえ、「しんかい6500」でコンクリート試験片数組をプラットフォーム上に据え付ける作業が計画されました。

プラットフォームの海底への設置は、安定した状態で設置することが求められるため、海底までの高度が確認でき、設置場所の海底の状況を映像で確認できる「よこすか」ディープ・トウ(以下、YKDTという)の出番となりました。この様な大型の設置物については、海面から自由落下させる方法もありますが、海面付近の潮流や設置物の下降中に受ける水流等の影響で予定した地点に安定した格好で設置することは、かなり難しい作業となるためYKDTにぶら下げて、切り離す方法が選択されたのです。

7月17日東京晴海ふ頭を出港し、調査海域である南海トラフ北縁部へ向けました。翌18日の早朝に調査海域に到着し、プラットフォーム設置に適した海底地形を選定するためのMBES事前地形調査を実施し、その地形データから平坦で泥の堆積が少ないだろうと推測される水深3520mの設置場所を決定しました。

YKDTに吊り下がったプラットフォーム
写真1:YKDTに吊り下がったプラットフォーム
YKDT下の金属で製作された四角い物がプラットフォーム。YKDTは、これまでの様々なオペレーションを実施してきたが、これほど大きな物体の海底設置作業は初めてである。このプラットフォームは、長期の評価試験終了後には、回収する予定である。
海底設置作業を終え、帰還したYKDT
写真2:海底設置作業を終え、帰還したYKDT
プラットフォームを無事に海底設置したYKDT。YKDTから下に延びているパイプは、プラットフォームがYKDTの下部で触れ回るのを防止する他、切離し時に安定した姿勢で海底へ落ちることを目的に取り付けた。

設置場所が確定したら、いよいよYKDT本体下部にプラットフォームをぶら下げて、設置作業の開始です。【写真1】

これまでもYKDTでは、様々な作業を実施してきましたが、これほど大きな設置物の作業は、初めてです。慎重にデッキ作業を進めてYKDTのウィンチケーブルを水深3500mの海底まで巻き出していきます。設置ポイントへの誘導は、「よこすか」船長の操船次第となります。

海底に到着したYKDTのカメラ映像には、転石が所々見られる砂泥の海底が映りました。海底も平らで大きな岩や障害となる物も無いことが確認できました。

YKDTも研究者が指定した設置地点にドンピシャに誘導され、YKDTをゆっくりと海底に近づけ、高度が2m程度のところでリリーサー装置を作動させ、プラットフォームはゆっくりと落下、安定した姿勢で海底に着座しました。

翌7月19日は、「しんかい6500」により海底設置したプラットフォームでの作業です。プラットフォームへの接近は、潜水船の前方探査ソーナーで反応が確認できたため容易に接近することができました。「しんかい6500」での作業は、YKDTから吊り下げていた吊りロープ4本をマニピュレータで切断のうえ回収し、その後コンクリート試験片6個を1組とした収納ケース6箱をプラットフォーム上面に設置し、海底の潮流をモニタリングするためのADCPをセットして終了です。全ての作業を終えた「しんかい6500」は、プラットフォームから少し離れて、試験片の設置状況の写真撮影やビデオ映像を収めて帰還してきました。

今後、「しんかい6500」や「ハイパードルフィン」、「かいこう」を用いて定期的にコンクリート試験片を回収し、評価試験が進められる予定です。なおプラットフォームは、長期の評価試験終了後には、無人探査機にて回収する計画です。

【潜航情報】
    7月19日 No.1523DIVE
  • 潜航海域:南海トラフ北縁部
  • 観察者:野村 瞬(JAMSTEC)
  • 船長:千葉 和宏
  • 船長補佐:松本 恵太
【航海情報】
7月17日
YKDT艤装作業、コンクリート試験片プラットフォーム準備
研究者3名乗船
晴海ふ頭出港、調査海域向け発航
7月18日
調査海域着、XBT計測、MBES事前調査
YKDT調査(第211回)、YKDTによりプラットフォーム海底設置作業
YKDT⇒潜水船へ艤装替え作業
7月19日
調査潜航(第1523回)、横須賀港向け発航
7月20日
機構専用桟橋入港、研究者3名下船

櫻井 利明(運航チーム司令)